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無自覚聖女の辺境山暮らし 〜婚約破棄されたけど、新しい相棒と精霊に愛されています〜  作者: なな日々
第2章:広がる噂は規格外編

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第30話: 噂の正体を追って

 翌日の昼下がり。

 王都の端にある冒険者ギルドは、今日も酒と料理の匂い、そして荒々しい笑い声で満ちていた。

 

 エリオは目立たないように地味なローブを羽織り、ギルドの片隅の席でエールを傾けていた。目的は、兄ルーカスから命じられた『妹に関する変な噂が流れていないか』の調査である。

 だが、いくらセラでもそう簡単に奇跡をバラ撒くわけがないという淡い期待は、隣のテーブルから聞こえてきた会話によって、あっさり砕かれた。

 

「おい聞いたか? また東の山で遭難しかけた奴が出たらしいぜ」

「ああ、『神隠しの聖女』を探しに行った馬鹿どもだろ? 目印の岩の周りを何時間も歩かされて、結局逃げ帰ってきたそうだ」

 

(……神隠しの、聖女……?)

 

 エリオは手元のジョッキをピタリと止めた。

 

「でもよぉ、“ルーンシーカー”の話はマジなんだろ? 他のメンバーは全滅したのに、あの二人だけは奇跡的に助かったって。死にかけの瘴気をただの水で洗い流して、精霊が舞い踊ってたらしいじゃねえか」


「俺は信じねえな。あの山はな、入ったが最後、同じ場所を延々と歩かされるって話だろ。そんなところで“都合よく助かる”なんて、出来すぎだろ」

「だから『神隠し』なんだろ――」「でもよ、ピンク髪の女と、その後ろの暗がりに潜んでたっていう『姿なき恐ろしい化け物』なんて、嘘にしては妙に具体的すぎねえか?」

「……気味が悪いな」

 

 エリオは手元のジョッキを静かにテーブルに置いた。


 立ち上がりざま、エリオはギルドの受付嬢と親しげに話すふりをして、カウンターに銀貨を滑らせた。

「さっきの連中が話してた、東の山から帰還したパーティー、ルーンシーカーについて教えてくれないか」

「あ、ええっと。ここのギルドで結構有名な中堅のパーティーだったのですが……今回戻ってこられたのは魔術師のルークさんと剣士のゼインさんのみですね。あんな事があったので活動は暫くお休みされると聞いてます……」必要な情報を拾い終えたエリオは、誰の目にも留まることなくギルドを後にした。


 ◇


 ほどなくして、ローエン家の執務室。

 ルーカスは、入室してきた弟の僅かに硬い表情を見て、静かに手を止めた。


「それで、どうだ? 顔を見れば大体察しはつくが」

「兄上の懸念通りだ。すでに『神隠しの聖女』として噂が出始めている」

「……そうか」


 ルーカスは深く、ひどく深く息を吐き出した。

 ――面倒なことになった。しかも、最悪の形で。


「死にかけた冒険者を水で回復させ、そのまま姿を消したようだ。ピンクの髪も……それと、“何か”が背後にいたって話まで出回っている」

「余計な尾ひれまでついたか……」


 こめかみを押さえ、ルーカスは小さく息をついた。


「結界のおかげで、まだ誰も辿り着けてないようだが」

「時間の問題だな……」

「ああ。すでに助けられた冒険者たちの話が広まってしまった。彼らにこれ以上広めて欲しくないんだが」

「大元の情報源は特定できているのか?」

「先日東の山で全滅しかけたのは中堅パーティーの『ルーンシーカー』それの生き残りだ」

 

 エリオは一歩前に出て、声を潜める。

 

「ギルドの受付に銀貨を握らせて裏はとった。活動はしばらく休止するみたいだが……実績もあるようだし、『信頼できる冒険者』だとは言っていたな」

「ルーンシーカー……」

 

 その名を口の中で反芻し、ルーカスはわずかに目を見開いた。

 

「ああ、確かに聞いたことがあるな。」

「どうする。圧力をかけて無理やり口を塞ぐか?」

 

 エリオの問いに、ルーカスは怪訝そうに眉間に皺を寄せた。

 

「お前、自分で『信頼できる』と聞いてきたんだろう。なぜわざわざ角を立てる」

「確実を期すなら、多少脅してでも黙らせるのが手っ取り早いかなと」

「下策だな。まだ人物も見ていない相手に、無用な敵意を向ける必要はない」

「……確かに」

「まずは利を示す。こちらにつく理由を与えろ」


 ルーカスは淡々と続ける。


「恩義だけで縛れるとは思っていない。だが、損得で動くなら話は早い」


「なるほど」


「見極めはその後だ。——使えるなら取り込み、危ういなら切る」


「わかった。すぐに行ってくるよ」

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