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結婚破棄されたので山にこもったら、なぜか精霊に好かれすぎて信仰対象になりました  作者: なな日々


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第6話 雨風を凌ぐには

 朝から、空気がわずかに違っていた。湿り気を含んだ風が肌にまとわりつき、流れも昨日とは少しだけ向きが違う。焚き火の前に座りながら空を見上げると、雲の輪郭がゆっくりと形を変えていた。

「来るかも」

 小さく呟く。はっきりとした根拠があるわけじゃない。それでも、見過ごしていい変化ではない気がした。風の流れ、空気の重さ、雲の動き。重なる違和感が、ひとつの答えを指している。

「雨降りそう、準備しなきゃ」

 そう決めたら即行動に移すのみ。外れていたらその時考えればいい。今は動く方が大事だ。

 骨組みに使えそうな枝を探す。しなりすぎない、しっかりしたものを選び、手で押して強度を確かめる。

「これ、良さそう」

 持ち上げた瞬間、少しだけ後悔した。思っていたより重い。それでも引きずるようにして運ぶ。

「一人でやるには大変だな」

 ぽつりと呟いてから、小さく首を振る。ネガティブになったらダメだ。

 二本の枝を地面に立てかけ、角度を見ながら位置を決める。横に枝を渡して――崩れた。思ったよりショックが大きい。

「やり直そう」

 気を取り直して、もう一度。角度を変え、支えをずらして組み直す。今度は、なんとか形を保っている。

「さっきよりいい、はず」

 自信は無いけど、崩れていないなら大丈夫だと思うことにする。

 次に葉を集める。大きくて厚みのあるもの、水を弾きそうなものを選び、下から順に重ねていく。流れるように並べたつもりだったのに、すぐにずれた。

「あれ?」

 重ね方を変える。またずれる。

「思ってたより難しい」

 テントってもっと簡単なものだと思っていた。でも、あれは最初から完成されているだけだと気づく。

「そっか」

 妙に納得して、もう一度やり直す。何度か繰り返して、ようやく落ち着いてきた。

「これなら、なんとか」

 最後に布をかぶせ、上から押さえて端を結ぶ。軽く引くと少し動いた。

「ここが弱い」

 結び直して、もう一度引く。今度は動かない。

「うん、大丈夫」

 中を覗く。一人分で狭いけれど、今はこれで十分だ。

「ちゃんと屋根になってる」

 思わず少しだけ嬉しくなる。

 空を見上げると、もう時間はあまり残っていない。焚き火へ視線を向ける。

「先に焼いておこうかな」

 昨日の魚を取り出す。あのあともう一匹釣れた。内臓はすでに取り除いてある。あのままでは持たないからだ。

 軽く開いて塩を振り、直射日光を避けて風に当てておいた。

「簡単な一夜干し、ってやつ?」

 少し首をかしげる。合っているかは分からないけど、それっぽくは見える。

 火にかざすと、ぱちぱちと音が弾け、香ばしい匂いが立ちのぼった。

「いい匂い」

 一通り焼き上げてから、火を崩す。燃え残りを広げ、土をかけて、雨で流れないよう周りも整える。

「これで大丈夫かな」

 その時、ぽつ、と音がした。

「あ」

 もう一滴、続けて落ちてくる。

「間に合った」

 小さく息を吐く。

 屋根の中に入り、様子を見る。葉の上を雨粒がすべるように流れていくのが見えた。

「おお」

 思わず声が漏れる。ちゃんと弾いてる。思っていたより、ちゃんと出来てるみたいだ。

「あ、ここ」

 一か所だけ、細く垂れている。

 体を動かして葉を足し、布の位置を少しずらす。しばらく見ていると、滴は止まった。

「これなら大丈夫」

 そのまま腰を下ろす。外では雨音が続いている。

 しばらくして、魚を手に取る。一口かじる前に、ほんの少しだけ手が止まった。自作の一夜干し、ちゃんと焼けているだろうか。

「大丈夫、だよね」

 自分に言い聞かせるように呟いてから、口に運ぶ。

 熱が舌に広がる。少し塩が強い。

「ちょっとしょっぱいかも」

 でも、身がきゅっとしまって美味しい。

「ちゃんと出来てる」

 小さく呟いて、少しだけ笑う。雨音と、かすかに残る火の匂い。その中で、ゆっくりと食べ進めながらふと、思う。

「お米、欲しいな」

 この世界にも細長い種類のものはあったはずだ。

 けれど、前世の記憶が戻るまでは、美味しいなんて思ったことはなかった。

 ぽつりと零れた言葉に、自分で少しだけ笑った。

 しばらく雨が続きそうだった。

 雨の日のキャンプでも、ちょっとした楽しみがあったはずだ。今ある手持ちの物で何が出来るか考える。

「……あ、チャイにしよう」

 荷物を探る。スパイスと、茶葉。残念ながらミルクはない。でもハチミツをたっぷり入れれば、渋さが和らいで美味しくなる。たまには、こういうのもいい。

 火はさっき消してしまったけど、屋根の入口近くは大きな木の影になっていて濡れていない。ここなら煙もこもらないし、大丈夫そうだ。火を付けるところからまたスタートだけど、時間はたっぷりある。

 火の準備が出来たら、鍋に水を入れてかける。

 その間にスパイスを砕いて、薄い布に茶葉と一緒に包んだ。

 ゆっくりと煮出す。

 立ちのぼる香りに、ふっと息をついた。

 ハチミツもたっぷり入れて、出来上がったそれをそっと口に運ぶ。

「……美味しい」

 じんわりと体の奥が温まっていく。

 雨音さえ、心地よく感じる。

 少し離れた場所。木の幹に背を預けて、影はその様子を見ていた。短くなった髪に、わずかに視線が止まる。

(切ったのか)

 言いたいことが山ほど浮かぶが、口には出せない。

 そして、雨が降り始めたのは、屋根を整え終えた直後。火も処理されている。

「読んでるのか」

 小さく呟く。空を読む術とは違う。魔力の気配もない。それでも判断できている。

 しばらく見つめて、わずかに息を吐いた。

「変な奴とは思ってたけどここまでとは」

 今はまだ干渉する必要はなさそうだった。雨音の中で、静かに目を細めた。

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