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結婚破棄されたので山にこもったら、なぜか精霊に好かれすぎて信仰対象になりました  作者: なな日々


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第5話 拠点ってどうやって作るんだっけ

 水場を見つけて、ようやく一息ついた。

 喉の渇きが落ち着くと、さっきまでの焦りもすっと引いていく。

 しゃがみ込んだまま、水面をぼんやりと眺めた。

 細い流れだけど、水は澄んでいる。耳に届く音も、やけに心地いい。

「ここに決めた」

 ぽつりと呟く。

 自分でも、早い決断だと思った。

 でも、迷う理由も特に見当たらない。

 水があって、風が抜けて、足場も悪くない。

 それだけ揃っていれば、十分だ。

 ――ここなら、大丈夫。

 立ち上がって、周囲を見回す。

「この場所をメインにしようか」

 視線を巡らせながら、軽く配置を思い描く。

 どこで過ごすか、どこに置くか。

 頭の中で、自然と形になっていく。

 少しだけ視線をずらす。

「あっち、日当たりいいな」

 木々の隙間から、ちょうど光が落ちている場所があった。

「洗ったもの干すなら、あの辺かな」

 ぽつりと呟く。

 ここで生活する自分を想像して、ほんの少しだけ現実味が増す。

「で、寝る場所はここ」

 木の間隔を確認して、足元を軽く踏みしめる。地面の固さを確かめる。

「もうちょっと慣れたら、ちゃんとしたの作りたいな……小屋とか」

 口に出してみて、少しだけ考える。

 すぐには無理でも、形にはできそうな気がした。

「……まあ、いきなりは無理か」

 肩の力を抜く。

「とりあえずは、拠点って感じで」

 そう言って、小さく頷いた。

 軽く周囲を歩いてみる。邪魔になりそうな枝をどけながら、足場を確かめる。

 踏みそうになって、ふと足を止めた。

「あ」

 足元に、小さな芽が出ていた。まだ柔らかそうな緑色。

「……これは、ちょっともったいないな」

 しゃがみ込んで、そっと避ける。

 踏めばそれまでなのに、わざわざ避けたくなる。

 少し進んで、今度は花が目に入る。

「これはそのままでいいか」

 踏まないように、足をずらす。少しだけ遠回りになる。

「後で植え替えようかな」

 拠点の周りに花が咲いている様子を思い浮かべて、自然と口元が緩む。

 そんな余裕があるかは分からない。

 それでも――そういう場所にしたいとは思った。

「まずは火」

 枝を集め始める。乾いていそうなものを選んで、地面に並べていく。

 ナイフを取り出し、石を拾う。

 石を打ち合わせる。

 カチン。カチン。

「……ん?」

 あっさりと、火種が枝の先に移っていた。

「……え、もうついた?」

 昨日あんなに苦労したのに。

 違和感はある。

 けれど、原因は分からない。

 少しだけ考えて――やめた。

「……まあ、いっか」

 今は、それより優先することがある。

 小さく息を吐いて、そのまま火の前に腰を下ろした。

 荷物の中から、小さめの鍋、食器、調味料……必要なものを並べる。

 布に包まれた本日の主食。少し固めのパンがメインだ。

 前世では料理はそれなりに得意だった。

 塩や簡単な調味料、保存できそうな食材は持ってきたけど、無駄遣いしないように気をつけないと。

 水辺が近いから、簡単なスープにした。夜の分も、少し多めに作っておく。

 やっぱり暖かいものは、ほっとする。

 食べ終えて、軽く手を払う。

 ふと、髪に触れた。

「あ」

 指に絡む、長い髪。

 重い。邪魔になる。濡れると乾きにくい。

「よし、切ろう」

 あまり自分で切ったことはないけど、何事も挑戦だ。

 少しだけ考えて、ナイフを手に取る。

 一瞬だけ、手が止まる。

 指に絡む、滑らかな感触。

 丁寧に手入れされてきた髪だ。

「……あー……」

 少しだけ迷って。

 でも――

「……お母さん! ごめん!」

 勢いよく、刃を入れた。

 ざくり、と軽い音がする。

「……少し、切りすぎたかも」

 手に残った髪の束を見て、小さく苦笑する。

 戻ることは、もうない。

 それでも、不思議と後悔はなかった。

「さよなら、お嬢様だった私」

 そのまま、もう一度刃を入れる。

 首元が、すっと軽くなる。

 念のため、水面を覗き込む。

「あ、いいかも!」

 思ったよりも、ずっと悪くない。

 少し短くなっただけで、首元が軽い。視界もすっきりして、動きやすそうだ。

 満足して顔を上げた、その時だった。

「――あ」

 水面の奥に、小さな影がいくつか揺れているのが見えた。

 一瞬、目を細める。

「魚、いる!」

 その瞬間。

「……晩ごはん」

 ぽつりと呟く。

 さっきまでの満足感とは、また違う意味で、口元が緩んだ。

 少しだけ考える。

 火はある。水もある。道具も、最低限は揃っている。

「いけるんじゃない?」

 立ち上がって、周囲を見回す。

 細くて、しなる枝を探す。

 適当に折るんじゃなくて、手で軽くしならせて確かめる。

「これくらいかな」

 一本選んで、ナイフで余分な部分を削る。

「糸はあるし、針……あ」

 小さな布袋を取り出す。

「裁縫用、あった」

 針をつまみ上げて、少しだけ曲げる。

「細いけど、まあいいか」

 簡単な釣り竿ができあがる。

 川辺にしゃがみ込んで、そっと糸を垂らした。

 水の流れる音だけが、静かに響く。

「……釣れる気はあまりしないけど」

 ぼんやりと水面を見つめる。

 川魚は、静かにしないと逃げる。

 前世で、父に何度か教えられたことだ。

 つい話しかけてしまって、よく注意された。

 こういう時間は、嫌いじゃない。

 その時。

 ぴく、と糸が揺れた。

「え?」

 反射的に手を引く。

 ぐっ、と手応えが返ってきた。

「え、ちょっと待って!」

 慌てて引き上げる。

 水しぶきが上がる。

「うわっ」

 ばしゃ、と地面に落ちたのは、小さめの魚だった。

 ぴちぴちと跳ねている。

 一瞬、固まる。

「……釣れた?」

 しゃがみ込んで、じっと見つめる。

「……釣れたわ」

 じわじわと実感が湧いてくる。

 気づけば、口元がゆるんでいた。

「やった」

 小さく笑う。

 火の方へと視線を向ける。

「これ、ちゃんと食べられるよね」

 ぽつりと呟く声は、少しだけ楽しそうだった。

 ――なんとかなるかもしれない。

 そんな感覚が、胸の奥にじんわりと広がっていった。

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