表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無自覚聖女から始まる辺境山暮らし 〜婚約破棄されたけど、神獣と精霊に愛されています〜  作者: なな日々
第5章:動き出す運命は規格外編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
117/123

第112話 涙の「ただいま」と、察してくれない妹

「……ただいま。帰ってきたよ」


 そう微笑んだつもりだったのに、視界がぐにゃりと歪んだ。


 ぽろ、ぽろと。


 自分の意思とは無関係に、目尻から次々と熱い雫がこぼれ落ちていく。エルシェ様との別れの余韻が、胸の奥をぎゅっと締め付けていた。


「セラ!? どうした、どこか痛むのか。何があった?」


 大粒の涙を流す私を見て、エリオが血相を変えた。


「ち、違うの。酷いことなんて、何もされてない」


 私は慌てて首を振り、手の甲で何度も涙を拭った。


「ただ、思い出したら少しだけ悲しくて。でも、すごく温かい人だったから……」


 言葉を紡ぎながら、赤くなったまぶたを瞬く。


 ――その時だった。


 涙を拭って鮮明になった視界に、ふわりと小さな光が映り込んだ。


「え……?」


 一つではない。淡い緑色、穏やかな青色、ぽかぽかとした橙色。


 色とりどりの光の粒が、ベッドを囲むように部屋の宙を舞っていた。


(……きれい)


 思わず見とれていると、一つの光が私の頬へふわりと寄り添う。


『おはよう』


 幼い子どものような声が、頭の中へ優しく響いた。


(夢……じゃ、なかったんだ)


 私の中に、エルシェ様から受け継いだ力が確かに息づいている。


 他の精霊の光たちが「おかえり」と告げるように頬へすり寄ってくるのを感じながら、私はベッドの上でゆっくりと姿勢を正した。


 その途端、体がふらりと揺れる。


「わっ……」


 慌ててベッドへ手をついたものの、腕にうまく力が入らない。


「無理をするな」


 倒れそうになった私の肩を、エリオが素早く支えてくれた。


「ありがとう……」


「二週間も眠っていたんだ。急に動ける方がおかしい」


 エリオはそう言いながら、枕を整えて私が楽な姿勢になれるよう背中へ当ててくれた。


 そっか……。


 そんなに長い間、私は眠っていたんだ。


「セラ様、こちらを」


 ルークが湯気の立つ木のカップを両手で差し出した。


「まだお食事は胃に負担がかかりますから。栄養がつくよう、温かいミルクに少しだけ蜂蜜を入れてあります」


 甘く優しい香りが鼻をくすぐる。


「ありがとう、ルーク」


 一口含むと、温かなミルクが喉を通り、重たかった体に少しずつ温もりが戻ってくる気がした。


 二週間も眠っていたなんて。


 たしかに、そんな気だるさが全身にまとわりついていた。


 視界に入った腕は少し細くなっていて、服の袖にもわずかな余裕ができている。


(体がおかしいわけだ……)


 そう納得しかけた、その時。


 真っ先に浮かんだのは、自分のことではなかった。


「あの……エルシェ様は、今どこにいらっしゃるの?」


「エルシェ?」


 ノクスがその名に、わずかに目を細める。


「大聖女様のお名前だけど」


「……名を明かしたのか」


 小さく漏らしたその声には、わずかな驚きが混じっていた。


「彼女の……お身体は、今どこに」


「大聖女なら、教会地下にある聖堂に今もある」


「……え?」


 思わず聞き返してしまう。


(まだ、そこに?)


 エルシェ様は力を私へ託した。もう役目を終えたはずなのに。


「そんな……駄目よ」


 エルシェ様に頼まれた訳じゃないけど……。このまま教会地下に置いておける訳ない。


「大聖女様のお名前はね、エルシェーヌ・フォン・アルバ第一王女様……なの」


「……待て」


 エリオが目を見開く。


「今、何と? 第一王女、と言ったのか?」


「う、うん。エルシェ様が教えてくれたの」


 私は精神世界でエルシェ様から聞いた出来事を、できる限り詳しく話した。


 話が終わる頃には、エリオの表情はすっかり険しくなっていた。


 やがて、考えを巡らせるように押し黙る。


「アルバ王家の……第一王女」


 小さく繰り返したその声には、隠しきれない動揺が滲んでいる。


「そのような記録は、現在の歴史には残っていない。少なくとも俺は聞いたことがない」


「えっ……?」


「だが、もしそれが事実なら……」


 エリオはゆっくりと息を吐き、私を見つめた。


「その御方を王家の墓へお戻しするには、まず王家へ真実を伝えなければならない」


 そこまで言って、エリオは額に手を当てた。


(……またか)


 約二週間もの間、眠り続けた妹が無事に目を覚ました。それだけで十分だったはずなのに。


 今度は大聖女が、アルバ王国の第一王女。


 しかも、その名は歴史から消えている。


(これは……兄上だけじゃ足りない)


 父上にも話さないと。


 ……いや。


 ルシアンにも相談するべきか。


 頭が痛くなってきた……。



 エリオは額に手を当てたまま、小さく何かを呟き続けている。


「兄上は何て言うかな……いや、その前に証拠を……王家にはどう説明する……」


 どうやら、一人で考え込み始めてしまったらしい。


 そこまで真剣に向き合ってくれていることが、なんだか嬉しかった。


 私は自身の胸元へそっと手を当てた。


 私の中に満ちた温かな光が、背中を押してくれている気がした。


「私、王家の方へエルシェ様の想いをちゃんと伝える」


 ノクスとエリオ、そしてルークの顔をまっすぐ見つめる。


「エルシェ様を、ご家族が眠る王家のお墓へ帰してあげたいの。彼女が、本当の意味で……大切な人たちに会えるように」


 エリオは目頭をそっと押さえた。


「……そうだな」


 一筋の涙が頬を伝う。


(エリオも……)


 エルシェ様のお話に心を動かされたんだ。


 私は少しだけ嬉しくなって微笑んだ。


「きっと、エルシェ様も喜ぶと思う」


 エリオは頷きながらゆっくりと息を吐き、覚悟を決めるように立ち上がった。


「セラ。今日はもう何も考えなくていい。ゆっくり休め」


「えっ?」


「ルーク、頼む」


「承知しました」


 それだけ言い残すと、エリオはどこか心ここにあらずといった足取りで部屋を出ていく。


(兄上……助けてくれ)


「……?」


 私は手にした木のカップを見下ろした。


(私、今目が覚めたばっかりなんだけど……)


前話、たくさんのリアクションをありがとうございました!

そして、少しずつ増えていくブックマークが本当に嬉しいです。

皆様の応援を励みに、これからも頑張ります!


「面白かった!」「これからの展開が楽しみ」など、少しでも楽しんでいただけましたら、

下の評価欄から【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、とても嬉しいです!

(皆様の応援が毎日の執筆のエネルギーになっています!)

ブックマーク追加もぜひよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ