27 裏切り
好きな人と両想いになるおまじない……もちろん私にそんなおまじないをかけた覚えはない。
というか私がそのまじない本に触れたことがない時点で、そんなことは不可能だ。
部屋は書かれた指示が読めないと成立しない。だけどなんということはない。
まじないの方法が書かれた本を読み、そのまじないを自分自身にかけた……術者が必ずその部屋にはいるのだから。
『仮に指示を読めねー人間二人があそこに捉えられたとしたら……悲惨だろ』
……以前ミカゲが言ったそんな状況は、端からありえなかったんだ。
まじないの術者は当事者二人のどちらか。
私でないなら、術者はもう決まっている。
(あんなに犯人に一緒に腹を立てたのも、眠れないことに悩んだのも……全部演技だった?)
キスも、毒も、抱擁も、ミカゲだから受け入れられた。
だけどそれが……ミカゲ本人に意図的に作られたものなのだとしたら、苦しい。
まさかこんなことになるとは思わず、どういう顔で後ろを振り返ればいいのかわからない。
「なぁメイ、あのな——」
ミカゲがこちらに近づく足音がする。無意識のうちに体が強張った。
ミカゲのことを怖いと思うのなんて初めてだ。
「巫女様!」
だけど身構える私の予想に反して、まず最初に私の肩を掴んだのはスズワさんだった。
「今の降霊術ってやつ、私のお母さんでもできない!?」
「えっ……」
勢いのままに迫られて、思わず少しのけぞった。
それに続いて押し寄せる人波が「私も」「俺も」と同じように声を上げる。
「た……魂の情報さえあればできるけど……何かありますか? 遺髪や遺骨みたいな、その人の体の一部とか……」
お世話になっているし、私にできるお手伝いをすること自体はもちろん構わない。
でも今は正直、みんなに押しのけられて遠のいたミカゲのことが気になる。
そんな心ここにあらずな私をスズワさんはがくがくと揺さぶった。
「逃げるのに必死だったの。何も残ってないわ……! 他には? どうにかできる方法はないの!?」
「あ、あとはその人の魔力が籠ったものとかが使えなくもない……んですけど……」
「魔力がこもったもの……?」
「まったく同じ器が二つとないように、まったく同じ形の魔力も世の中には存在しないと言われています。だからその情報をもとにすれば、術が使える場合も……」
提案したものの、言っているうちに後悔した。
こちらの方は肉体から得る魂の情報に比べてかなり成功率が低い。希望を持たせるだけになるかもしれない。
……だけど一度触れてしまったからにはもう後戻りは難しい。
「よくわからないけど……でもお母さんは魔法使いでもなんでもなかったし……」
「……魔力は言い方を変えれば呪力でもあります。それは誰しもに備わっている力で、皆が無意識に使っているとされています」
「無意識に?」
「ええ。まじないも……祈りもそう。……例えばお母さんが大切に使っていた物や、スズワさんを想って繕った物とか……そういうものがあれば、もしかしたらそれには魔力がこもっているかも……」
それまで暗かったスズワさんの表情がみるみる明るさを取り戻した。
「探してみる!」
そう言ってすぐに家の方へ駆けだしていこうとするのを慌てて引き留める。
「待って! ただ……そういうものがあったとして、降霊術に使えるほどの魔力がこもってるとは限らない。……ぬか喜びになるかもしれない。それでも——」
「それでもいい! もう一度お母さんに会えるかもしれないなら……! 一度でいい! お母さんと話したいの!」
「……わかりました」
スズワさんと同じように、他の人たちも方々へと散っていった。
みんな会いたい誰かがいるということだ。
私の力はこういう人達のためにこそあるべきなのかと、村での扱われ方とのギャップでようやく気が付いた。
ならばできるだけ力になりたいと、素直に思う。私にしかできないことなら猶更。
思えば私も少しは聖職者らしくなってきたものだ。
愛されるため、価値があると思われるため、自分の居場所を作るため……そんな自分本位な理由で巫女の振る舞いをしていた頃とは違う。
(私ってちゃんと巫女なんだな……)
そう自分に感心すると同時に、 〝両想いになるおまじない〟なんてくだらないものに悩んでいることが急にあほらしく思えてきた。
死んでしまった大事な人に会いたい、一度でいいから話したい。そんな悲愴な願いに比べたら、今の私の状況なんてどうということはない。
「メイ、話がある」
集落の人達がいなくなれば当然、私とミカゲの隔たりもなくなる。
結局心の準備をする暇はなかったけれど、改めて向き合ってみると頭の中はしゃっきり冷えていた。
——話、私もあるよ。




