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無自覚聖女から始まる辺境山暮らし 〜婚約破棄されたけど、神獣と精霊に愛されています〜  作者: なな日々
第1章:お山スローライフの基盤作り編

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第7話 食料をどうにかしたいと思う

 魚は美味い。美味いのだが。

 

 ――肉が食べたい。

 

 焚き火を眺めながら、頭に浮かぶのは肉ばかりだ。


 毎日魚というのも、さすがに飽きてきた。贅沢な話だとは分かっているけれど、体が違うものを欲しがっている。

 

 罠、作ってみようか。

 

 前世の記憶をたぐり寄せ、とりあえず木と蔓を使って仕掛けを考えてみる。


 どんな感じだったっけ。

 

 とはいえ、罠なんて実際に作ったことはない。思い出せるのは、前世のテレビで見たクマを捕まえる檻とか、ああいう大がかりなものくらいだ。


 でも、別に大物を狙うつもりなんてないし、なんとかなるでしょ。そんな軽いテンションで、とりあえず手を動かしてみる。

 

 中に何か入れた方がいいよねと考え、乾燥フルーツと残っていた魚を少し置いてみることにした。変な組み合わせだけど、これで来るだろうか。

 

 善は急げと、さっそく細い木の枝を何本か選び、折れないように組み合わせてみたり、しなり具合を確かめたりする。次に蔓を探して、引っ張っても切れない丈夫なものを選んだ。

 

 こうして、こう結んで。

 

 考えながら手を動かす。一度崩れてしまったので、違うなとやり直して結び方を変える。

 

 また崩れた。

 

 無言になり、もう一度。三回目の挑戦で、なんとかそれっぽい形になった。

 たぶん、これで合っているはずだ。完璧かどうかは分からないけれど、仕掛けとしては動作しそうだ。

 

 近くに獣道っぽい跡を見つけたので、そこに設置しておく。


 あとは獲物がかかるのを待つだけだ。

 

 ――しかし、この「待つ」という時間が、一番しんどかった。

 

 焚き火の前に戻って座り、しばらくして罠の方を見る。何もない。また焚き火を見て、しばらくして罠の方を見る。何もない。

 

 来ないな、と小さくため息をつく。

 まあ、そんなにすぐ来るわけないか。分かってはいるけれど、どうしても手持ち無沙汰になってしまう。

 

 薪を足して、水を汲んで、戻る。また見る。何もない。

 

 そのまま空を見上げると、雲がゆっくり流れていた。


 のんびりしてるな、雲。

 

 しばらくぼんやりと空を眺めていたけれど、けっきょく何も起こらなかった。

 

 うん、無理だ。あっさりと結論が出た。

 仕方ない。

 

 火の前に戻って鍋を取り出し、持ってきていたパスタを少しだけ折って入れる。水と塩を用意して、油とニンニクと鷹の爪を少し。簡単なオイルパスタだ。

 

 ぐつぐつと音を立てる鍋を見ながら、ぼんやりと座る。


 こういう日もある。そうだ、何もかも上手くいくわけがないのだ。

 

 茹で上がった麺を木の皿に移し、軽く混ぜて一口すする。


 うん。パスタ美味しい。


 ずっと魚ばかりだったからか、それだけでちょっと嬉しくなる。しばらく無言で食べ進めた。火の音だけが、静かに響いていた。

 

 ――がさ、と音がした。

 

 ん? と顔を上げる。罠の方から音がしている。ゆっくりと立ち上がって、足音を殺しながら近づいた。

 

 えっ。思わず足が止まる。

 

 罠の中に、でかいものがいた。丸くて、もふもふしていて。頭に立派な角が生えている。


 角、立派だなぁ。

 

 じっと見つめると、向こうもじっとこちらを見ている。しばらく無言で見つめ合った。

 さぁ、どうやって仕留めるか。

 

 一瞬だけ視線を逸らし、考える。まあ、動けないならいけるでしょ。結論は早かった。

 ゆっくりと近づく。一歩。二歩。

 

 くるっと、兎の耳が動く。でも、それだけだ。

 

 あ、これ。なんとなく分かる。今いけるやつだ。

 ナイフをしっかりと握り直し、一発でいこうと決める。

 

 踏み込む。迷いなく、一直線に喉元へ。


 びく、と体が跳ねて――それで終わりだった。

 

 思ったよりあっさりだった。

 

 ただ、そこから解体して捌くのは大変だった。


 角が邪魔だし、想定していたよりずっと大きい。角は何かに使えそうだから、ひとまず横に置いておくことにした。

 

 それにしても、こんなに肉があるんだな。


 私にとっては悪くない誤算だ。丁寧に処理をしてから、さっそく火にかける。

 

 しばらくすると脂がじわりと滲み出て、たまらなくいい匂いが漂ってきた。


 思わず生唾を飲み込む。


 深呼吸して、手を合わせた。


 いただきます。


 命をいただくという、すごく重みのある言葉だ。


 焼き上がった肉を一口かじる。


「……美味しい」


 魚とはまるで違う。しっかりとした歯ごたえに、噛むたび濃い旨味があふれてくる。


 もう一口。


 なにこれ。


 ……めちゃくちゃ美味しい。


 気づけば夢中で肉を頬張っていた。さっき食べたパスタの味なんて、もう思い出せない。


 これなら、しばらくは美味しいお肉が食べられる。


 あ〜、幸せ。


 

 少し離れた場所。木の陰に、ひとつの影があった。


 その視線の先には、角うさぎを捌き、何事もなかったかのように食べている少女の姿がある。

 

 暴れさせることもなく、逃がすこともなく。ただ、静かに一撃で仕留めていた。

 

 あれを、ああも簡単に、か。

 

 角うさぎは警戒心が強く、そもそも姿を見せない魔物だ。初級の冒険者がやっとの思いで仕留める程度の獲物。


 それを、魔力の気配すら感じられないやつが、ごく当然のように仕留めている。

 

 相変わらず面白いな。

 

 しばらくその様子を見ていたが、もう大丈夫そうだと思い視線を外した。

 

「さてと、報告しますか」

 

 エリオ・ローエンは誰に聞かせるでもなくそう口にして、音もなくその場を立ち去った。


次回、いよいよ“相棒”登場です。


山での生活も少しずつ形になってきた頃、セラの前に現れるのは――

ただの狼ではない、少し(かなり)厄介で頼もしい存在。


ここから、ゆるい山暮らしにちょっとだけ非日常が混ざり始めます。


「続きが気になる」「ちょっと面白いかも」と思っていただけたら、

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