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無自覚聖女から始まる辺境山暮らし 〜婚約破棄されたけど、神獣と精霊に愛されています〜  作者: なな日々
第3章:山の恵みは規格外編

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閑話 届かなかった手紙

 ――これは、ルシアンが胸の内に抱えている後悔の話。




 セラは、貴族に生まれながら魔力がほとんどない。


 けれど不思議と、本人は全く気づいていなかったが、幼い頃から彼女のそばには常に精霊の気配が寄り添っていた。


 目には見えない。

 声も聞こえない。


 それでも、そばにいるとわかる。



 私にとってセラは一緒にいて、居心地の良い相手だった。



 ある時から、聖女イザベラが訪れるようになったのは、弟・ノエルの治療がきっかけだった。


 義母は、実の息子を救ってくれる聖女に深く心酔していた。


 治療の日以外にも、頻繁に屋敷へ招いているらしい。


 そしてある日、彼女は突然言い出した。


「セラちゃんは今後こちらに嫁ぐ立場でしょう? 今からきちんとした教育係をつけた方がいいと思うのよ」


 少し嫌な予感がした。


 けれど、いずれ公爵家へ嫁ぐ立場なのだからと言われれば、断ることはできなかった。


 ――今思えば、あれが始まりだったのだと思う。


義母が、少しずつセラの話を口にするようになったのは。


 最初は些細な違和感だった。


 けれど、いつの間にか話は誇張され、形を変え、セラ本人の知らないところで広がっていった。


 その時の私は、何もできなかった。


 いや。

 正しくは、“気づけなかった”。


 視察で数ヶ月屋敷を離れ、戻った時には、すべてが終わっていた。


「婚約は破棄したわ」


 義母は当然のようにそう告げた。


 抗議しても、聞き入れられることはなかった。


 私はすぐにセラへ手紙を書いた。


 何通も。

 何度も。


 けれど返事は、一度も届かなかった。


 そんな時だった。


 エリオ殿から連絡が来たのは。


 幼い頃、何度か交流はあったが、こうして話すのは久しぶりだった。


 そこで初めて知った。


 セラは、家を出たのだと。



 その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が強く締めつけられた。


 息が詰まり、ふと視界が滲んだ。

 瞬きをした途端に、堪えきれなくなった雫が頬を伝い、そこで初めて自分が泣いていることに気がついた。


 なぜ、もっと早く動かなかったのか。


 なぜ、違和感を放置したのか。


 後悔ばかりが押し寄せる。


 もう一度だけでも会えないだろうか。


 そう伝えたが、返ってきたのは静かな言葉だった。


『今は、そっとしておいてほしい』


 ……当然だ。


 弁解の余地など、どこにもない。



 それからしばらくして、再びエリオ殿から連絡が届いた。


 もう二度と関わることは許されないと思っていたからこそ、その連絡は嬉しくもあり、同時に苦しかった。


 それからは彼と目的を共にすることが増えた。

 彼の手伝いなら、少しでも協力したいと思った。


 エリオ殿が扱う発明品の端々に、どこかセラの優しさを感じる。


 きっと、今も変わっていないのだろう。



 ――いつか。


 いつかまた、話せる日が来るのだろうか。

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