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無自覚聖女のモフモフ山籠り生活 〜婚約破棄されたので山にこもったら、なぜか信仰対象になりました〜  作者: なな日々
第1章:お山スローライフの基盤作り編

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第7話 食料をどうにかしたいと思う

 魚は美味い。

 美味いのだが。

「……肉、食べたいな」

 焚き火の前に座りながら、ぽつりと呟く。

 毎日魚というのも、だんだん飽きてきた。いや、贅沢な話だとは分かっている。でも、体が違うものを欲しがっている。

「罠、作ってみようかな」

 前世の記憶をたぐり寄せる。とりあえず、木と蔓を使って――

「……たぶん、こんな感じだったっけ」

 とはいえ、罠なんて実際に作ったことはない。

 思い出せるのは、テレビで見たやつくらいだ。クマを捕まえる檻とか、ああいうの。

 別に大物狙うつもりなんてないし、なんとかなるでしょ……くらいのテンションで作っている。

 中に何か入れた方がいいよね、と考える。

 乾燥フルーツと、残っていた魚を少し。変な組み合わせ……これで来るだろうか。

 細い木の枝を何本か選ぶ。折れないように組み合わせてみたり、しなり具合を確かめる。

 次に蔓を探す。引っ張ってみて、切れないものを選ぶ。

「……こうして、こう結んで」

 独り言を言いながら、手を動かす。

 一度崩れた。

「……違うな」

 やり直す。結び方を変える。

 また崩れた。

「……」

 無言でもう一度。

 三回目で、なんとか形になった。

「……たぶん、これで合ってる」

 完璧かどうかは分からない。でも、動作はしそうだ。

 近くに獣道っぽい跡を見つけて、そこに仕掛ける。

「あとは待つだけだね」

 待つのが、一番しんどかった。

 焚き火の前に戻って、座る。

 しばらくして、罠の方を見る。

 何もない。

 また焚き火を見る。

 しばらくして、また罠の方を見る。

 何もない。

「……来ないな」

 ため息をつく。

「まあ、そんなすぐ来るわけないか」

 分かってはいる。

 でも、手持ち無沙汰だ。

 薪を足して、水を汲んで、戻る。

 また見る。

 何もない。

「……」

 そのまま空を見上げる。

 雲がゆっくり流れている。

「……のんびりしてるな、雲」

 ぽつりと呟く。

 しばらくぼんやりして。

 ――そのまま、何も起こらなかった。

「……ムリだ」

 結論が出た。

 仕方ない。

 火の前に戻って、鍋を取り出す。

 持ってきていたパスタを少しだけ折って入れる。

 水と塩を用意して。

 油とニンニクと鷹の爪……

 簡単な、オイルパスタ。

 ぐつぐつと音を立てる鍋を見ながら、ぼんやりと座る。

「こういう日もある」

 そうだ。何もかも上手くいくわけない。

 茹で上がった麺を、木の皿に移す。

 軽く混ぜて、一口。

「……うん。パスタ美味しい」

 魚ばかりだったからか、それだけでちょっと嬉しい。

 しばらく、無言で食べる。

 火の音だけが、静かに響く。

 がさ、と音がした。

「……ん?」

 顔を上げる。

 罠の方から、音がしている。

 ゆっくり立ち上がって、近づく。

「……え」

 思わず、足が止まった。

 罠の中に、でかいものがいた。

 丸くて、もふもふしていて。

 頭に、角が生えている。

「角立派だなぁ」

 じっと見つめる。向こうもじっとこちらを見ている。

 しばらく、無言で見つめ合う。

「さぁ、どうやって仕留めるか」

 一瞬だけ視線を逸らす。

「……まあ、動けないならいけるでしょ」

 結論が早い。

 ゆっくり近づく。

 一歩。

 二歩。

 ぴく、と耳が動く。

 でも、それだけ。

「……あ、これ」

 なんとなく、分かる。

「今いけるやつだ」

 ナイフを握る。

「一発でいこ」

 踏み込む。

 迷いなく、一直線に。

 喉元へ。

 びく、と体が跳ねて――それで終わり。

「……お」

 思ったより、あっさりだった。

「いけた」

 捌くのは、思ったより大変だった。

 角が邪魔だし、想定より大きい。

 角は何かに使えそうだから置いておこう。

「それにしてもこんなに肉あるんだ」

 悪くない誤算だ。

 丁寧に処理して、火にかける。

 脂がじわりと滲んで、いい匂いが漂ってくる。

「……っ」

 思わず、生唾を飲む。

 軽く息を吐いて、手を合わせる。

「いただきます」

 少しだけ間があった。

 すごく重みのある言葉だ、これ。

 一口かじる。

「美味しい」

 声が漏れた。

 魚とは全然違う。

 しっかりした歯ごたえ、じわりと広がる旨味。

「……なにこれ」

 思わず手が止まる。

「めちゃくちゃ美味しい」

 しばらく無言で食べ続ける。

 さっきのパスタの味も、もう思い出せない。

「しばらく食べられるな」

 満足げに呟いて、少しだけ笑った。

 少し離れた場所。木の陰に、ひとつの影があった。

 その視線の先には、角うさぎを捌き、何事もなかったかのように食べている少女の姿。

 暴れさせることもなく、逃がすこともなく。

 ただ、静かに仕留めていた。

「あれを、ああも簡単に、か」

 低く呟く。

 角うさぎは警戒心が強く、そもそも姿を見せない。

 初級の冒険者が、やっとの思いで仕留める程度の獲物だ。

 それを。

 魔力の気配すら感じられない少女が、当然のように仕留めている。

「相変わらず面白いな」

 小さく息を吐く。

 しばらく見ていたが、やがて視線を外した。

「さてと、報告しますか」

 エリオ・ローエンは、静かにその場を立ち去った。

次回、いよいよ“相棒”登場です。


山での生活も少しずつ形になってきた頃、セラの前に現れるのは――

ただの狼ではない、少し(かなり)厄介で頼もしい存在。


ここから、ゆるい山暮らしにちょっとだけ非日常が混ざり始めます。


「続きが気になる」「ちょっと面白いかも」と思っていただけたら、

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