第113話 大精霊と精霊たち
「セラ様、わたくしはご両親にお知らせしてまいります。とても心配されていましたので……」
ルークもエリオに続き深々と一礼し、足早に部屋を出ていく。
部屋には私とノクスだけが残された。
ベッドの周りでは、色とりどりの小さな光たちが、私の指先や髪に触れては楽しそうに揺れている。
その様子を静かに眺めていたノクスが、ふっと口元を緩めた。
「ようやく、精霊の存在に気づいたようだな」
低く落ち着いた声に、私は小さく頷く。
「そうなの! さっき気づいたの! こんなに沢山精霊が居たなんて驚いたよ」
手のひらに降り立った淡い緑色の光にそっと触れると、くすぐったいような温かさが指先に伝わってきた。
すると、手のひらの上の光がふるふると震え、小鳥が楽しげにさえずるような、澄んだ愛らしい声が頭の中に直接響いてきた。
『めがさめた! よかった!』
『大精霊さま、とぉーっても心配してたんだよ!』
『ずっとお顔をのぞきこんでた!』
『おそばから離れなかったの!』
次々と響く無邪気な声に、他の精霊たちも同意するように私の周りをくるくると飛び回り始める。
「ふふっ、そうだったの? ありがとう、ノクス」
私が微笑んで視線を向けると、ノクスは気まずそうにスッと目を逸らし、飛び回る光たちをじろりと睨みつけた。
「……お前たち、余計なことを言うな」
『ひゃあ、大精霊さまが怒ったー!』
『でも、ほんとのことだもん!』
精霊たちは楽しげに笑いながら、ふわりと散らばっていく。
呆れたように鼻を鳴らしたノクスが、何かを口にしかけた、その時。
バタンッ!
勢いよく扉が開け放たれた。
「セラお姉さま!」
「フィン……?」
部屋へ飛び込んできたのは、弟のフィンだった。
「目が覚めたって聞いたよ! よかったぁ……っ」
フィンは涙目でベッドへ駆け寄ってくると、私の腕にしがみついた。
「心配かけちゃって、ごめんね」
そっと頭を撫でると、フィンは何度も首を横に振る。
「ううん……! 本当に目が覚めてよかった」
そんな私たちの様子を眺めるように、後ろから悠然とした足取りで一匹の大きな獣が部屋へ入ってきた。
(ええっ!? フェンリル!?)
一瞬、ノクスかと思った。けれど、当のノクスは私のすぐ隣にいるのだから、そんなはずはない。
驚いて目を瞬かせながらよく見れば、毛色もまったく違っていた。
純白を基調としたふかふかの毛並み。ピンと立った耳の先や、ふさふさの尻尾、そして床を踏みしめるしなやかな足先だけが、ふんわりと淡い桜色に染まっている。
う、美しすぎる。
(ノクスと同じ、フェンリル……?)
こんなに綺麗で可愛らしい姿をしている。ということは。
「すっごく綺麗な子……もしかして、ノクスのお嫁さん!?」
私が思わず目を輝かせて尋ねた、次の瞬間。
「あははははっ! ちょっとヴァルディオス、聞いた!? 私があんたのお嫁さんだって!」
はしゃいだような明るい高い声が響いた。
(しゃ、喋った……!?)
突然の事態に、私はぽかんと口を開けた。
私の反応などお構いなしに、美しいフェンリルはヒーヒーと声を上げて楽しそうに笑っている。
腕に抱きついていたフィンも、きょとんとした後、お腹を押さえてくすくすと笑い出した。
一方、当のノクスはというと。
深い深いため息を吐き、ゆっくりとこっちを見たと思ったら睨まれた。
「……セラ。悪夢のようなことを言うのはやめてくれ」
「えっ、ご、ごめんなさい……?」
真顔で謝る私を見て、美しいフェンリルはさらに大きな笑い声を上げる。
「あー、おかしいっ! 私、イリディア。ヴァルディオスの兄弟みたいなもの、って言ったほうが分かりやすいかしら? よろしくね、可愛いセラちゃん」
(イリディア……)
どこかで聞いた名前だと思った瞬間、白い世界でエルシェ様が穏やかに微笑んでいた姿が浮かぶ。
(そうだ……魂を司る大精霊さん……!)
「ええええっ!? 本物なの!?」




