第46話 広がる不安
教会からの知らせが届いたのは、しばらく経った夜のことだった。
封を開いたエリオは、静かに目を通した。
『黒花の増殖が再び加速しています。濾過装置の増設をお願いしたい』
ようやく落ち着いたと思っていた。
だがそれは、束の間のことだったらしい。
翌日、カーライル家の研究棟を訪れると、ルシアンはすでに机に向かっていた。
資料が山積みになっている。いつになく、その顔が険しかった。
「来てくれたか」
「要請の件ですが、増設だけで対応できますか」
ルシアンは少し間を置いた。
「……正直、厳しくなってきた」
静かな声だった。
「濾過装置で水を綺麗にしても、根本の瘴気が増え続けている。追いつかないんだ」
エリオは黙って続きを待った。
「それに」
ルシアンが資料を一枚めくる。
「教会の外でも、黒花が出始めている」
「外で?」
「井戸の近くや、川沿いでの発見報告が増えている。水辺に数本ずつ。見つけるたびに抜いて対処しているらしいが……」
ルシアンは静かに首を振った。
「抜いても、また別の場所に出る。いたちごっこだ」
エリオの胸に、じわりと嫌な予感が広がった。
教会の地下だけに留まっていた黒花が、外へ出始めている。
水辺に。人々の生活の近くに。
「イザベラ様への依頼も増えているそうだ」
ルシアンが続ける。
「各地から浄化の要請が殺到していて、聖女様も対応に追われている。それでも増殖速度が上がり続けている」
しばらくして、ルシアンが書棚から一冊の古い書物を引っ張り出してきた。
年代の記された表紙を見て、エリオは目を細めた。
百年前の古い記録だ。
「黒花が外に出た記録を調べていたんだが、これを見つけてね」
ルシアンは少し苦笑した。
「うちの書棚にあったんだ。知らなかった」
ページをめくりながら、エリオの隣へ並ぶ。
二人で静かに目を通していく。
しばらくして、ルシアンのページをめくる手が止まった。
「ここを見てほしい……百二十年前にも、外に出ている」
エリオは黙って続きを読んだ。
読み進めるほど、胸の奥に重いものが積もっていく。
やがて最後の一行まで読み終えて、二人とも口を開かなかった。
沈黙が、部屋に満ちた。
「……守り、支えよ、か」
ルシアンが静かに呟いた。
エリオは何も言えなかった。
脳裏に浮かんだのは、山で笑うセラの顔だった。
「面白かった!」「これからの展開が楽しみ」など、少しでも楽しんでいただけましたら、
下の評価欄から【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、とても嬉しいです!
(皆様の応援が毎日の執筆のエネルギーになっています!)
ブックマーク追加もぜひよろしくお願いいたします。
※本作はアルファポリス様でも重複投稿を行っております。




