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無自覚聖女から始まる辺境山暮らし 〜婚約破棄されたけど、神獣と精霊に愛されています〜  作者: なな日々
第3章:山の恵みは規格外編

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第42話 教会の地下へ

 ルシアン聞いた聖水の件は、想像以上に深刻だった。


 数日後、ローエン家にもカーライル公爵家との共同視察の通達が届いた。場所は王都中央大聖堂。


 その話を持ってきた父は、書類を机に置いたままエリオを見た。


「今回はお前に任せる。よろしく頼む」


 エリオは静かに頷き、準備を整えた。



 大聖堂の正門をくぐると、出迎えた司祭が深々と頭を垂れた。


「カーライル様、ローエン様。お待ちしておりました」


 案内されたのは、回廊の奥。

 普段は関係者しか立ち入れないという扉の前で、司祭が一度足を止めた。


「……心の準備を」


 その一言が、妙に重かった。




 地下へ続く石段を下りるにつれ、空気が変わった。

 冷たく、湿っていて、そして――どこか甘い。


 花の香りだ、とエリオが気づいた時には、すでに扉が開かれていた。


「――」


  話には聞いたことがあった。


 留まり花。

 瘴気を吸い、穢れを花弁へ移す浄化植物。


 本来なら、穢れを吸い切れば白い花弁から順に朽ち、やがて枯れるはずの花だ。


 だが――


 床一面を埋め尽くす花々は、枯れるどころか黒く咲き誇っていた。


 白から灰へ。灰から黒へ。それでも花弁は艶めき、甘い香りを放ちながら、まるで闇そのものを喰らって育っているようだった。


 美しい。


 その美しさが、余計に禍々しかった。


「……これが、全部」


 エリオの声が、思ったより掠れた。


「増え続けております。聖水での対処も、もはや追いついておりません」


 司祭の声は静かだったが、その目には隠しきれない焦燥が滲んでいた。


その時、隣に立つルシアンが静かに口を開いた。


「……根は、どこまで広がっている」


「それが、把握しきれておらず……」


 ルシアンは何も言わなかった。

 だがエリオには、その質問の意味が分かった。


 地下で管理できなくなれば、花は新たな栄養を求めて広がり続ける。

 根が地上へ届いた時、この花々は一体どこまで伸びていくのか。


 王都の地下を。街を。人々の足元を。


「あまり長時間おいでになると、お体に障ります。地上へ戻りましょう」


 促されるまま石段を上がりながら、エリオはまだあの花の艶を瞼の裏に感じていた。


 地上に出ると、外の空気が妙に美味しく感じた。


 ルシアンが静かに空を見上げながら呟く。


「……急がないといけないね」


 エリオは無言で頷いた。


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