第8話「特進クラスの洗礼」
入学式は、あっけなく終わった。
広い講堂に数百人の新入生が集まり、学校長らしき老人が長い挨拶をした。内容はほとんど覚えていない。隣に座ったトモタニが何度か欠伸をこらえていたのだけ記憶している。
クラス分けの発表があったのは、式の後だった。
魔法特進クラス。俺とトモタニの名前が、同じ紙に並んでいた。
「よかった」トモタニは小声で言った。「知り合いがいる」
俺も同じ気持ちだったが、黙って頷いた。
魔法特進クラスの教室に入ると、既に半数ほどの生徒が席についていた。
一目見て、わかることがあった。
全員同じ制服を着ているのに、雰囲気が違う。髪型、姿勢、顔つき。王都やその近隣で育った子供特有の、垢抜けた空気がある。田舎から出てきた俺やトモタニとは、何かが違った。制服では隠せないものが、確かにあった。
俺たちが席を探していると、近くに座っていた男が声をかけてきた。
「どこから来たの」
愛想のいい聞き方ではなかった。値踏みするような目つきだった。
「グリクから」トモタニが答えた。
男は隣の友人と顔を見合わせて、小さく笑った。
「グリクって、あの田舎の? よくここまで来られたね」
トモタニの顔が少し強張った。俺は横から軽く肘で突いた。
気にするな、という意味だ。
前世で三十六年生きてきた。職場でも、こういう人間は何度も見てきた。相手にするだけ時間の無駄だ。
「まあ、田舎ですね」俺は笑顔で返した。「でも魔法は王都でも田舎でも同じように使えるので」
男は何か言おうとしたが、言葉が出なかった。
トモタニが小声で「うまいな」と言った。
午前中は座学だった。
魔法理論、歴史、異種族文化論。中央魔法学校では魔法だけでなく幅広い教養を学ぶらしい。田舎の塾では聞いたことのない内容も多く、俺はスキルツリーを確認しながら授業を聞いた。
知能の項目に、担当教師の顔が並んでいた。スキルツリーの新機能は、どうやら「この人物から何が学べるか」を示しているらしい。少しずつ、仕組みがわかってきた。
午後は運動だった。
体を動かす授業は、久しぶりだった。走る、跳ぶ、基礎的な体術。都会育ちの生徒の中には明らかに運動が苦手な子もいて、意外と俺は上位に入った。田舎で体を動かしてきた分、基礎体力はある。
トモタニも運動は得意らしく、隣で淡々とこなしていた。
夕方の課外学習で、生徒は適性ごとのグループに分かれた。
火、水、風、土、光、闇。六つの属性グループが、それぞれ別の教室へ向かっていく。
「じゃあ、また後で」トモタニは火のグループに向かった。
俺は水のグループに混じった。一年から三年まで、三十人ほどの生徒が広い実習室に集まっている。上級生の顔つきは、同級生とは明らかに違った。場慣れした空気がある。
担当教師は年老いた男だった。シワだらけの顔で生徒をざっと見渡してから、低い声で口を開いた。
「水魔法は繊細さと集中力が要る。力任せには使えない属性だ。今日は適性の確認だけやる。一人ずつ、水球を作ってみなさい」
生徒が順番に試していく。綺麗な水球を作る子、歪んだ水球しか作れない子、全く形にならない子。様々だった。
俺の番が来た。
目を閉じて、イメージする。水の流れ、重さ、張力。ドルガに教わった基礎を思い出しながら、魔力を指先に集めた。
手のひらの上に、透明な球が浮かんだ。
教室が静かになった。
水球は完全な球形で、表面が鏡のように光を反射していた。自分でも、これまでで一番綺麗にできたと思った。
教師は少し目を細めてから、短く言った。
「筋がいい」
どこかで聞いたような言葉だった。ドルガも同じことを言っていた。
スキルツリーを確認すると、魔法適性の数値が少し上がっていた。矢印は変わらず、まだ上を指していた。
帰り道、トモタニと並んで商店街を歩いた。
「今日の朝の奴、気にしてないですか」トモタニが聞いた。
「全然」
「俺はちょっと気にしました」トモタニは苦笑いした。「田舎者って言われるの、慣れてないので」
「慣れる必要もないけど」俺は言った。「気にしても何も変わらないから」
トモタニはしばらく黙ってから、「そうですね」と言った。
商店街の明かりが灯り始めていた。ドナ=ヘッドの夕飯の時間が近い。
今日一日で、スキルツリーの数値がいくつか動いた。魔法、知能、対話。少しずつだが、確実に前に進んでいる。
前世では、こんな感覚を知らなかった。




