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無自覚聖女から始まる辺境山暮らし 〜婚約破棄されたけど、神獣と精霊に愛されています〜  作者: なな日々
第5章:動き出す運命は規格外編

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第99話 帰ろう、私たちの家へ

「……っ、ごめんなさい!」


 静まり返った洞窟に、震える声が響いた。


 ぼんやりとした頭でも、リアナには状況が痛いほど理解できた。自分が敵に攫われ、皆をこんな危険な場所へ巻き込んでしまった。そして何より――自分を助けるために、ノクスが命を落としかけるほどの重傷を負っている。


「私が……私が弱いせいでっ……。私のせいで、ノクス様が……!」


 大粒の涙をポロポロとこぼし、リアナは両手で顔を覆った。


 自責の念に押し潰されそうになりながら泣きじゃくる小さな肩を見て、セラは自分の目元を服の袖で拭った。


 涙を引っ込め、膝をついたままリアナのもとへとにじり寄る。そのまま震えるその小さな体を、ぎゅっと両腕で抱きしめた。


「違うよ。誰もリアナちゃんを責めたりしない」


 背中を撫でるセラの声は、微かに震えながらも、どこまでも温かかった。


「リアナちゃんが無事で、本当に良かった……」


 セラの体温に包まれ、リアナはたまらずその胸に顔を埋め、子供のような大きな声で泣いた。


「……泣くほどの怪我ではないぞ」


 不意に、低くかすれた声が響いた。

 セラが急いで振り返ると、ノクスがゆっくりと青色の瞳を開けていた。


「ノクス! よかった、まだ無理しないで!」


「セラが無事なら、それで十分だ」


 慌てて駆け寄るセラに、ノクスは短くそう返した。


 その真っ直ぐな言葉に、セラは思わず言葉を詰まらせて、ほんの少しだけ頬を染める。


「……バカ。死にかけたくせに」


「無事で何よりだ、ノクス様」


 ゼインが安堵の声をかけた直後、ハッと祭壇の奥へ視線を向けた。


「そういえば、イザベラは……!」


 誘拐の実行犯であり、サーヴェラの依代にされていた偽の聖女。


 ルークとゼインが警戒しながら奥へ向かい、倒れ伏す彼女の首元へそっと指を当てた。


「……もう、息をしていない」


 ゼインが静かに首を振る。


 依代として酷使された身体は、もう限界だったのだろう。


 セラにとっては面識もない、自分たちを陥れようとした敵。


 それでもセラは静かに彼女の傍へ歩み寄り、きつく縛られていた縄を解いた。


「せめて、最後くらい苦しくないように……」


 静かに目を閉じたイザベラの顔には、もはや憎悪も執着もない。


 その姿を見て、ノクスは告げた。


「邪神は依代を使い潰した。ただ、それだけのことだ」


 誰も何も言えなかった。彼女もまた、最後まで邪神に利用されるだけの存在だったのだ。


「……日が暮れる前に戻りましょう。この洞窟に長居するのは危険です」


 沈痛な空気を断ち切るように、ゼインが外の明かりを確認して言った。ルークも「そうだな」と頷く。


「我は少し休んでから戻る。お前たちは先に帰れ」


「何を仰るのです。そんな状態で!」


 ルークが声を荒らげると、セラもすぐに言葉を重ねた。


「そうだよ! こんな所に残していけるわけないでしょ! 一緒に帰ろう!」


「無茶を言うな。この体では移動が難しい」


「あれぇ? ノクスって人になれるんだよね? ずーっと一緒にいたのに、私、今日初めて知ったんだけどなぁ」


「……っ」


 急に人の姿を披露したくせに言い訳をするノクスに腹が立って、ジト目で睨みつける。


「ほら、さっさと人の姿になって。馬に乗って帰るよ」


 ここまで乗ってきた馬は、ルークとゼインの分、そしてイザベラが乗ってきた馬を合わせてちょうど三頭、入り口付近に繋いである。


 セラの提案に、ノクスは小さくため息をつき、やがてその巨体を銀色の光が包み込んだ。


 光が収まると、そこには白銀の髪に青色の瞳を持つ、長身の美青年――ヴァルディオスの姿があった。


「「えっ……の、ノクス様……!?」」


 ルークとゼインはエリオから聞いて知ってはいるが、初めてその姿を見て驚きを隠せない。


 リアナは何も知らなかったので「信じられない……」と目を丸くしてわかりやすく固まっている。


「ルークさんはリアナちゃんと一緒に乗って、ゼインさんは警戒をお願い。私は、ゼインさんの後ろに……」


「何を言っている。我を支えてくれるのではなかったのか?」


 しれっとゼインの後ろへ逃げようとしたセラは、ヴァルディオスにあっさりと腕を引かれ、強制的に同じ馬の背に乗せられた。


 前にセラ、後ろから手綱を握るヴァルディオスという密着した体勢になる。


「……傷に響くから、あまり動くでないぞ」


「う、うん……」


 耳元で囁かれた低い声に、セラの鼓動が少しだけ速くなる。


(……なんでだろう)


 さっきまで、もふもふの大きなフェンリルだったはずなのに。背中越しに伝わるぬくもり、自分を囲い込むような腕の力強さに、どうしても意識が引っ張られてしまう。


(変なの)

 自分でも理由が分からず、セラは小さく首を傾げた。


 夕暮れの気配が迫る山道を、三頭の馬がゆっくりと下っていく。


 手綱を握り、前を見つめながら、ヴァルディオスがぽつりと口を開いた。


「戻ったら、少し話しておかねばならんな」


 セラは首だけをわずかに巡らせる。


「話?」


「ああ」


 ヴァルディオスは木々の間から暮れなずむ空を見上げた。


「我らのこと――この世界のことだ」

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