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10.大惨事じゃねーか

 宿での朝食時、私達からの説明を聞いたアルトは、


「えーーーー!? お前らキスしたのか!?」


 と大声で騒ぎ立てた。予想はついていたけれど、真っ先に私たちの身を案じてくれたティナとは雲泥の差のリアクションである。

 しかも「いくらなんでも他人の指示でキスなんかするか普通~? お前ら実はデキてたのか~?」なんてゲラゲラ笑うもんだから次の瞬間にはミカゲにしばきあげられていた。



 ◇



「いい? 当面の私たちの目標は、その部屋の正体を突き止めること。犯人探しと並行してね」

「面目ないです」

「メイにもミカゲにも心当たりはねーのかよ」

「あったら苦労しねぇよ」


 異次元レベルだという魔法使いにも、覗き見趣味のド変態にも当然心当たりはない。

 私やパーティーへの怨恨という話になるともはや、あるところにはあるかも、ぐらい。

 

 今日の私たちはひとまず二人ずつに分かれて、街の中で情報を探すことにした。


「それじゃ、私達は魔法協会支部と冒険者ギルドに行ってくるから」

「ああ、頼む。俺らは図書館に行く」


 どう分かれようかとか話し合いもなく、当たり前のように私はミカゲと一緒に行動する流れになった。

 たしかにいつも、分かれて行動ってなったらなんとなくミカゲと二人でいることが多かったけど……今日ばかりはさすがに気まずい。

 かといって拒絶するのも違うし、おすまし顔でミカゲの隣を歩くしかなくなった。


「……メイ」

「な、なに?」


 私って、あのお酒を飲んでミカゲになんて言ったんだっけ。

 そんなことを考えていたところで突然名前を呼ばれたもんだから、若干声がひっくり返った。

 そんな私をミカゲは一瞥だけして、

 

「一昨日からほとんど寝てねーんだ、お前は宿に戻って寝ててもいいぞ」

「え!?」


 自分だって寝てないくせに、ぶっきらぼうにそう言う。

 気持ちはありがたいけど……

 

「寝られないよ。またあの部屋に連れていかれるかもしれないと思うと……」

「だからってずっと寝ないわけにもいかねーだろ。……とりあえずこれまでのあれが起きたわかりやすい条件は、時間が夜だったこと、そんで俺たち二人がどちらも眠っていたことだ。意味があるかないかはわかんねーがとりあえず対策として、お互いの睡眠時間をズラしてみるしかねぇ」


 対策の立て方は理解出来る……けど、


「それでもし、ミカゲ以外の人とあの部屋に連れていかれることになったら……?」


 もし狙われているのが私で、もう一人は誰でもいいとかなら……これまでのパートナーがたまたまミカゲだっただけで、次もそうとは限らないんじゃ。

 

「……? いや、それはまぁないだろ」

「絶対ないとは言えないじゃん!」

「そりゃ、まだ可能性がゼロとは言えねーが……」

「でしょう? どうするの、ティナが聞き込みしてくれてる間に暇になって居眠りし始めたアルトと、あの部屋で目覚めたりしたら……!」


 言うなればアルトに限らず、世の中にはまだ寝てる人、今から眠りにつく人、いろんな人がいる。

 さすがに私達にまったく無関係な人までをも無差別に巻き込むようなものだとは思いたくないけど……私と、そういう今眠っている〝だれか〟を連れ込むだけの仕掛けだという可能性も完全否定はできないじゃない?


 そして、もしそうなら私は二度と眠れない。考えるだけでもゾッとする。

 

 もちろんミカゲだったらいいとか、そんなことはない。昨日の夜の記憶なんて、消せるならいっそ消してしまいたいぐらいだ。

 ただ、一緒に閉じ込められるのが赤の他人でも、アルトだったりティナだったりしても、彼らとキスとかそれ以上のことをするなんてのは――……考えられない。

 穢れがどうとかそういう話でもなくて。なんだろう、自分でもはっきりと理由はわからないけど、全身が拒絶する感じ。


「……アルトでも困るか」

「困るよ、そりゃあ」

 

 誰でも困る。ミカゲでも困る。

 でも……もし絶対に誰か一人を選ばなきゃいけないなら、ミカゲを選ぶ。

 

「ミカゲは? 一緒に閉じ込められるのが私以外でも気にしない? アルトでも平気?」

「大惨事じゃねーか」


 平気なわけねーだろ、と露骨に顔をしかめながらミカゲが続ける。

 自分が平気じゃないくせになんで私なら平気だと思ったのか。同じことでしょうが。

 

「……かといって、この先当分眠らねぇってのは無理な話だろ」

「それはそうだけど……」


 困ったように周囲に視線を向けるミカゲが、ふと隣家の屋根の向こうを眺める。

 周りの建物より少し高く突き抜けた、十字の飾りが目立つ建物がそこにあった。

 

「……問題の一つにあるのは、メイの退魔の力が作用していないってことだ。なら……他の退魔の力を頼ってみるのもいいんじゃねーか」

「もしかして教会の退魔結界をあてにするってこと……? 私、完全に異教徒だけど……」


 十字架を掲げるのは、この中央大陸で二千年以上前から信仰されている女神、ルク・イルミナの教徒の証だ。

 私自身は女神様の否定なんてのはしない。これは私の国で根付いていた価値観でもあるけど、その土地土地によって異なる神がいて当たり前だという考えだから。

 しかし、


「イルミナ教の教義では、女神様は世界に唯一の絶対神なんでしょう?」

 

 こんなに巫女まる出しで、教会の中なんて入れてもらえるものだろうか。嘘でも「これからは女神様に仕えます」なんて言えないし。


「追い出されんなら、女神ってのは随分心が狭ぇんだなっつって戻ってくるだけだ。とにかく行くぞ」


 おお……こんなとき無宗教者は怖いものなしだ。

 なんだか後ろめたい感じがあるけど、他に妙案があるわけでもないし。仕方なくミカゲに引っ付いて教会に向かった。


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