先へ進んだ者 ぶつかり合う拳
後ろから重い打撃音と共に風が吹く。
オーガは物理重視だから大丈夫だと思うけどそれでもケンの無事を願う。
そう願いながら私達はやれる事をやるのみだ。
「アヤカ、ここからどう行けばいいの?」
「えっと……ここから真っすぐだよ。まっすぐ行けば王子様達が普段いる場所につくよ」
「じゃあ、まずはそこに……シェシュルどうしたの?」
シェシュルがじぃ……と廊下の端を観察していた。
何か見つけたのかしら?
「え、あ、はい。こ、ここなんですけど」
シェシュルがそう言って指差したところは廊下の端の端だった。
私には視覚的にも魔力的にも特に違和感は感じなかった。
「特に何もないみたいだけど……」
「い、いや、そうじゃないんです。
この廊下の端…壁の中から魔力残留を感じるんです」
「……わかったわ」
魔力残留は術式を展開した後に残る痕跡の様なものだ。
しかし、刻術式ならそんなものは残らない。
日常生活は基本的に刻術式が施された魔具を使うから魔力残留が残るわけがない。
ましてや、王族が住まう城だ。
魔具がないから術式展開してってのは考えられない。
ここは調べておいた方が良さそうね。
壁の向こうに空間があるかどうか壁を指で叩いて確かめる。
特に音に違和感はない、この壁の向こうに空間はないみたい。
「この壁の向こうに部屋はないみたいよ」
「じゃ、じゃあ魔力残留をなんで感じたんでしょうか?」
「うーーん……特に思いつかないわね…」
「で、ですよね……え、えっとア、アヤカさん何か心当たりはありますか?」
「え!?わ、私!?う、うーーん……特にないかなぁ。ごめん」
「え!?あ、いや、こちらこそすいません」
「あ、謝らなくていいよ。折角頼って貰ったのに役に立てない私が悪いんだよ」
「そ、そんな事ないですよ、そんな気を使わせた僕が悪いんです」
「いつまで謝り合ってんのよ。どっちも謝ったんだからもうその話は終わり。
わからないんだからさっさと先に進むわよ」
このままほっておいたら日が暮れても謝り合ってそうな雰囲気だったので
強制的に終わらせて先へ行く。
魔力残留が気になるけど、わからないのなら後回し。
今は先に進んであの子を助けて出して、どこかを盛大に破壊するのが優先だ。
足早に廊下を進んで出た先はバルコニーのような場所だった。
「ねえ、ここからもま―――――」
アヤカに確認しようとしたところで前から誰かが来た。
すぐに矢を取り出して、すぐにでも応戦できるように構える。
「し、執事さん……」
「おや、アヤカさん。そこのお二人はどなたですかな」
特に異常な点は見当たらないごくごく当たり前の様な対応をする執事。
ただ、理由は見当たらないけど私のカンが油断するなと警告を発している。
ここは慎重に行かなければ……。
「え、えっと……この人達はちょっとそこでお世話になって……お礼がしたくて
連れて来たんですけど……ダメでしたか?」
「……いえ、構いませんよ。アヤカさんのお客様という事なら後で
お茶とお菓子の方をお持ちしますね」
「あ、ありがとうございます……」
そう言って執事の彼は道を退き返していった。
二人のやり取りを見ている限りは特に彼からおかしな点は見当たらない。
「……前からあんな感じだったの?」
「うん、そうだけど………」
「どうしたの?」
「……執事さんも何かおかしいなって。
理由は説明は出来ないんだけど何か違う気がして……その」
「私達はあの人の事知らないから何とも言えないけど
知ってるあなたがおかしいって思うのなら多分その感は当たってるわ。
だから、ちょっとあの人には申し訳ないけど……」
そう言って弓に刻んである探知魔術を起動する。
「な、何をするの?」
「安心して、射貫いたりするわけじゃないわ。ちょっと探知魔術で
どうしてるか確認するだけよ」
さて、あの執事は――――――
執事の現在位置を確認したところで思考が固まった。
おかしな点が二つ見つかったからだ。
一つは執事が向かって行った方向ではない方にとてつもない量の魔力反応があった。
これは……極術師クラスの魔力量じゃない……。
そして、もう一つのおかしな点は執事と思われる魔力反応と同位置に他の魔力反応もあった
何これ……こんなの抱き着いているかしていてもこんな反応しないわよ……。
何か得体のしれない何かに触れたようで冷や汗がダラダラと流れ出ているのを感じる。
やっぱり限界までごねてこなければ良かったんじゃという後悔の念すら出てくる。
が、いくらごねたところでもう時間は戻らない。
だったら、なんとかするしかない。
「ど、どうかしたんで――――」
シェシュルが背を伸ばして覗き込んできて探知魔術の内容を見てしまい
固まってしまった。
これがあるから言いたくなかったんだけどなあ。
「な、なんですか……これ」
それを見て、顔を真っ青にするシェシュル。
気持ちは凄くわかる、わかるんだけど今ここで怯えて動けなくなるのはやめてほしい。
「ど、どうしたの?」
アヤカも覗き込んでいたが、どういう事かわかってないみたい。
良かった、この子までパニックになったらどうしようもないからね。
「シェシュル深呼吸して落ち着いて、ね」
「ははははい。……すぅ……ふぅ…少し落ち着きました」
「だったら聞くけど、どっちから行きたい?」
「え、ええ!?ぼ、僕に聞くんですか!?」
「そりゃ、あんたは魔術の専門家でしょ。
こういう時に専門家の意見を聞くのは当然でしょ?」
「そ、そうですけど……後で攻めたりしないでくださいよ…」
「そんな事しないわよ」
「じゃ、じゃあ……2重になっていて不気味ですけど量は普通な
この執事さんの方へ行きたいです」
「わかったわ。じゃあ、行きましょう」
不気味な方と強大な方、私達は前者を選んだ。
重い打撃音が1秒間で何度も鳴り響き
人間と鬼が同時に吹っ飛び壁にめり込むように叩きつけられる。
が、どちらもすぐさま壁から這い出る
「見事だ……まさか、久しく…求めていた闘いを人間とやれるとは思わんだぞ」
「………ッ……じゃあ、満足するまで殴り続けてやるよ…」
互いに不敵な笑みを浮かべながら、二人は拳を握り相手へと突っ込んで行く。




