第27話 巨大卵と、前世で夢見たパンケーキ
「持ってきたぞ。ほら」
しばらくして戻ってきたノクスは、風の魔法を器用に使い、私の顔ほどもある巨大な卵を三つ、ふわりと地面に降ろした。
薄いクリーム色の殻は分厚く、ちょっとやそっとじゃ割れそうにない。
「ノクス、ありがとう! 天才! 最高!」
「ふん。さっさとその肉を焼くんだな」
「もちろん! お肉は豪快にステーキにするよ。でも――」
私はにやりと笑う。
「せっかくこんなすごい卵があるんだから、『あれ』を作る!」
腰に下げている『マジックボックス』から、布袋を取り出す。
中には、真っ白な小麦粉と、貴重なお砂糖。実家を出る前に、しっかり詰め込んできた大切な食材だ。
まずはメインの準備から。分厚く切った鳥肉に塩と香草をまぶし、焚き火の上の網に乗せる。
――ジュゥゥッ!
音と同時に、香ばしい匂いが一気に広がった。
ノクスの尻尾が、パタン、パタンと忙しなく揺れる。
「よし、その間に卵!」
私は巨大な卵を手に取った。
……が。
コン、と石で叩いても、びくともしない。
「固っ!? なにこれ!?」
何度か試して、最終的に尖った岩に思いきり叩きつける。
――バキンッ!
「割れた!」
中から、とろりと濃いオレンジ色の黄身と、たっぷりの白身が溢れ出した。普通の卵とは比べものにならない量だ。
「これを……混ぜる!」
小枝を束ねた即席の泡立て器で、ひたすらかき混ぜる。
空気を含ませるように。ふわっと軽くなるまで。
そこへ、小麦粉と砂糖をたっぷり加える。ぐるぐる、ぐるぐる。
混ぜていくうちに、生地はとろりと艶を帯びていった。
「よし、これでいける!」
油を引いたフライパンに流し込み、蓋をする。そのまま石窯の中へ。あとは、待つだけだ。
前世の記憶の中にある、小さな夢。
何度も何度も読み返した絵本に出てきた、ふわふわのパンケーキ。ずっと食べてみたかったけれど、結局一度も叶わなかった。
だからこれは、私にとって少しだけ特別な挑戦だった。
「お肉も焼けたし……そろそろかな!」
石窯からフライパンを取り出す。
ノクスも、肉にかぶりつくのをやめてこちらを見ている。
「いくよ、ノクス。オープン!」
蓋を持ち上げた、その瞬間。
ホワァァァァァッ……!
「わぁぁ……っ!」
思わず声が漏れた。
フライパンいっぱいに膨れ上がった、黄金色のパンケーキ。
こんもりとしたドーム状で、甘い香りが湯気と一緒にふわりと広がる。
指でそっと押すと、しゅわ、と沈んでまた戻る。
それだけで分かる。絶対に、美味しい。
「な、なんだこれは……」
ノクスが目を丸くする。
「卵と粉が、なぜこんなになる」
「ふふん、料理の魔法だよ!」
ナイフでざっくりと切り分ける。断面から湯気が立ち上り、ふかふかの生地が顔を出した。
私は一口、ぱくりと齧る。
「んん〜〜〜っ! ふわっふわ! あま〜い!!」
外はほんのり香ばしく、中はしっとり軽い。卵のコクと甘さがじゅわっと広がる。
これだ。ずっと夢見ていた味。
「ノクスも食べてみて!」
「……甘いものなど、我は――」
言いかけて、止まる。差し出されたパンケーキをじっと見つめ、鼻先がひくひくと動いた。
「……む。この匂い……」
「この前のドーナツみたいな感じだよ。でも――」
私はにやりと笑う。
「出来立ては、もっと美味しい」
ノクスは少しだけ迷って――ぱくりと口に入れた。
……ピタッ。
動きが止まる。
青色の瞳がぱちりと瞬き、そして、フライパンをガン見した。
「……おい」
「ん?」
「もっと寄越せ」
「えっ、でもお肉まだ――」
「いいから!」
ぐいっと顔を近づけてくる。
「その『ふかふか』をもっと寄越すのだ!!」
「あははっ! わかった、順番ね!」
◇
夜の森。焚き火の音と、笑い声。
豪快な肉と、甘いパンケーキ。
交互に頬張りながら、私たちはお腹がはち切れそうになるまで食べ続けた。
前世で叶わなかった夢が、今ここにある。それが、なんだか少しだけ嬉しかった。
ゴールデンウィークですね!
セラたちは相変わらず山で好き勝手やってますが、
こういう「のんびり温泉+美味しいご飯」な過ごし方も
連休っぽくていいなと思いながら書いていました。
皆さんも良いGWをお過ごしください!
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