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無自覚聖女から始まる辺境山暮らし 〜婚約破棄されたけど、神獣と精霊に愛されています〜  作者: なな日々
第3章:山の恵みは規格外編

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第62話 騒動の幕引きと、変わらない場所

 教会本部は、未だ騒然としていた。


「ほ、本当に……ヴァルディオス様だったのですか……」


 青ざめた神官の呟きに、大司教は重々しく頷く。


 あの圧倒的な神聖気配。


 人の身では到底届かぬ格。


 疑いようがなかった。


「山への調査は中止だ」


 大司教が低く告げる。


「あのお方は、騒がれることを望んでおられない」


 その言葉に、神官たちが緊張した面持ちで頷いた。


 誰も逆らおうとはしない。


 あの存在を前にしてしまえば、もはや人間側に選択肢など残されていなかった。



「……なんというか、凄いことになりましたね」


 教会を出たルークが、疲れ切った顔で呟く。


 隣を歩くエリオも深々と息を吐いた。


「本当に来るとは思わなかった……」


「しかも正面から名乗られるとは」


「俺もそこまでは聞いてない」


 エリオは頭を抱える。


 そもそも、姿を変えられること自体初耳だった。


 巨大なフェンリルの時点で十分規格外だというのに、人の姿になった途端、妙に威圧感が増すのだからたまらない。


 だが、結果としては最善だった。


 ヴァルディオスの姿を見た者は、大広間にいた神官のみ。その全員が秘匿することになった。


 街中でフェンリルを目撃した者は多いが、そちらはルシアンが「聖女のもとへ神獣が現れた」という話に収めてくれた。


 ある意味、嘘でもない。


「ルシアン様には感謝ですね……」


「ああ」


 最後の情報整理まで引き受けてくれたおかげで、かなり話がまとまりやすくなった。


 あの人が居なければ、今頃もっと大騒ぎになっていたはずだ。


 エリオは空を見上げ、小さく笑う。


「……しかし、本当に規格外だよなぁ」


 地下浄化路を浄化した聖水。


 精霊王。


 そして、その全ての原因になっているセラ。


 だが当の本人は、きっと今日も呑気に石鹸でも作っているのだろう。


 そう思うと、なんだか笑えてくる。



 一方その頃。


「あっ、ノクス!」


 ロッジ前で洗濯物を取り込んでいたセラが、姿を見せた巨大なフェンリルへ気付いて駆け寄った。


「急にいなくなってびっくりしたんだけど!」


「急用があった」


 ノクスは気怠げに答えながら、いつもの岩場へ飛び乗る。


「急用って、エリオたちとコソコソ話してたと思ったらそのまま急に消えてるし!」


「人間共を送っただけだ」


「送った? ノクスが?」


「背に乗せてな」


 セラがぴたりと止まった。


「……えっ?」


 数秒の沈黙。


「えっ!? エリオたち乗せたの!? 私まだちゃんと乗せてもらったことないんだけど!?」


「必要がなかったからな」


「ずるい!」


 セラが抗議の声を上げる。


 ノクスはそんな様子を見下ろしながら、小さく鼻を鳴らした。


「騒がしい娘だ」


「だって気になるよ! やっぱり速いよね!? 高くまでいけるの!? 乗り心地はふわふわ!?」


「……想像に任せる」


「うわぁぁぁ乗りたい……!」


 セラはぷくっと頬を膨らませながら、ノクスの肩へちょこんともたれかかった。


 その銀毛へ頬を埋め、むにむにと押し付ける。


「もふもふだけでも堪能するんだから……」


「おい」


「大きいぬいぐるみみたい」


「失礼だぞ」


 全く聞いていない。


 ノクスは呆れたように目を細めた。


 教会では大騒ぎされてたというのに、この娘だけはいつも通りだった。


 人里へ出向いたのは、いつぶりだろう。


 数百年か。いや、もっと前か。


 そもそも、行くつもりなど最初からなかった。


 エリオが山へ来た時も、話を聞いた時も、ただ面倒事を払えばいいと思っていただけだ。


 なのに。


 我は何をしていたのだろう、と今更ながら思う。


 精霊王などと大仰に名乗って、教会の人間共を黙らせて。


 別に、それほどのことをする必要はなかった。


 もっと手間のかからない方法もあったはずだ。


 (……不思議な娘だ)


 呑気に笑って、好きな事して、明日が来ればまた何かしでかす。


 だから面倒事が向かぬよう、少し手を貸してやった。


 ただ、それだけのことだ。


 そう思いながら。


 ノクスはふと、自分でも気づかないうちにセラの横顔を眺めていたことに気がついた。


(……我らしくもない) 


 答えは出なかった。




 そして、夕暮れが近づく頃。


「……今度乗せてやる」


「ほんと!?」


 セラが勢いよく顔を上げる。


「やったぁ!」


 ころりと機嫌を直した娘を見ながら、ノクスは静かに空を見上げた。


 王都側から流れていた淀みは、一旦落ち着いている。


 人間共の視線も、しばらくは山から逸れるだろう。


 だが――。


(根源が消えた訳ではない)


 あやつに唆された人間がいる限り、いずれまた何かを企てる。


 欲に溺れた人間は、何度でも同じ過ちを繰り返す。


 それを、我は昔から見てきた。


 ノクスは静かに目を細める。


 その隣では。


「今度って明日!? 明日でもいい!?」


 セラがまだ騒いでいた。


(……やはり、騒がしい娘だ)


 呆れながらも。


 その賑やかな声は、不思議と嫌ではなかった。

62話で、第一シーズン終了となりました!


ここまで読んでくださった皆さま、本当にありがとうございます。


1日お休みを挟んで、第二シーズン開始です!


今後は、偽りの聖女側の動きも少しずつ活発になっていきます。


さらにセラには、石鹸に惚れ込んだ“弟子”も登場予定です!


山での暮らしも、これまで以上に賑やかになっていきますので、引き続き楽しんでいただけたら嬉しいです!


「面白かった!」

「これからの展開が楽しみ!」


など、少しでも楽しんでいただけましたら、

下の評価欄から【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、とても嬉しいです!


(皆様の応援が毎日の執筆のエネルギーになっています!)


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