34 あれでよかったんだね
今更どうしようもないけれど。
ミカゲの大切な人との再会が、本当にあれでよかったのかと悩んでしまう。
……いや、よかったはずないよね。
「メイ、こいつら全部処分でいいのか?」
「ああ……うん」
湖の中にぶち込んだ寝具たちを引き上げるミカゲ。
私は迷いながらも頷いた。
そしたら「気味悪いし、再利用もなんだから燃やすわよ」とティナが手っ取り早く風魔法で布を乾かした後に、どう見ても過剰な火魔法をぶっ放した。
「火力の調整ってやっぱり苦手だわ」
これだから焚き火を起こす際にもティナの魔法は頼らないのだ。
本当に燃やしてしまってよかっただろうかと少し不安になるけど……降霊術は一つの魂につき一度まで。残していたところであれにもう使い道はない。
だけどどうにかやり直せないかな、なんて考えてしまう。
もっと心の準備をした上で、ゆっくり話せる時間を作ってあげたかった。
もっと早くお師匠さんの魂をみつけられればよかった。私にもっと力があればよかった。
いや、むしろ……
『お前にかかった呪いの話なら、術者は私で間違いないよ』
あんな事実を聞かせるぐらいなら、いっそ降ろさない方がよかったんじゃないか。
「巫女様、こんなところにいたのか」
寝具を燃やしていた火がちょうど消えたころ、ハンジさんが訪ねてきた。
「おはようございます。どうされましたか?」
後片付けをティナ達に任せて、ハンジさんに向き合う。
本当はスズワさんとあんなことになったばかりで少し気まずい気持ちがある。ハンジさんは彼女から既に話を聞いただろうか。
「ちょっといいかい、村の連中が巫女様に、昨日の神の御業を自分も頼みたいって、列になってうちに来ててな」
神の御業……降霊術のことか。
「わかりました。皆さん、昨日の祭壇でお待ちいただくよう伝えてもらえますか? すぐに向かいます」
「わかった。皆のためにすまないな」
ハンジさんに昨日までと変わった様子は何もない。
むしろ昨日までより穏やかで、やさしい顔に見える。
「それと今朝のこと……スズワが申し訳ないことをした」
「あ、いや……」
「巫女様に無理を言うなとは伝えてあったんだが……。スズワのやつ、あの日は母親と喧嘩別れしていてな。それがずっと後悔として残ってるんだ。そのせいでどうも諦めがつかねぇらしい。俺からももう一度キツく言っておくから、許してやってくれないか」
「そうなんですね……いえ、私の方こそ悪かったんです」
「どうして? ないもんはないし、できねーもんはできねー。仕方ねぇだろ。神の御業だ、ほいほいお目にかかれるもんでもねぇとわかってるよ」
そう言ってもらえるのはありがたい。だけど、
「でも……結局できないなら、最初から希望なんてない方がよかった」
今私を待っているという人々にしたってそうだ。
その中の何人が真に魂の情報として使えるものを持っていて、そのうちの何件を成功させることができるだろう。
また今朝のスズワさんのようなことを繰り返す場合もあるかもしれない。そう思うとぐっと喉の奥がつかえるようだった。
「いいや、んなこたねぇ。何の希望もねぇのが一番辛いに決まってる」
巫女様、とハンジさんは力強く私の肩を掴む。
「今回スズワは……俺たちは神の御業にはあやかれなかったかもしれねぇ。だが俺は……いや、昨日あの場にいた大半の人間は、巫女様からすでに大きな恩恵を得たよ」
『今生きているあなたたちが幸せなら、それだけで私たちはとっても幸せ』
「あの言葉は……ここに生きる全員にとって、かけがえのない救いだった」
ハンジさんの目がやさしく細められた。
「ありがとう」
言葉が貼り付いて出なくなった喉を通って、冷たい空気が胸の中に満ちていく。
お礼なんか言われてしまっていいんだろうか。
昨日降霊術を使ったのは自分のためだ。ゲンゾさんのためでも、集落の人達のためでもなかった。
しかもそれが救いとなったのは、私の力なんかではなく、タマリさんのあの人柄あってこそだ。
決して私がすごいわけじゃない。わかってる、けど。
「じゃあ戻って連中に伝えてくるよ。祭壇の前だな」
そこでミカゲにやさしく背を叩かれて、慌てて小さく頭を下げた。
「……奥さんのこと降ろしてあげられなかったのに。お礼言われちゃった」
私という人間は、とても現金な奴だ。自分への正しい評価ではないとわかっているはずなのに、さっきまでの喉の奥のつかえがとれている気がする。
「よかったじゃねぇか」
ミカゲからはあっさりそんな返事が返ってきた。
「よかったと言っていいのか……」
「……そういえば忘れてたな。俺からも礼を言うわ」
「なんの?」
「久々に師匠に会わせてくれた礼だ」
なんか死ぬ前より元気そうだったぜ。とミカゲが笑う。
「……会えてよかった?」
聞けてよかった話ばかりでもないのに。言外にそう含ませて尋ねたけれど、
「ああ。相変わらずそうで安心した」
ミカゲの言葉にはそれ以上も以下も無さそうだった。
(そうか、そんなもんでいいのか)
なんだか拍子抜けしつつ、つられて笑った。
私の行動が誰かの救いになってもならなくても仕方がない。
私は私にできることをやっていこう。一つずつ、一つずつ。
それから私は祭壇の前で、夜が更けるまで降霊術を使いまくった。
一日でこんなに儀式を繰り返したのは初めてだ。
当然力は擦り切れるし疲労も溜まる。終盤は目の前がクラクラするほどだったけど、苦ではなかった。
喜んでくれる人を見れば心が満たされたし、私にこの力があってよかったと思えた。
——ただ一つだけ気になった。
何度繰り返したところで、見える景色はいつもと同じだったのだ。
眩しいぐらいに輝かしく、澄み切った青い世界。水面は鏡のように私を映し、私以外にはいつだってただ一人、白い影がそこにいる。
これが正しく降霊術の創り出す魂の世界だとするならば、あの暗闇の世界は一体なんだったのか。
私は一体……どこに迷い込んでいたんだろう。
体調を崩して昨日一昨日と更新が空いてしまいました!すみません!
さっさと風邪なんてやっつけろ☆の気持ちで☆☆☆☆☆のところをぽちぽちしてやってもらえたら嬉しいです!




