第25話 開通する水路と、極上の焼き石露天風呂
翌朝。
私は朝日が昇ると同時に跳ね起き、急いで大きな岩の裏側へと向かった。
一晩かけてゆっくりと熱を逃がした浴槽用の穴は、すっかり火が消え、ほんのりと温かい灰だけが残っている。
細い木の枝を集めて作った箒を使って灰を綺麗に掻き出すと、そこには熱でカチカチに焼き締まった、立派な「即席・陶器のバスタブ」が完成していた。
指の関節で軽く叩いてみる。
――コンコンッ。
「やった……! ちゃんと硬い音がする! ひび割れもしてないよ!」
「騒々しいやつだ。朝からよくそれだけ元気があるな」
あくびをしながらやってきたノクスに、私は自慢げに胸を張った。
事前の乾燥作業をしっかりやったおかげで、完璧な素焼きの器が出来上がったのだ。
「器ができたら、次はお水! 昨日準備した竹の出番だよ!」
私は、半分に割って節を抜いておいた竹を抱え、小川の上流へと向かった。
川の水を竹の管に引き込み、少しずつ高低差をつけながらツルで縛って繋ぎ合わせていく。
途中で水がこぼれないように微調整を繰り返し、ついに最後の竹の先を、岩裏の浴槽へと向けた。
チョロチョロ……トクトクトク……。
心地よい水音と共に、澄み切った川の水が竹を伝って、浴槽へと注ぎ込まれ始めた。
濁ることもなく、水漏れもしていない。
完璧な手作り水路の開通だ。
「大成功! これでもう、毎日重い水差しを持って往復しなくてもいいんだよ!」
いつでも拠点で水が使えるという劇的な生活の進歩に、私は一人でガッツポーズをした。
「じゃあ、お水が溜まるまでの間に最後の仕上げ! ノクス、少し離れててね!」
私は焚き火を大きく起こし、数日前に川原で厳選しておいた「乾いた大きな石」をいくつか放り込んだ。
パチパチと音を立てて熱され、石の表面が白っぽく変色していく。
芯までアツアツになった証拠だ。
浴槽にたっぷりと水が溜まったのを確認し、私はスコップで、火の中から慎重に焼き石を取り出した。
「いくよー!」
私はその石を、水の張られた浴槽の中へ、思い切りドボンッ!と投げ入れた。
――ジュワァァァァッ!!!
激しい音と共に、真っ白な湯気が一気に立ち上る。
一つ、二つと焼き石を追加していくと、冷たかった川の水はあっという間にポコポコと泡を立て、触れてみるとちょうどいい適温の「お湯」へと変わっていた。
「完成! 数日がかりの特製・焼き石露天風呂!」
私は歓声を上げ、さっそく服を脱いだ。
(もちろんノクスには岩の向こうを向いていてもらった)
そっと足先を入れ、温度を確かめてから、肩までゆっくりとお湯に浸かる。
「はぁぁ〜…………極楽ぅ……」
全身の力が抜け、思わずだらしない声が漏れた。
じんわりと温かいお湯が、土木作業で泥だらけになり、数日間酷使してバキバキになった筋肉を優しく解きほぐしていく。
森の木漏れ日と、爽やかな朝の風。
そして手作りのお風呂。
王都の屋敷にあった豪華な浴室でも絶対に味わえない、最高の贅沢だった。
「……おい。いつまで入っているつもりだ。ふやけるぞ」
岩の向こう側から、ノクスの呆れたような声が聞こえてくる。
背中を向けているとはいえ、一応護衛として近くで見張っていてくれているらしい。
「もうちょっとだけー。すっごく気持ちいいから、ノクスも入ってみる? 毛並みがフワフワになるかもよ?」
「断る。余は濡れるのが嫌いだと言ったはずだ」
「そっかぁ。残念」
私は鼻歌を歌いながら、温かいお湯の中で手足を思い切り伸ばした。
数日間の苦労が、文字通りお湯に溶けて消えていくようだった。
◇
……心地よいお湯に浸かってすっかりリラックスしているセラは、もちろん気づいていなかった。
彼女が浴槽の底に塗り、焼き固めた粘土。
元はただの土だったはずなのに、泥だらけになりながら一生懸命こねたせいか、いつの間にかひび一つ入らないしっかりしたものになっている。
水を引いてきた竹のような植物にも、彼女が楽しそうに作った水路に惹かれたのか、水がやけに滑らかに流れていた。
そして湯に触れるたび、体の奥からじんわりと温まっていく。
(なんだか、すごく身体が軽いなぁ。お風呂ってやっぱり最高!)
彼女はただの「ちょっとしたキャンプの工夫」だと思っているが、セラのことが大好きな精霊たちは総出で(勝手に)手を加えたらしい。
気づけばその水は、浸かるだけで体の奥までじんわりと軽くなる、不思議なものに変わっていた。
数日後、このお風呂の残り湯が染み込んだ地面から、季節外れの花が静かに咲き始めるのだが――それはまた、別のお話である。
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主人公が山で呑気にモフモフと戯れているその裏で、実はあの「婚約破棄」を仕組んだ黒幕が完璧な計画を進めていました……。
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