表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無自覚聖女のモフモフ山籠り生活 〜婚約破棄されたので山にこもったら、なぜか信仰対象になりました〜  作者: なな日々
第1章:お山スローライフの基盤作り編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/26

第16話 水は、綺麗な方がいい

 ロッジの外観が完成した翌日、今日からは内装の整備だ。

 朝からロッジの中では、木を叩く鈍い音と、エリオの威勢のいい声が響いている。

「ほら、そこ。脚の角度がズレると寝てる間に崩れるぞ。……よし、これでベッドの土台は完成だ」

 エリオが、簡素な、けれどもしっかりとした木枠を指さした。

 釘なんて使わなくても、二股の枝に横木を噛ませ、丈夫なツタで力任せに縛り上げればこれくらいはすぐらしい。体重がかかるほどに締まって安定する、騎士団の遠征先で培われたサバイバル技術の結晶だ。

「すごいね。本当に寝られそう」

「寝られそうじゃなくて、寝るんだよ。お前、あんなハンモックでずっと過ごすつもりだったのか? ……まあ、机も適当な板を打ち付けておいたから、そこで好きにしろよ」

 エリオは汗を拭いながら、部屋の隅に設えた作業台を叩く。


 ふと、至近距離で私と視線が合ったエリオが、思い出したように眉を寄せた。

「……なぁ。ずっと言いたかったんだけどさぁ、その髪なに?」

「ん? ああ、気づいてたんだ」

「気づかないわけないだろ。会った時、心臓止まるかと思ったんだからな。ショックでなにかあったのかと……」

「大げさだなぁ。邪魔だったから切っただけだよ」

「……至近距離で見ると、本当にお前、俺にそっくりだな。鏡見てるみたいで落ち着かないわ。双子だってのを嫌でも思い知らされるっていうか」

「確かにそっくりだね。じゃあ、いざとなったらエリオが私のふりして家に帰ってもバレないね」

「バレるわ! 声の高さも体格も違うだろ!」

 間髪入れぬツッコミを投げ、エリオは「はぁ……」と深いため息をついた。気恥ずかしそうに視線を逸らすと、また無骨な作業台に向き合う。

 私はロッジの中に入って、足元を見た。地面はそのままだ。踏み固められてはいるが、少し湿っていて、このままでは生活しづらい。

「……あー、これ嫌だな。不衛生だし、何より落ち着かない」

 私は外に出て、乾いた草を大量に集めてくると、手早く中へ運び込んだ。

 ベッドの枠の中に厚く敷き詰め、床にも適当に広げて足で踏みならす。さく、と軽い音がして、足元が柔らかくなった。

「とりあえず、これでいいか」

「……雑だな。お前、家ではもっとこう、神経質に試行錯誤してただろ」

「それは昔の話。今はこれくらいでいいの。……それよりエリオ、水どうしよ」

「水? 少し離れたところに川があるだろ。汲んでくりゃいい」

「毎回汲みに行って、そのまま使うのは面倒なんだよね。置いておきたいけど、衛生面が気になるし」

 その一言で、私のやることは決まった。

 川の水は、見た目には十分綺麗だった。

 けれど、手のひらですくって光にかざすと、透明に見えても細かい砂や不純物が混じっている。

(水は、そのまま飲むな。して、できれば火を通せ)

 ふと、そんな知識が頭をよぎる。

 どこで聞いたのかは分からない。でも、それが正しい気がした。

「せっかくだし、ちゃんとしとこ」

 私は立ち上がり、周囲を歩いて使えそうなものを拾い集めた。

 平たい石。細かい砂。乾いた木片。それから、昨夜の焚き火の跡に残っていた炭。

「……炭、これが重要なんだよね」

 石を組んで、簡単な受け皿を作る。その上に布を敷き、砕いた炭を広げる。その上に砂を重ね、最後にもう一枚、布をかぶせた。

 手順としては単純だ。けれど、なぜかその並びが、指先に吸い付くようにしっくりと来た。

「こんな感じ、だった気がするんだよね」

 誰に言うでもなく呟き、水袋から水を注ぐ。

 ゆっくりと、水が落ちていく。砂を通り、炭を通り、布を抜けて――下に置いた器へと、ぽたり、と滴る。

 やけに澄んだ音が、静かに響いた。

「……ん?」

 落ちてくる水は、最初に見たときよりも明らかに透明だった。

 濁りが完全に抜け、光の反射が宝石みたいに綺麗に見える。

 指先ですくって口に含む。

「うん、大丈夫そう」

 冷たくて、喉を滑り落ちる感覚が心地いい。

 それは私にとって、ただの「日常的な確認作業」だった。

 けれど、そのすぐそばで、空気がわずかに揺れた。

 小さな光が、ひとつ。ふわりと水の上に降りる。続けて、もうひとつ。

 やがて、いくつもの淡い光が集まり始めた。

ーーきれい

 私には聞こえない、かすかな声が重なる。

ーーこんなの、見たことない

 精霊たちは、水面の上でくるくると回る。

 触れて、離れて、また触れて。まるでお伽話に出てくる聖水を確かめるように。

 ただの濾過装置を通ったはずの水は、精霊たちの歓喜に呼応するように、わずかに青白く輝いていた。

「……それ、どこで覚えたの」

 背後から、エリオの声がした。振り返ると、彼は机の調整をしていた手を止めて、眉を寄せて立っていた。

「なんとなく? 石と砂を重ねれば、綺麗になるかなって。ほら、エリオも飲む?」

「……いや、いい。なんかそれ、俺が飲んだらバチが当たりそうだし。第一、そんなもん通しただけで味が変わるわけ――」

 エリオは毒づきながらも、私の手元にある、やけに澄んだ水が気になって仕方ないようだった。

 私が無言で器を差し出すと、彼は「一口だけだぞ」と奪い取るように受け取った。

 ごくり、と喉が鳴る。

「……えっ?」

「どう?」

「……なんだこれ。川の水より冷たく感じるっていうか……雑味がなくて、体にスッと入ってくる。おい、お前。家でやってたあの『泥水いじり』、本当はこれの研究だったのか……?」

「泥遊びって言ったの、エリオでしょ」

「……あー、もう分かったよ! 認めりゃいいんだろ、お前が変な天才だってことは!」

 エリオは最後の一滴まで飲み干すと、悔しそうに器を突き返してきた。

 同じ顔をしているはずなのに、目の前の妹が、自分たちの知らない、もっと深くて穏やかな領域に踏み込んでいるような気がした。

「……まぁ、いいけどさ。腹壊さないなら。……おい、おかわりあるか?」

「自分で濾してよ」

「冷たいな! 兄貴だぞ!」

 エリオは文句を言いながらも、どこか嬉しそうにロッジの中へと戻っていく。

 私はそのまま、水をもう一度見下ろした。

 光の粒が踊っていることなど露知らず、ただ「冷たくて美味しい水」が出来たことに満足していた。

「これでよし」

 小さく呟いて、立ち上がった。

 やることは、まだある。内装だってもっと快適にしたいし、料理の場所も決めなきゃ。

 でも、少なくともこれで困ることはひとつ減った。


 この時、セラが何気なく作り出した「ただの水」が、後に多くの存在を惹きつけ、彼女の人生すら大きく変えていくことになるのだが。

 今のセラはまだ、そんな未来を露ほども知らず、ただ穏やかな山の空気を吸い込んでいた。

最新話まで読んでいただきありがとうございます!


本日タイトルを変更しました!

より作品の雰囲気が伝わるように調整しています。


中身は変わらず、無自覚聖女×モフモフ×山籠りのんびり生活です。


少しずつブクマや評価などのリアクションをいただけて、本当に嬉しいです。

画面の向こうで読んでくれている方がいると思うと、執筆のモチベーションがすごく上がります!

これからもよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ