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無自覚聖女から始まる辺境山暮らし 〜婚約破棄されたけど、神獣と精霊に愛されています〜  作者: なな日々
第5章:動き出す運命は規格外編

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第89話 偽りの聖女が去った後で

 大混乱に陥った大広間から少し離れた、王城の控え室。


 逃亡したイザベラを追って近衛兵たちが捜索を続ける中、ルシアンはソファーに腰を下ろすオリヴィアの前に静かに立っていた。


「……逃げられてしまったわね。手負いとはいえ、あの女がこのまま黙っているとは思えないわ」


 青ざめた顔で呟くオリヴィアに、ルシアンは穏やかな声で応じた。


「追っ手は放っています。ですが、今日の最大の目的である『偽聖女の失脚』は果たされました。公爵家のため、身を挺して協力してくださり、ありがとうございました。母上の勇気を、無駄にはいたしません」


 ルシアンは深く頭を下げた。


「ルシアン……」


 オリヴィアの顔が苦痛に歪む。


 かつて見栄と権力に目が眩み、偽聖女を信じて実の息子を苦しめ、何の罪もない少女セラを追い出してしまった深い罪悪感。それが今も彼女の胸を締め付けていた。


「でも、ノエルの体は……あの女の黒魔術が抜けきらなければ、あの子は……」


「そのことですが、ご安心ください」


 ルシアンは顔を上げ、わずかに安堵の笑みを浮かべた。


「実は、夜会へ出発する前にノエルへ『聖水』を飲ませてきました。出所はまだ言えませんが、もはやエリクサーと呼んでもいいほどの代物です」


「え……?」


「効果は劇的でした。ノエルの体を蝕んでいた黒魔術の痕跡は完全に消え去り、元々の病も落ち着いたかと。私が家を出る頃には、すっかり穏やかな寝息を立てていましたよ」


 その報告を聞いた瞬間、オリヴィアの目から張り詰めていた糸が切れたように大粒の涙が溢れ出した。


「本当なの? 今まで手の施しようが無かったのに……本当に、よかった……っ」


 彼女は両手で顔を覆い、声にならない声で泣き崩れた。


 ルシアンはそんな義母の肩にそっと手を置く。


「馬車はすでに用意させています。ノエルはもう大丈夫ですから、早く帰って、顔を見てあげてください」


 ◇ ◇ ◇


 涙を流すオリヴィアを見送った後、廊下へ出たルシアンのもとにエリオが足早に歩み寄ってきた。


「あの場で捕縛できなかったこと、申し訳ありません」


「構わない。ただ少し危険かもしれないね。あのようにプライドの高い女がすべてを失い、自暴自棄になったとなれば……報復に動くように思う」

 

 その言葉に、エリオの顔がハッとしたように険しくなった。


「この間から、彼女が石鹸店に探りを入れていたのも気になりますね」


「そうだな」


「報復の矛先がどこへ向くか……護衛の手薄なところを狙ってくるとすれば、警戒を怠れませんね」


 エリオの言葉に、ルシアンも静かに頷く。


「ルーク、ゼインへ直ぐに連絡を入れよう。警戒を最大まで引き上げるように」


「承知いたしました」

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