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無自覚聖女から始まる辺境山暮らし 〜婚約破棄されたけど、神獣と精霊に愛されています〜  作者: なな日々
第3章:山の恵みは規格外編

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第48話 水辺の村と、小さな違和感

 王都を離れ、エリオは小さな水辺の村を訪れていた。


 本来なら活気があるはずの場所だったが、今はどこか空気が重かった。


「最近、同じ様な症状が増えてるんです」


 案内役の村長が、不安そうに腕を擦る。


「最初は子どもだけだったんですが……今は大人にも」


 エリオは静かに頷いた。


 村の広場には、腕や首元を布で覆った人々が何人も見える。


 掻きむしる手が止まらない者もいた。皮膚は赤く爛れ、見るに耐えなかった。


「井戸水は?」

「今のところ問題ないと神官様は……ただ、川辺で洗濯をしていた者に多い気がします」


 その言葉に、エリオは視線を細めた。




 案内された治療小屋の中は、薬草の匂いで満ちていた。


「熱は?」


「今朝よりは少し下がっています」


 神官が疲れた顔で答える。


 簡易寝台には、十歳ほどの少女が横になっており、腕に赤い湿疹が広がっている。


 エリオはしゃがみ込み、静かに様子を見た。


「いつ頃からだ」


「三日前です。川で遊んだ後から急に……」


 母親らしき女性が、不安そうに娘の手を握る。


 確かに、水辺との関連は見えるのだが。


(黒花に直接触れたわけではない)


 エリオは小さく息を吐いた、その時……


「あれ?」


 近くで薬草を整理していた年配の女性が、不思議そうに首を傾げた。


「そういえば、あの子は症状が軽いねぇ」


「……あの子?」


 女性が指差した先には、水桶を抱えた少年がいた。


 他の子どもたちと同じように川で遊んでいたらしいが、腕にわずかな赤みがある程度で済んでいる。


「何か違いが?」


 エリオが尋ねると、少年は少し困ったように頭を掻いた。


「うーん……なんでだろう」


「坊ちゃんのお父様はこの村の神父さんさ、一度聞いてみたらどうだい」


 エリオはわずかに視線を細めた。


「……案内してもらえますか」


「ええ、もちろんですとも」




治療小屋を出た後、エリオは村の小さな教会へ案内されていた。


「この辺りでは、昔から教会が水の管理も担っておりまして」


 案内役の神官が説明する。


 石造りの小さな礼拝堂。


 だが入口の脇には、見慣れない石台が設置されていた。


 浅い石鉢の中に、水が張られている。


「……これは?」


 エリオが視線を向けると、神官は「ああ」と頷いた。


「礼拝前の清めです。聖水を薄めたものを使っています。この村では昔から、祈りの前に手や肌を洗う習慣がありまして」


 近くでは、子どもが母親に手を洗われていた。


 ぱしゃり、と水音が響く。


「最近は特に、教会に入る時は必ず清めるよう伝えております」


 エリオは静かにその様子を見つめた。


 水で洗う。


 汚れを落とす。


 脳裏に浮かぶのは、あの白い塊と、無邪気な声だった。


『泡立てて洗うと、汚れがすごく落ちるよ!』


 ――まだ、分からない。


 偶然かもしれない。

 考えすぎかもしれない。


 だが。


(……試してみる価値はありそうだ)


 エリオは静かに目を細めた。


 幸い、あの時セラから渡された石鹸は、まだ手元に残っている。


「急ぎ、屋敷へ戻る」


 短く告げると、エリオは踵を返した。


 夕暮れの村を抜ける馬車の向こうで、水辺に咲く黒い花が静かに揺れていた。

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