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無自覚聖女から始まる辺境山暮らし 〜婚約破棄されたけど、神獣と精霊に愛されています〜  作者: なな日々
第3章:山の恵みは規格外編

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第44話 香り付けと、逃げ出す精霊たち

 朝から、セラがそわそわしていた。


 ロッジの周りをうろうろしながら、薬草やら花やらを眺めては首を傾げている。


 ノクスは木陰に寝そべりながら、その様子を眺めた。


(……また何かするつもりか)


 特に驚きはしない。


 この娘は思い立ったら止まらない。それはもう、よく分かっていた。


「ノクス! 石鹸にいい匂いをつけたいんだけど、この辺に香りのいい花ってある?」


「……石鹸とやらは、もう完成したのではないか」


「完成はしたんだけど、獣脂の匂いがちょっと気になってて。もうちょっといい匂いにしたら、もっと使いやすくなるかなって!」


 ノクスは静かに息を吐いた。


(……なるほど。終わりがないわけだ)


 だが、止める気はなかった。


「少し先登った所に、オレンジ色の小花が群生している。香りは悪くない」


「本当に!? ありがとう、ノクス!」


 セラはぱっと顔を輝かせて、駆け出していった。


 しばらくして、セラは両手いっぱいに花を抱えて戻ってきた。


 上機嫌で鍋に放り込み、水を加えて火にかける。


「これ煮出したら絶対いい匂いになるはず!」


 ノクスはその様子を眺めながら、ふと気配を感じた。


 山に満ちる小さな精霊たち。


 セラの周りに集まり、楽しそうにその様子を見ている彼ら――今日も、興味津々といった様子で鍋を遠巻きに眺めている。


 煮立ち始めた鍋から、ふわりといい香りが漂う。


「わあ、いい匂い! これは成功じゃない!?」


 だが。


 石鹸の材料に混ぜ込んだ途端、香りはあっという間に飛んでしまった。


「……あれ?」とセラが首を傾げる。


「匂いが全然しなくなっちゃった……あっ、でも色がついたよ! キレイ!」


 セラは目を輝かせた。うっすらオレンジ色に染まった石鹸の素をしげしげと眺めながら、ふと思い出す。


 「そういえば、石鹸って香りだけじゃなくて見た目も楽しめるんだよね。色とか、形とか……それこそお花そっくりの石鹸が売ってたりして、見てるだけでも楽しかったな」


 ノクスの眉がわずかに動いた。


(……花そっくりの石鹸。何のために)


「……?」


(……色に気を取られているが、本来の目的を忘れていないか)


「でも匂いが飛んじゃったのは残念だな。次は薬草を試してみよう!」


 忘れていなかった。



 二度目。


 今度は薬草を煮出してみたらしい。


 ノクスの目に、精霊たちが一斉に後退する様子が映った。


(……酷いな)


「うっ……なんか薬っぽい匂いになっちゃった」


 セラが顔をしかめる。


 精霊たちはさらに遠ざかった。


「煮るのが良くないのかな……」


 セラはしばらく腕を組んで考え込んだ。


「そうだ。煮るんじゃなくて、油に漬け込んだらどうだろう? そしたら香りが飛ばないかも!」



 三度目。

 花びらを丁寧に選り分け、オイルの中へそっと漬け込んでいく。


 火は使わない。ただ、じっくりと時間をかけて香りを移していく。


 ノクスは遠巻きにしていた精霊たちをちらりと見た。


 さっきまで逃げ出していた彼らが、少しずつ近づいてきていた。


(……ほう)


 時間をかけて待った後、セラはそっと花びらを取り出し、香りの移ったオイルを石鹸の材料へ混ぜ込んだ。


「これ、どうかな……」


 恐る恐る鼻を近づける。


「あっ! ちゃんといい匂いがする! 飛んでない!」


 精霊たちが、一斉に集まってきた。


 我先にと香りを嗅ごうとして、押し合いへし合いしている。


(……先ほどまで逃げ回っていたくせに)


 現金なものだ、とノクスは思った。



「できた!!」


 セラが満面の笑みで石鹸を掲げた。


 仕上がったそれは、ふわりと花の香りを纏った、柔らかな仕上がりだった。


「ノクス! 嗅いでみて! 今度はちゃんといい匂いでしょ!?」


 ぐいと差し出された石鹸に、ノクスは静かに鼻を近づけた。


 悪くない。むしろ、清々しいとすら言える香りだった。


「……まあ、良いのではないか」


「やったー!」


 セラが嬉しそうに跳ねる。


 ノクスの目には、精霊たちがセラの周りで喜ぶように舞っている様子が見えていた。


(……まったく)


やれやれと思いながらも、ノクスはその光景を眺め、穏やかな眼差しを向けていた。

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