表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
31/40

31 苦戦

 

 アルトとティナをそのまま湖に待たせて、私とミカゲは一度ハンジさんの家に戻った。

 それから置きっぱなしにしてあったある物を抱えて、再び湖に戻る。

 

「あー! なんか知らないうちに物が増えてるなと思ったら……それ、例の部屋から持ち出してきたものってこと!?」

「そういうこと」


 真っ白なシーツに枕に布団。全部、今朝『相手の一番好きなところを言わないと出られない部屋』を出る際に、私が腕いっぱいに抱えてきたものだ。


「実際に持って出られるかどうかは賭けだったけど、上手くいった」


 今朝ハンジさんの家で目覚めたときも、ちゃんと抱き枕よろしく抱きしめていた。

 

「そうか、これを使った降霊術で作者を呼び出せるってことだな!?」

「うん。これらが作者の魔力から創り出されているアイテムだとしたら、魔力を魂の情報として作者の魂を辿ることができるはず」

「でもそれって作者が既に死んでる場合は、でしょ? もちろん若かりしタマリさんの時代に流行った本って言うなら、作者も死んでる可能性は高いけど……」

「失敗したらそれまでだ。そいつが死ぬのを待つ」

 

 これ以上はパーティーを巻き込めない。それは私とミカゲの考えで一致している点だ。これでだめなら当分は諦める。

 

「そもそも魂に繋がりもしないうちは、何度だって試せるしね」

 

 降霊術はあくまでこの世のものではない魂に呼びかけるもの。だからこそ、誰かが魔法で私たちに攻撃をしていると思い込んでいたときには、降霊術を試してみようなんてことは思いつきもしなかった。

 

 この集落へ来たことで私達は確実に前進している。

 でもここが、王手か降参かの別れ道。


 ——正念場だ。

 

 絶対に後で回収しますので。と、誰へというわけでもなく心の中で誓いを立てて、部屋から持ち出したブツを直接、湖の中へ放り込んだ。

 今回は魂の情報が大きすぎるので、湖そのものを儀式の道具とみなす。

 祭壇だのなんだのは降りてくる霊魂への敬意というか、まぁほとんどパフォーマンスのようなものなので今回は省略。ここが省略できると準備は一気に簡単になる。


「……いくよ」


 ミカゲと目を合わせて頷き合う。

 一つ息をついて、清めた地面の上に描いた陣に入る。降霊の祝詞を唱え、目を瞑った。


 瞼の裏に広がる暗い世界。

 それが徐々に白みだし、景色が一転する。

 

 ……そう、これまでずっとそうだった、のに。

 

「——!?」


 急に別世界に放り出されたような感覚はそのままだ。

 だけどいつもの晴れ渡るような空と水はどこにもなくて。

 

 とにかく暗く、深い、夜の海のような世界が広がっていた。


(は……?)

 

 何も映さない真っ黒な水面と、瘴気漂う闇の空が視界を覆う。


「うわっ」


 しかも気を抜けば足がずぶずぶと沈んでいく。こんなことになるのも、こんな場所に来るのも初めてだった。


「なにこれ……」


 私は一体何に繋がってしまったのかと、恐怖が迫り上がる。

 

 とにかく足が埋もれないように歩いた。動いてさえいれば平気だった。

 けれどどこまで行ってもただひたすらに闇が広がるばかり。

 何か触れてはいけないものに触れているんじゃないかと、常に怯えがちらついた。

 正直今すぐ終わりにしてしまいたい。諦めて戻ってしまいたい。

 

(でも何の成果もないまま帰ることなんてできない!)

 

 これが成功なのか失敗なのかも何もわからない。作者の魂は本当にこのどこかにあるのか、あったとしてそれは私の手に負えるようなものなのか。


 不安に駆られながら歩き続けた。

 不自由な足場を何分、何十分。

 疲れるような肉体はないのに息が上がって、頭が締め付けられるような頭痛にも襲われるようになってきた。すると、

 

「苦戦してんのか?」


 どこか遠くから、ミカゲの声が降り注いできた。

 

「ちょっとね」


 大分見栄を張った。精神世界の私がこれなんだ、実際の肉体だってもうとっくに悲鳴を上げているんだろうに。

 

「なぁ……例えば、俺の中にあるまじないが情報になったりはしねぇのか?」

 

 答える前に、ざぶざぶと水を掻き分けて進む音が聴こえてきた。

 

「は? いや、そもそもミカゲの魂が混入してくるのは——!」


 まずいって! ……と、慌てて伝えようとしたその言葉の先は、一瞬にして奪われた。

 

 三百六十度どこまでも果てなく闇が広がる暗鬱とした世界に、文字通り一筋の光が見えたのだ。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ