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無自覚聖女から始まる辺境山暮らし 〜婚約破棄されたけど、神獣と精霊に愛されています〜  作者: なな日々
第3章:山の恵みは規格外編

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第51話 石鹸職人セラと、見習い二人

「じゃあ、実際に作ってみよう!」


 セラはぱんと手を叩いた。


 エリオとルークは顔を見合わせる。


「……作るのか、俺たちが」


「そうじゃないと覚えられないでしょ? ルークさん、さっきメモしてたよね? それ見ながら、二人それぞれで作ってみて! 足りないところだけ教えるから!」


「それぞれで、ですか」


「うん! 一個ずつ作った方が絶対覚えるから!」


 ルークは自分のメモを見下ろした。

 セラの手際に見入りすぎて、肝心なところが「※要確認」になっていた。……これで足りるのだろうか。


 エリオはルークのメモをちらりと見た。

 足りるわけがない、と直感した。


「……やってみます」


 ルークは覚悟を決めた。



「まず灰を用意して。かまどの灰を木皿に移して」


 ルークがメモを確認する。『白くて細かい灰を選ぶ ※要確認』


「……白くて細かいやつですね」


 灰箱を覗き込む。


「全部同じに見えます」


「えっ」


 セラが首を傾げた。


「ほら、ここの白いやつ。さらさらしてるでしょ?」


「……あ、なるほど」


 ルークがメモに書き足す。『さらさらしている。触って確認する』


 エリオも隣で覗き込んでいた。


「俺にも全部同じに見える」


「二人とも大丈夫?」


 セラが少し不安そうな顔をした。



「次に布で濾して、水を加えるの」


 ルークがメモを確認する。『絶対に急がない ※要確認』


「ゆっくり、ですね」


 慎重に水を注ぐ。


「そうそう! 上手い!」


 セラが頷く。


 エリオが隣で「……ルーク、俺より上手いな」と呟いた。


「メモのおかげです」


「俺もメモすれば良かった」


「今からでも」


「……いい」



「次は脂を溶かして」


ルークがメモを確認する。『脂は小さく切る ※要確認』


 ルークは丁寧に小さく切って鍋へ入れた。


「完璧!」


エリオも獣脂を鍋に放り込む。


「もっと小さく切って入れた方が溶けやすいよ」


「このくらいで溶けるだろ」


「時間かかるよ?」


「……」


 しばらく待つ。


 確かに、時間がかかった。


「言った通りでしょ」


「……次からはそうする」


 エリオが少し悔しそうな顔をした。


 ルークが追加でメモを取る。『脂は小さく切るのは早く溶かすため。エリオ様は素直に従うべき』


 さらに考えて、書き足す。


『エリオ様は「次からはそうする」と言うが、次も同じことをすると思われる。要観察』



「脂が透明になったら、灰汁を少しずつ入れて。ここからが大事! ひたすら混ぜる」


 ルークがメモを確認する。『腕じゃなくて手首で混ぜる ※要確認』


「手首で、こうですか」


「もう少しゆっくり……そう、それ!」


 セラが隣に来て、ルークの手を取り動きを示す。


「……なるほど」


 ルークがなんとか感覚を掴んでいく。


 一方エリオはというと。


「……っ、溢れる!」


「だから言ったのに! 力入りすぎ!」


「分かってる」


「もう、貸して」


 セラがエリオの隣に来て、手を取り動きを示す。


「こう! 手首で混ぜる」


「……」


 エリオは黙って感覚を掴もうとしていた。


 耳が少し赤い。


 ……気づかない方が平和だろう。



 しばらく混ぜ続けると、二つの鍋の中身がとろりとしてきた。


「あっ、いい感じ! もったりしてきたでしょ?」


「……確かに」


「これを型に流し込んで、固めたら完成!」


 エリオとルーク、それぞれが竹筒の型に、とろりとした液体を慎重に流し込んだ。


「二人とも上手い!」


 セラが満足げに頷く。



 固まるまでの間、三人はテーブルを囲んだ。


「結構大変だな」


「でしょ? 私も何回か失敗したよ」


「……セラでも失敗するんだな」


「するよ! 灰汁が薄すぎたり、混ぜ方が足りなかったり」


 エリオはそれを聞いて、少し黙った。


 こいつも、試行錯誤しながらここまで来たのだ。


「……ルシアンと共同で作った濾過装置の聖水を作って、それを使って石鹸を作ってみようと思ってる」


「聖水で作るの!? それ絶対効きそうだね!」


 セラの目が輝く。


 エリオは静かに頷いた。


(セラの水で作ったものには到底及ばないだろうが……それでも、ただの水よりはましなはずだ)


「試してみる価値はある」


「うん! 絶対うまくいくよ!」


 セラが嬉しそうに笑う。


 エリオはその顔を見ながら、小さく息を吐いた。


 こいつは本当に、自分の作ったものがどれほど異常なのか分かっていない。


 ノクスは少し離れた場所で寝そべりながら、その様子を眺めていた。


(……随分と、賑やかになったものだ)


 かつて静寂だけだった山に、笑い声が響いている。




 後日。


 エリオはテーブルの上のメモに、ふと目が止まった。


「……ルーク」


「はい」


「これはなんだ」


「メモです」


「『エリオ様は素直に従うべき』」


「……はい」


「『次も同じことをすると思われる。要観察』」


「……はい」


「俺は観察対象か」


「参考記録です」


「同じことだろ」


「……お気に障りましたか」


「……」


 エリオは少し間を置いた。


「『要観察』は消せ」


「かしこまりました」


 ルークは静かにメモを取り出し、該当箇所に線を引いた。


 エリオが去った後、書き足す。


『「要観察」は不適切だった。今後は「継続的な記録を残す事とする」』


 ルークはそう書き直すのだった。

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