表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
結婚破棄されたので山にこもったら、なぜか精霊に好かれすぎて信仰対象になりました  作者: なな日々


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/14

第9話 山の主は礼儀正しいらしい

 目が覚めると、見覚えのない物が置いてあった。

 ハンモックから降りて、近づいてみる。

「……え」

 でかい。

 昨日の角うさぎより、一回り大きい。丸々して、豚みたいだ。

 立派な獲物だった。

 周囲を見回す。

 少し離れた日の当たる岩場に、ふんわりとした大きな白銀の狼。

 青い光の目だけはすぐ分かった。でも毛並みが、昨日と全然違う。足にかけて黒くなっており、グラデーションが綺麗だ。

 そして、なんといっても……モフモフだ。

 いや、あれは絶対モフモフ。

 ――近づいていいやつ?

 昨日、あれだけの大きさを間近で見たばかりだ。

 普通に考えたら、危ない気もする。

 でも――どう見ても、モフモフだ。

 少しだけ、距離を詰める。

 怒られたら、その時は逃げよう。

 昨日は夜だった。あの時は、漆黒に青が混じる毛並みだったのに。

「昼は白いの?」

「……昼は白い」

 ノクスが静かに答えた。

「じゃあ昼はなんて呼べばいい?」

「ノクスでいい」

 ちゃんと覚えてくれてる。

 なんだか、少し嬉しい。

「夜の名前なのに?」

「うるさい」

 思わず笑いがこぼれる。昨日より、ずっと柔らかい声だった。

「また来てくれたの?」

「昨日の礼だ」

 ノクスは、それだけ言った。

 セラは獲物を見て、また顔を上げた。

「大きいね」

「我が獲った肉だ。ありがたく食べるが良い」

 どこか誇らしげだった。

「そうかもしれないけど、量が多いな」

「……」

 ノクスは少しだけ近づいた。 焚き火の跡を、じっと見ている。

 昨日の肉を思い出しているのかもしれない。視線が、ほんの少しだけ動く。

 ……あれ、これ。たぶん、食べたいやつだ。でも、言わないんだろうな。

 セラはしばらくノクスを見て、小さく笑った。

「一緒に食べようよ! その方が美味しいよ」

「……」

「ダメ?」

「我は、別にどちらでも」

「じゃあ一緒に食べよう」

「うむ」

 ノクスは、静かに焚き火の前に座った。

 火を起こして、肉を処理する。昨日と同じように丁寧に切り分けて、スパイスを少し多めに振る。

「昨日と同じ作り方か?」

「うん。このスパイス好きなんだよね」

 ぱちぱちと薪が弾ける。肉の脂が滲んで、いい匂いが漂い始める。

「……いい匂いがするな」

「でしょ。このスパイス、山で採れるやつなんだけど結構万能で」

「よく知っているな」

「私ね……前世の知識があるんだよ」

 少しだけ、火を見つめる。

「前に別の世界で、別の人間として生きてたの」

「……別の世界」

「うん。青山なつみって名前だった。日本っていう国で、25年生きて」

「……25年」

「山で木の実取ろうとして、落ちて死んだみたい」

 ノクスは、しばらく黙った。

「それで、ここに生まれたのか」

「そうだよ。気づいたのは最近なんだけどね。前の人生は忙しくて、時々しかこういう所に来れなかったから、いま楽しもうと思って」

「……なるほど」

 ノクスの視線が、わずかに鋭くなる。

 馬鹿にするでもなく、驚くでもなく。ただ、そうかと受け入れるように。

「……変わった人間だな」

「よく言われる」

「この山に来たのも、前世の影響か」

「そうね。ちょうど婚約破棄されて、やることなくなったから」

「……婚約破棄」

「何が起こるかわからないものよね」

 セラはそれだけ言って、肉の焼き具合を確かめた。

「さぁ! できたよ!」

 切り分けて、ノクスの前に置く。

 ノクスは一口食べた。動きが、止まった。

「美味しい?」

「我が獲った肉だからな」

「スパイスは?」

「……悪くない」

 セラは小さく笑って、自分の分を食べ始めた。

 しばらく、二人とも黙って食べた。焚き火の音だけが、静かに響いている。

「前世の話、他の人間は知っているのか」

「信じてもらえないから言わないよ」

「……そうか」

 ノクスはもう一口食べて、ゆっくりと空を見上げた。

「……我は信じる」

 一瞬だけ、言葉に詰まる。普通なら、笑われる話だ。

 でも、不思議と否定する気にはならなかった。

「知ってた」

「……なぜだ」

「なんとなく」

 ノクスは、また黙った。

 セラも、なんとなく空を見た。青くて、広い。

「ねえ……私ここに、住んでもいい?」

 セラが呟くと。

「……好きにしろ」

 ノクスが、静かに答えた。

 焚き火が、ぱちぱちと音を立てている。

 一人と一匹の、心地よい空間ができていた。

 その周囲で、小さな光がいくつか、ふわりと集まってきた。

 ――あ、主が今日も来てる。

 ――うん。珍しいね。

 ――このコのこと、気に入ったのかな。

 ――みたいだね。

 また少し、間が空く。

 ――ふふ。

 ――うん、ふふ。

 光は静かに揺らめいて、また散っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ