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無自覚聖女から始まる辺境山暮らし 〜婚約破棄されたけど、神獣と精霊に愛されています〜  作者: なな日々
第3章:山の恵みは規格外編

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第50話 じゃーん!と、困惑する二人

 王都を覆う重い空気。原因不明の皮膚病。


 その解決の糸口が、まさかこんな山奥にあるなど、一体誰が信じるだろうか。


「……相変わらず、ここは別の時間が流れていますね」


 ルークの呟きに、エリオは無言で頷いた。



「あ、エリオ! ルークさんも! どうしたの?」


 ロッジの前で作業をしていたセラが、ぱっと顔を上げる。


 屈託のない笑顔。


 こちらが何を抱えてきても、こいつはいつもこうだ。


 エリオは息を整え、話し始めた。


「少し話がある。以前渡してもらった石鹸なんだが、作り方を教えてほしい」


「石鹸?」


 セラの目が、ぱっと輝いた。


「あれ良かったでしょ!? 実はあれからいっぱい作ってみたの! ちょっと待ってて!」


 返事を聞く前に、ぱたぱたとロッジの中へ駆け込んでいく。


 エリオとルークは顔を見合わせた。

 すぐに戻ってきたセラの手には、大きな木皿があった。


「じゃーん!」


 どん、とテーブルに置かれたそれを見て、エリオとルークは動きを止めた。


 色とりどりの石鹸が、ずらりと並んでいた。


 淡いオレンジ色のもの。薄紫のもの。白に緑の模様が入ったもの。ふわりと花のような香りが漂ってくる。


「これはね、花びらを漬け込んで香りをつけたやつ! こっちは薬草入りで、こっちは色を出すのに花の煮汁を使って……」


 セラが楽しそうに一つ一つ説明し始める。

 エリオは言葉を失い、それを眺めた。

 ルークも同じだった。

 この短期間に、一体何をやっていたんだ。


 予測を遥かに超えてくる目の前の光景に、エリオは隣のルークとただ無言で顔を見合わせた。


「セラ! ちょっとまって!」


「なに?」


「実は今、王都で原因不明の皮膚病が流行っていてな」


 セラの動きが、ぴたりと止まった。


「以前渡してもらった石鹸を試したところ……よく効いたんだ。異常なほど、早く」


「……本当に?」


 今度は静かな声だった。


 さっきまでの弾むような明るさが、すっと落ち着いたものに変わる。


「うん、そっか……困ってる人がいるんだね」


 セラは少し考え込むように視線を落とした。


 その表情を見て、エリオは胸の奥がわずかに痛んだ。


 こいつはいつもそうだ。困っている誰かのことを聞いた瞬間、自分のことのように考え始める。


「だから、量産しやすいものが欲しい。最初の石鹸で構わない」


「あ、でも大量に作るなら私が教えに行った方が早くない? 直接やった方が絶対分かりやすいし!」


(やはり、そう来るか……)


 本人は純粋な善意で言っているのが、余計に頭が痛い。これほどのものを短期間で作れる彼女が今動けば、確実に目立ちすぎる。セラ自身を危険に晒すことだけは、絶対に避けなければ……


「材料と作り方を教えてくれれば十分だ。そうだな……それでも上手くいかなかったときは手伝ってくれないか?」


 セラはしばらくエリオを見つめていた。


 行きたい。

 手伝いたい。


 そんな気持ちが滲むような顔だった。


 だが、やがて小さく息を吐く。


「……分かった。でも本当に上手くいかなかったら、絶対呼んでね?」


「ああ」


「約束だよ?」


「……約束だ」


 セラはそれを聞いて、ようやく頷いた。


「じゃあちゃんとメモしてね」


「ルーク」

「はい」


 ルークが素早く紙とペンを取り出す。


 その動きの素早さに、セラが少し目を丸くした。


「準備いいね」


「お供して日が浅いですが、学びました」


 ルークが真顔で答える。

 セラがくすくすと笑った。


「えっとね、まず灰を用意して――」


 セラが説明を始め、ルークがせっせとメモを取る。


 ノクスは少し離れた場所で寝そべりながら、その光景を眺めていた。


(……どうせ、また面倒なことになるのだろう)


 だが、その目はどこか穏やかだった。

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