第14話 ロッジを作ろうとしたら口出しが多すぎる
朝から、エリオはやる気だった。
「今日は拠点をちゃんと作るぞ。昨日の結界もあるし、ここをセラを守る鉄壁のロッジにする」
「もうあるよ? 快適なマイホームが」
私は木々の間に吊るしたハンモックを指さした。
「どこがホームなんだ!? っていうかただの布だろ!」
「失礼な。私のお気に入りなのに」
「そんなんじゃダメ。ちゃんとした雨風凌げる場所が必要なんだ」
エリオは周囲を見回す。
地形、木の配置、風の流れ。――騎士見習いとして野営の訓練は受けているのか、手慣れた様子で確認していく。
「ここがいいな」
少し開けた場所を指した。
私はそこを見て、即座に首を横に振る。
「そこ、日当たりはいいけど、雨が降ったら水の通り道になるよ。ぬかるんで床が腐っちゃう」
「えっ」
「それに風が抜けすぎる。冬になったら凍死するよ」
「厳しいな、おい……」
早くも、エリオの親切心が粉砕され始めた。
◇
エリオは一本の木の前に立った。
「よし、これを使う。太さもちょうどいい」
「それ、まだ若いよ。成長期なんだから切っちゃだめ」
「でも真っ直ぐだし、柱にするには最高だろ」
「だめ」
食い気味に答えた。
エリオが振り返る。
「なんでだよ。一本くらい」
「山を歩くなら、山の未来を考えなきゃ。その子は十年後にこのあたりの主役になる子だよ」
「……お前、視点が長期的すぎてついていけないんだけど」
エリオは少しだけ言葉に詰まった。
前世の経験からすれば、使える木と守るべき木の区別は絶対だ。
「じゃあ、どれならいいんだよ」
私は少し歩いて、一本の、お世辞にも立派とは言えない木を指す。
「これ」
「それ、曲がってる上に、なんかカサカサしてないか?」
「中がスカスカになり始めてるから、今のうちに切ってあげたほうがいいの。乾いてるから薪には最高だよ」
エリオは近づいて確認し、呆れたように笑った。
「よく分かるな。お前、本当に俺の妹か? ……まあ、昔から庭の隅で変な火の起こし方したり、キャンプごっことか言って実験に明け暮れてたけどさ」
「なんとなく。家で試してたことの応用だよ」
「あの『ごっこ遊び』を応用したら、山を鑑定できるようになるのかよ。怖っ!」
◇
作業は進む。だが、私のダメ出しは止まらない。
「そこ、切りすぎ。断面から病気になる」
「いや、これくらいないと組み合わないだろ!」
「力ずくすぎ。木が泣いてる」
「……はい」
「それ、地面削りすぎ。あとで池になるよ」
「……へえ。お前、家で泥遊びの延長みたいな実験ばっかりしてたのに、意外とちゃんとした理屈があるんだな」
「趣味だよ。極めるとここに行き着くの」
エリオの手が止まる回数が増えていく。
家の用事で来ているはずなのに、もはや厳しい師匠に弟子入りした新米の構図だ。
◇
「口出し多いな、セラ」
「気になるんだもん。山を壊すのは一瞬だけど、戻すのは大変なんだよ」
「……それは、否定できないけど」
エリオがため息をついた、その時。
「あちらは触るな」
低い声がした。
振り返ると、ノクスがいつの間にか近くに座り込んでいた。
指し示された先には、まっすぐで使いやすそうな一本。
「あれ、柱にぴったりなんだけど。だめ?」
「精霊どもが好んで集まる木だ。あれがなくなれば、連中が騒がしくなる」
「……そんなの分かるのかよ」
「騒々しいのは好かぬ。静かに過ごしたいのでな」
エリオはしばらくその木を見て、がっくりと肩を落とした。
「じゃあ、やめとく。お前と山の主にダメ出しされたら、俺に拒否権なんてないわ。……っていうか、精霊の好みにまで配慮しなきゃいけないのかよ、この山」
「いいじゃない。ノクスがそう言うなら、大事な木なんでしょ」
「お前、本当に楽しそうだな。……ノクスの言うことには、あっさり従うし」
セラは少しだけ笑った。
エリオの「普通」と、私の「こだわり」と、ノクスの「理」。
三つの意見がぶつかり合って、山に賑やかな音が響く。
◇
夕方。
骨組みだけだが、なんとなく形は見えた。
「今日はここまでだな。全身筋肉痛になりそうだ」
「お疲れ様、エリオ。明日は屋根の材料を集めようね」
「また明日も来る前提かよ」
「え、来ないの?」
「……来るよ。ほっといたらお前、自分で木に登って落ちそうだもん。父さんにも怒られるしな」
エリオは少しだけ笑った。
ノクスは何も言わない。
でも、その場を離れず、完成しかけた骨組みを満足げに見つめていた。
壊しすぎず、奪いすぎず。
山の一部として溶け込みそうなその小さなロッジを、山の主は静かに受け入れたようだった。




