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無自覚聖女から始まる辺境山暮らし 〜婚約破棄されたけど、神獣と精霊に愛されています〜  作者: なな日々
第4章:広がる想いは規格外編

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第65話 春がきた?

 王都での騒動がようやく落ち着き、久しぶりに実家へ顔を出した日のことだった。


 ――とはいえ、ここ最近はエリオ様の付き添いだ何だで走り回っていたせいで、まともに帰れていなかったのだが。


「ただいま」


 玄関を開けた瞬間。


「あらやだ! また急に帰って来て!」


 母の声が飛んできた。


 ぱたぱたと台所へ向かいながら、慣れた手つきで料理を温め直していく。


「悪い」


「本当にもう。食べるわよね?」


「ああ」


 冒険者を辞めてから、生活は大きく変わった。


 今はエリオ様の従者として動くことが多く、以前より安定はしている。だが、その分慌ただしい日々が続いていた。


 だからこそ、こうして実家で食卓を囲む時間は少しだけ気が抜ける。


 漂ってくる料理の匂いに、ようやく少し肩の力が抜ける――そう思った時だった。


 何故か、妙に視線が痛い。


 ……嫌な予感しかしなかった。


「ねえねえ」


 妙にテンションの高い声。


 視線を向ければ、栗色の髪を揺らした二つ下の妹・リアナが、にやにやしながら近づいてきた。それも小声で。


「……なんだ」


「彼女できた?」


「は?」


 あまりにも唐突な一言に、ルークは真顔になった。


 リアナはじーっと兄を見つめてくる。


「最近帰って来るたび変なんだけど」


「何がだ」


「前はあんなに沈んでたのに、最近は妙に生き生きしてる」


「…………」


「急に安定した仕事に就いたし」


「それは縁があったからで」


 リアナはじっとルークを見る。


「……誰かいる?」


「は?」


「だって最近、雰囲気違うもん」


 そして、すん、と鼻を鳴らした。


「なんか良い匂いする」


 ルークは無言で固まった。


 それに関しては思い当たる節しかない。


 きっとセラ様の石鹸だ。


 山へ行くたび、「次、これ試してみて」と押し付けてくる石鹸。 


「あと肌綺麗」


 ……それも石鹸だ。


「気のせいだろ」


「前より疲れた顔してない」


 それも心当たりがあった。


 最近では、「日持ちしやすいパンを作ってみた」と、ラスクという食べ物まで持たされている。


 セラ様と関わってから生活の質が、明らかに変わっていた。


「気のせいだ」


「その反応、怪しい」


 リアナは確信したように目を輝かせた。


「やっぱり彼女だ!」


「違う」


「でも女の人でしょ?」


「…………」


「わぁ」


 リアナの顔がぱっと明るくなる。


「兄ちゃんに春が来た……!」


「来てない」


「最近、お兄ちゃんのこと良いって言ってる子もいるんだよ? だから隠さなくても大丈夫! 応援するから!」


「だから違う」


 ルークは深く息を吐いた。


 だが、リアナは止まらない。


「どんな人!? 可愛い!? 美人!?」


「落ち着け」


「手とか繋いだ!?」


「繋いでない!」


「え、じゃあこれからってこと!?」


「何故そうなる!」


 普段より少し強い口調に、リアナは一瞬だけぴたりと止まった。


 そして数秒後。


「……つまり、気になる人はいるんだ」


「違う」


「えー! 絶対そうだよーー」


 ルークは思わず顔をしかめる。


「二人とも、そこで何こそこそしてるの?」


 台所から戻ってきた母が、不思議そうに首を傾げた。


 リアナはぱっと振り返る。


「なんでもなーい!」


「怪しいわねぇ」


 そう言いながら、湯気の立つ皿を机へ並べていく。


「ほら、冷める前に食べなさい」


「ああ」


 ルークは短く返事をしながらナイフとフォークを手に取った。


 だが隣では、リアナがまだにやにやしている。


「……なんだ」


「別にー?」


 全然別にではなかった。


 絶対に後で続きを聞き出す気の顔だ。


 ルークは深く息を吐く。


「その話は後だ」


「やっぱり何かあるんじゃん!」


「違う」


 ルークは黙って食事を続けた。


 しばらくは食器の音だけが続いた。


「随分仕立ての良い服ね」


 母が、ルークの上着をしげしげと眺めた。


「やっぱりお貴族の元で働くとなると、全然違うわねえ」


「まあ……制服とは別に、外出が多いから一式揃えてもらった」


 山のことは、さすがに言えなかった。


「まあ」


 母は目を細める。


「良い方に仕えてるのね」


「凄く良くしてもらってる」


 何気なく返した一言だった。


 だが隣で、リアナがぴくりと反応したのが分かった。


 視線を向ければ、にやにやの圧が増している。


「……なんだ」


「べっつにー?」


 全然別にではなかった。


「良くしてもらってる、かあ」


 リアナはわざとらしく呟く。


「うん、良かったじゃない。ねえお母さん」


「そうね、安心したわ」


 母は素直にそう言って、ルークの椀に追加でよそった。


 ルークはひたすら料理を口に運んだ。


 余計なことを言った気がした。


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