第47話 書物の記述と、広がり始めた異変
最近になって、王都では妙な報告が増え始めていた。
最初は些細なものだった。
肌が赤く腫れる。
痒みが続く。
水に触れた部分だけが爛れる。
原因不明の皮膚病。
治療院へ運ばれる者は日ごとに増えており、軽症で済む者もいれば、酷い者は皮膚がひび割れ、熱を出すこともあるという。
だが奇妙なことに、皮膚症状を訴える者がいる一方で、発熱や腹痛を訴える者も混在していた。
感染症とも断定できない。神官たちの浄化でも改善しない者が多かった。
「……共通点は、水辺ですか」
エリオは資料から顔を上げた。
向かいに座るルシアンが、小さく頷く。
「今のところは、ね。川沿い、井戸周辺、水運を使う街……報告場所を並べると偏りがある」
机の上には、各地から届いた報告書が広げられていた。
黒花の発見場所。
皮膚病の発生地点。
井戸水の状態。
ひとつひとつは小さい。
だが並べてみると、不気味なほど線が重なっていた。
「黒花との関連を疑ってるんですか」
「疑ってはいる。でも、まだ断定はできないな」
ルシアンは疲れたように目元を押さえた。
「皮膚への接触なのか、口から入ったものが原因なのか……症状が違いすぎて条件が見えない。ただ、水辺に近い者ほど症状が重い傾向はある」
エリオは静かに資料をめくった。
脳裏に浮かぶのは、あの古い文献だった。
――留まり花が教会の外へと広がり始める時、それは世界の均衡が再び乱れ始める兆しである。
まるで、書物の記述をなぞるように現実が動き始めている。
「……嫌な一致ですね」
「ああ」
ルシアンも同じことを考えていたらしい。
短く息を吐くと、新たな資料を手元へ引き寄せる。
「僕はもう少し黒花と水質の関連を調べる。接触と経口、どちらが主な感染経路なのかも絞り込みたい」
「俺は現地の情報を集めます。実際に症状を見た者の話も聞きたい」
役割を確認するように、互いに視線を交わした。




