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無自覚聖女から始まる辺境山暮らし 〜婚約破棄されたけど、神獣と精霊に愛されています〜  作者: なな日々
第4章:広がる想いは規格外編

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第74話 凄腕の護衛と、命懸けの私用

 裏路地に出たゼインは、気配を殺したまま建物の影から『それ』を観察した。


 それは、街中でよく見かけるような何の変哲もない、ごく一般的な貸し馬車だった。


 だが、荷下ろしでもないのに、こんな人目につかない狭い裏路地にわざわざ馬車を停めていること自体が不自然極まりない。御者席には誰もいないが、箱の中に誰かが息を潜めている気配がはっきりと伝わってくる。


(……『ありきたりな馬車で裏道に隠れていればバレないだろう』という、素人丸出しの浅はかな考えか)


 ゼインは無表情のまま、まっすぐに馬車へと歩み寄った。


 そして扉の前に立つと、低く凄みのある声で告げた。


「出てこい」


 ピタッ、と馬車の中の気配が止まり、ビクッと何かが跳ねる音がした。


「……」


 ゼインは数秒待ったが、中から出てくる気配はない。


「出てこないなら開ける」


 ガチャ。


 一切の躊躇なく扉を引き開けると――。


「ひぃっ!?」


 馬車の隅でガタガタと震えながら身を縮めている、見覚えのある侍女の姿があった。


 イザベラの腰巾着であり、先日エリオによって完全に『こちらの駒(二重スパイ)』へと堕とされた哀れな侍女――アリシアである。


「……お前か」


 ゼインは冷ややかな目を向け、ため息混じりに言い放った。


「また懲りずに何をしている」


 その冷徹な見下ろしと、顔の古傷から発せられる圧を正面から浴びたアリシアは、完全に絶望の表情を浮かべていた。


(ひいいいいっ! またこの恐ろしい男に見つかったぁぁっ!!)


「ち、違うんです! エリオ様に許可は取ってあります!!」


 アリシアは涙目でぶんぶんと首を振りながら、必死に弁明を始めた。


「あの……っ、イザベラ様から『最近流行っている石鹸屋の秘密を探ってきなさい。この映像記録魔石で、中の様子を撮ってくるのよ』って命令されまして……っ! 慌ててエリオ様にご相談したところ、適当に都合のいい映像を撮って帰れと……!」


 しかし、目の前の無愛想な大男がそんな口頭の言い訳をすんなり信じてくれるとは限らない。首を刎ねられかねないと本気で怯えているアリシアは、懐から『一枚の折り畳まれた羊皮紙』を震える手で素早く取り出し、ゼインの目の前に勢いよく突き出した。


「ほ、本当に、今回は違います! 証拠があります!!」


 それは、エリオの署名とローエン家の印が押された、紛れもない直筆の書面だった。


 そこには流麗な文字で、こう記されている。


『ゼインへ。その侍女は俺の指示で動かしている。適当に見逃して、都合のいい映像でも撮らせてやってくれ。 エリオより』


 ――なんとアリシアはゼイン対策として、わざわざエリオに『通行許可証』のような書面を一筆書かせ、命綱として常備していたのである。よほどこの男がトラウマになっているらしい。


「……そうか」


 ゼインは無表情のまま、書面をアリシアに突き返した。


 感情の一切読めないその冷たい反応が、逆にアリシアの恐怖を煽る。


「……さっさと撮って帰れ。五分以内に消えろ」


「は、はいぃぃっ! ありがとうございますぅぅっ!」


 ゼインが無言で道を開けると、アリシアは泣きべそをかきながら魔石を掲げ、震える手で裏口の木箱の山を数秒だけ録画した。


「イ、イザベラ様には『恐ろしい顔の男が裏口を固めていて、これ以上は近づけなかった』と報告しますのでぇっ!」


 用が済んだならさっさと帰るだろう。ゼインがそう思って背を向けかけた、その時だった。


「あ、あのっ……!」


「……なんだ」


「そ、その……もしよろしければ……石鹸を二つ、買わせていただけないでしょうか……?」


 ゼインがゆっくりと振り返り、無言で睨み下ろすと、アリシアは「ひっ!」と短い悲鳴を上げて首をすくめた。


 しかし、彼女は震える手でしっかりと硬貨を握りしめている。


「……任務か」


 ゼインが低く問うと、アリシアはビクッと肩を跳ねさせた。


「ひ、一つはイザベラ様へ『店内に入り込んだ証拠』として渡すための任務ですっ!」


「……もう一つは?」


「わ、私用ですぅ……っ」


 王都の女性たちの間で大流行している『ラ・ピュール』の美容石鹸。裏口まで漂ってくるその素晴らしい香りに、彼女の中の『侍女としての任務』や『命の危機』よりも、『ひとりの女性としての物欲』が完全に勝ってしまったらしい。


「……」


「だ、代金はちゃんとお支払いしますぅっ! どうしても欲しかったんですぅっ!」


 数分後。


 ゼインは静かに店内に戻ると、接客の合間を見てリアナの耳元に身を屈めた。


「……どうだった? どこかの商人? 貴族?」


「……ただの怯えた侍女だ。エリオ様の指示で動いているらしい」


「えっ?」


「適当な映像を撮らせて帰した。……あと、石鹸が二つ売れた」


「……はい?」


 ゼインが代金の硬貨をカウンターにコトリと置き、再び無表情で木箱を運び始めるのを見送りながら、リアナは完全に狐につままれたような顔で首を傾げた。


「怯えた侍女が、店の映像を撮って、ちゃっかり石鹸を二つも買って帰った……? ……結局、何しに来たのよ?」


 呆れ果てたリアナの呟きに、ゼインが振り返りもせずに淡々と答える。


「……一つは任務で、もう一つは『私用』だそうだ」


「……」


(エリオ様がいったいどんな裏工作を仕込んでいるのか知らないけど……本当、お貴族様ってよく分からないわね)


 リアナは深くため息をつきながら、今夜送る報告書の文面を頭の中で素早く組み立て始めた。


 ――表向きはイザベラが公爵家に入り込み、こちらの事まで自分の思い通りに事を運んでいるつもりなのだろう。


 しかし、その足元ではすでにエリオが手駒を操り、彼女の動向はこちらに筒抜けになっている。おまけにその手駒たるポンコツ侍女は、きっちりと売り上げに貢献して帰っていったのだった。

いつもお読みいただきありがとうございます♪


土日の投稿はお休みさせていただきますm(__)m


次回更新は月曜日です!

皆さまも良い週末をお過ごしください♪


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『誰が鬼ですって? 〜王妃になったスパダリ国王、今日も愛妻を守るために悪役を演じます〜』

無事に最後まで書き切ることができました!


妻を溺愛するスパダリ国王(外見は可憐な王妃)と、

虫にビビって神回避をキメるポンコツ乙女(外見は氷の覇王)の、

前代未聞の入れ替わりドタバタラブコメディ!

周囲に勘違いされまくりながら国を守るふたり。

思わずニヤニヤが止まらなくなる最強バカップルの結末を、ぜひ見届けてください!

完結済みなので、週末の一気読み派の方もぜひ♪

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