表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無自覚聖女から始まる辺境山暮らし 〜婚約破棄されたけど、神獣と精霊に愛されています〜  作者: なな日々
第5章:動き出す運命は規格外編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
98/123

第93話 迫る足音と、残された道標


(この匂い……リアナか。だが、あの忌まわしい黒魔術の気配も一緒だな)


 風に混じる匂いに、ノクスの鼻がぴくりと動いた。


 異常事態だ。以前の我であれば、セラを安全な結界の中に置き、単独で始末に向かっていただろう。


 しかし、少し考えてその選択を捨てる。


 事情を隠してセラが余計な行動を取る方が危険だ、何より、自分の目の届かない場所に彼女を置いておく方が今は落ち着かなかった。


「セラ」


「どうしたの、ノクス?」


「こちらへリアナが向かって来ているが、黒魔術の気配も同じ場所から近づいてきているぞ」


 その言葉に、セラの胸がざわついた。


 ノクスは冷静に、可能性の一つを口にした。


「裏切って、案内してきたか?」


 本気でそう思っているわけではない。


 それに対し、セラは考える素振りすら見せず、即座に首を振った。


「リアナちゃんがそんなことするはずないよ」


 迷いのない即答。それを見て、ノクスも小さく鼻を鳴らして同意する。


 リアナという小娘は、商魂たくましい部分はあるが、信頼を裏切るような真似はしない。


 ならば、答えは一つだ。


「……何かの事情で巻き込まれた、ということだな」


「うん! 早く助けに行かなきゃ!」


 セラは勢いよく立ち上がると、大慌てで鞄に荷物を詰め込み始めた。


「えっと、薬草に包帯、傷を洗う水……あと、お腹が空いた時用のお菓子!」


「遊びに行くのではないぞ」


 緊迫した状況だというのに、まるで遠足のようなラインナップに、ノクスは思わず呆れたようにツッコミを入れた。


 だが、そのいつものやり取りのおかげで、ノクスは余計な力みが抜ける。


「乗れ。すぐに向かう」


 セラを背に乗せ、ノクスは風を巻き起こしながら山を駆け下り始めた。


 ◇ ◇ ◇


 リアナはわざと険しいルートを提案し、「少し休まないと馬が潰れる」と忠告しつつ、限界まで時間を稼いでいた。


 そして、男たちの注意が向いていない隙を狙い、身につけていた仕事用のエプロンから装飾の小さなリボンを引きちぎり、道端の草むらへこっそりと落としていく。

(お願い、お兄ちゃん、ゼインさん……気付いて……!)


 しかし、その露骨なゆっくりとした歩みに、ついにイザベラの堪忍袋の緒が切れた。


「いつまで歩かせる気!? これ以上もたつくなら、お前の脚を焼き切って引きずって……ッ!」


 苛立ったイザベラがリアナを脅そうと指先に魔力を集める。


 ――その瞬間。


 ゾワッ……!!


 何かに睨まれたような、悪寒が全身の産毛を逆立てた。


「……っ!?」


 指先に集まっていた黒いもやが、驚きで、パチンと弾けて消える。



「な、何よ今の……。気味が悪い」


 完全に力が出ないわけではない。だが、まるで山そのものに拒絶されているようで、イザベラにとっては息苦しく感じた。


 イザベラには理解できなかった。

 この感覚の正体が。


 この山全体が、すでにセラの意図しない浄化の影響で満たされ、不浄な黒魔術を拒絶していることに。


 そして――強大な力を持つノクスが山中の『監視』をしている事で、その凄まじい威圧の目が自分に向けられていることにも。


 ◇ ◇ ◇


 それから、しばらくのこと。


 山道に入ったゼインとルークは、乗り捨てられた無残な馬車を発見し、すぐに馬を降りて周囲の痕跡を探っていた。


「馬車はここで捨てたか。ここからは馬と徒歩だな」


 ぬかるんだ地面に残る蹄の跡を追っていたルークが、ふと足を止めた。


「おかしいくないか?」


 しゃがみ込み、土に刻まれた跡を指でなぞる。


「この方向……セラ様のいる山道から外れている」


 リアナを攫ったのはセラ様の居場所を吐かせるためだと思っていた。なのになぜ、遠ざかる。


 ルークの視線が、周囲へ向いた。


 その時だった。


 茂みの奥に、泥にまみれた小さな布切れが引っかかっているのが見えた。


 拾い上げた瞬間、ルークの表情が変わる。


 見覚えがある。


 いつも店でリアナが身につけている、お気に入りのエプロンの飾りだった。


「このリボン、リアナのだよな」


 ルークは周囲へ視線を走らせた。


 よく見ると、獣道の先にも同じような小さなリボンが残されている。


「わざと残しているのか」


「馬の進路をわざと変えて、しかも……目印まで」


 ゼインがリボンを覗き込み、首を傾げる。


「案内するふりをしながら、追跡できるようにしているんじゃないのか?」


「あいつ……」


 ルークは握ったリボンを見つめた。


 リアナは、ただ助けを待っていたわけではない。


 この小さな目印で、自分たちをここまで導いている。


「……さすが、俺の妹だ」



「これなら確信を持って追えるな」


 絶望的な状況でも決して諦めないリアナの強さに、ゼインは口角を上げ、剣の柄を握り直した。


「急ぐぞ。近くなってきた」


 小さなリボンが示す道を進むこと数分。


 木々の隙間、前方から微かに人の話し声と、苛立ったような舌打ちが聞こえてきた。


「おい、見つけたぞ」


 ゼインの視線の先。


 木漏れ日の落ちる獣道に、拘束されたリアナと、狂気に顔を歪ませたイザベラたちの姿があった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ