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無自覚聖女の辺境山暮らし 〜婚約破棄されたけど、新しい相棒と精霊に愛されています〜  作者: なな日々
第2章:広がる噂は規格外編

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第24話 手作りお風呂計画と、数日がかりの準備

「うーん……やっぱり、お湯に浸かりたいなぁ」


 石窯で焼いた極上のれんこんを満喫したあと。


 水浴びで泥は落としたものの、ふと自分の腕を嗅いでみると、ほんのりと土と汗の匂いがした。毎日冷たい水で身体を拭くだけでは、やっぱり限界がある。何より私は今、猛烈に「温かいお風呂」を欲していた。


「よし、お風呂作ろう!」


「……お前は本当に、次から次へと思いつく奴だな」


 いつもの岩場でくつろいでいたノクスが、片目だけを開けて面倒くさそうに尻尾を揺らした。


「だって、せっかく美味しいご飯が食べられるようになったんだから、次はお風呂でしょ? 生活を豊かにしていく基本だよ」


「勝手にしろ。余は手伝わんぞ」


「ふふっ、分かってるって」


 私は気合いを入れて袖を捲り上げ、スコップを手に取った。


 お風呂を作るといっても、魔法でポンと温泉を湧かせるわけにはいかない。地道な土木作業の始まりだ。


 まずは、拠点の端にある大きな岩の裏側を少し掘り下げる。ここなら岩が目隠しになってくれるし、広さもちょうどいい。


 ザクッ、ザクッと土を掘り返し、私が足を伸ばして座れるくらいの大きさの浅い窪みを作っていく。さらに、掘った穴の底と側面に、水を少し混ぜて練り直した粘土をペタペタと分厚く塗り広げていく。


「ふぅ……よし! 浴槽のベースは完成!」


「……これでもう、湯を入れられるのか?」


「ううん、このままだとお湯を入れたらドロドロに溶けちゃうから、火を燃やして『素焼き』の器にしなきゃいけないの。でも――」


 私は、ペタペタと光る分厚い粘土の表面を指差した。


「塗ったばかりの濡れた粘土をいきなり火で炙ると、中の水分が沸騰してパキーン!って割れちゃうんだよ。だから、まずは風と太陽の光で、中までしっかり『自然乾燥』させなきゃいけないの。これだけ厚く塗ったから……数日はかかるかな」


「……随分と手間と時間がかかるのだな」


「美味しいご飯と快適なお風呂のためなら、待つ時間も楽しいよ! というわけで、粘土が乾く数日間の間に、お風呂グッズの準備を進めよう!」


 お風呂を作っても、毎回川から重い水を汲んで往復するのは重労働すぎる。川から直接水を引くための水路作りも、このお風呂計画の重要な一部なのだ。


 その日の午後は、少し上流の川辺へ向かい、群生している竹によく似た中空の植物を何本も切り倒して拠点に運んだ。


 翌日は、その竹をナイフで真っ二つに割り、中にある「節」を石でコンコンと叩き割って、水がスムーズに流れるように下準備をする。


 さらにその次の日は、日当たりのいい川原を歩き回り、「大きくて、しっかり乾いた石」を厳選して拾い集めた。川の中にある濡れた石を火にくべると、これまた中の水分が膨張して弾け飛ぶ危険があるからだ。


「よし、竹の準備も石の準備も完璧!」


 そして、数日後。


 浴槽に塗った粘土を見てみると、風と日差しのおかげですっかり水分が飛び、表面全体が白っぽく硬くなっていた。触ってみても、ひんやりとした湿り気はもうない。


「いい感じに中まで乾いてる! これなら火を入れても割れないはず!」


 私は、ノクスが(手伝わないと言いつつ)森から咥えて持ってきてくれた乾燥した薪を、粘土の穴の中にたっぷりと敷き詰め、火を放つ。


 パチパチという軽快な音がやがてゴォォッという低い音に変わり、炎が勢いよく立ち上った。


「うわっ、熱いっ」


「離れていろ。毛が焦げる」


 ノクスと一緒に少し離れた場所に座り、赤々と燃える炎を見つめる。ガンガン燃やして、穴の表面をカチカチの陶器に変えてしまう作戦だ。


 日が傾き、森が夜の静寂に包まれても、即席の窯となった穴の中で炎は燃え続けていた。


「急激に冷ますと割れちゃうから、このまま一晩かけてゆっくり熱を逃がそう」


「……明日には、入れるのか?」


「うん! 明日、準備しておいた竹を繋いでお水を引いて、拾った石を焼けば完成だよ!」


 隣で丸くなるノクスの温かい毛並みに寄りかかりながら、私はパチパチと爆ぜる火の粉をぼんやりと見つめた。


 泥だらけになって疲れた身体は重いけれど、数日がかりのプロジェクトが明日ついに完成すると思うと、胸の奥がじんわりと温かかった。

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