嘘と情と意地
執事が戻っていった道へ音をたてないように進んでいく。
隠密魔術が使えたら楽なんだけど私もシェシュルも使えないのよね。
「ここでずっと止まってるけど、ここは何があるの?」
「え、えっと……そこはキッチンだったかなぁ」
確か、お茶とお菓子を用意するって言ってたからその用意をしているのかしら。
その部屋へとゆっくりと近づいていき、入り口から中を見てみる。
執事がお菓子でも用意しているのかわからないけど
棚から何かを取り出そうとしていた。
特におかしな点は見当たらないけど、探知のこの異常は何を示しているんだろうか
それが気になるところだけど……
「………誰かおられるのですか?」
「「「!?」」」
急に声を掛けられた、心臓が飛び出るかと思った。
どうする、思い切って出るか?それとも……
そう思ってると、アヤカが出て行った。ちょっとッ!?
「私だよ、執事さん」
「おや……アヤカさんでしたか、どうかしました?」
「えっと…私のお客さんなのに執事さんに持ってこさせるなんて
申し訳ないと思って取りに来たんです」
「そうですか、では今、私が用意し―――――」
ドゴォォンッッ!!!!!
突然爆発音のような打撃音が聞こえ、衝撃が地震のように伝わって来た。
「わっ!?」
「くっ……!?」
「きゃっ!?」
その衝撃は凄まじく立つことも困難になるほどで、部屋からは大きなものが
倒れたかのような音と食器が多数割れる音が聞こえた。
「い、今のは……ケン?」
多分オーガとの戦闘の余波だと思うんだけど、いくらなんでも出鱈目すぎる。
「し、執事さん……!?……な、なんで私をかばって……ッ!?
し、しっかりして!!」
アヤカの慌てた声が聞こえた。
部屋へ入ると棚の多くは倒れ、床には割れた食器が散乱していた。
そして、執事は棚の下敷きになっていた。
すぐに助けたかったけど、あの執事は怪しいやつだ。
助けてもいいのだろうか……助けた瞬間に不意打ちで殺されないだろうか
そう言った不安がよぎるけど……
「ア…アシェルさん、助けるの手伝って!!」
アヤカの必死な声を聞いて、そんな事は頭から吹っ飛んだ。
すぐにアヤカの反対側に回って、シェシュルに指示を出す。
「シェシュル、私達が上げている間に彼を引っ張って」
「は、はい」
「行くわよ、アヤカ」
「は、はい」
せーーのッ!!という掛け声と共に棚を上げる。お、重い……けどッッ!!
上がった、引きずり出せる程上がったのを見てシェシュルが執事を引きずり出す。
それを確認してから棚をゆっくりと降ろす。
「う……す、すいません……」
「い、いいんです。す、すぐに治療を………え?」
シェシュルが言葉を途切れさせたのを聞いてすぐに振り返ると
あり得ないものが見えた。
体にナイフのようなものが刺さっていた。
他にも割れた食器が体に刺さっている。
刺さっているのに、体からは血が一滴も流れてなかった。
こんなのありえない、魔術だとしてもいくらなんでも治療が早すぎる。
「あんた………その体はどういう事?」
「……え?」
すぐに矢を手に取り、氷魔術を付与して弓を引く。
シェシュルに手を出そうとした時点で凍らせる。
私の声を最後に誰も声を出さずに部屋に静寂が訪れる。
しばらくの静寂の後に執事は何事もなかったかのように立ち上がり
体に突き刺さっている者は吐き出すかのように体から飛び出ていった。
「……まさか、こんな形でバレ――――」
邪悪な笑みを浮かべてこちらへ振り返って来たが
すぐにその顔は罪悪感にとらわれたかのような表情に変わる。
忙しい奴だが……そんな邪悪な顔をしておいてその間は隙だらけよ。
すぐさま矢を引いて彼を凍らせる。
「シェシュル、早くこっちへ!!
そんな邪悪な顔をしておいて隙を見せるなんて随分間抜けね」
「……ふっ…これで私を拘束したつもりか?」
そう言うと彼はまるで脱皮したかのように氷から抜け出した。
な、何さっきの動き!?
「無駄ですよ、お嬢さん。私を拘束しようだなんて」
不敵な笑みを浮かべながら余裕の表情を見せる執事。
こいつはまずいかも……。
「ど、どういう事……執事さん?」
アヤカが動揺をあらわにしながら、声を震わせながら彼を見る。
「…………どういう事も何もありません。
……私達はあなたを利用したのですよ…アヤカさん」
「り、利用……?」
「そうですよ、利用です……アヤカさん。
あなたは利用されていたんですよ。あなたの正義を、この国への愛を
偽りによる怒りを、利用されていたんですよ」
「あんた………」
聞いていて反吐が出る程の内容だった。
ふざけている、舐め腐っている、馬鹿にしている
人の善意を踏みにじる行為を淡々と説明していく姿に怒りを覚える。
そんな事を聞かされたアヤカが心配になるが、ここは私がやるしかない。
そう思い、矢に手を伸ばしたところで
「……そうだよね…やっぱり……そうなんだよね」
そう言いながらアヤカは涙を流していた。
それを見た屑はすぐさまその場から飛び退いた。
「……悔しいのなら…悲しいのなら彼の元へ、王子の元へ向かいなさい」
そう言うと部屋を出て逃げて行った。
探知で離れているのを確認してから、アヤカに声をかける。
信頼していた、信用していた人間に裏切られる、これほど辛いものはない。
「……ねえ、大丈夫?」
「………うん、大丈夫……覚悟はしてたから…」
弱々しい声で顔を傾けながらそう言った。
覚悟はしていても辛いものは辛い
今の彼女は見てられないほどに痛々しかった。
だからこそ、彼女の抱きしめる。
「……今はまだ大丈夫だから……残ってる分ここで吐き出しなさい」
「…………うん…」
そう言って彼女は私の胸で震えていた。
とてもか弱い今にでも死んでしまいそうな小鳥のようだった。
鬼と人間が真正面から殴り合う。
互いに致命傷だけは避け、相手の致命傷を狙う。
倍近い大きさとという絶対的ハンデをもろともせず人間は鬼へ拳を握って殴り合う。
勝てないものがあるのなら勝ってるもので埋め合わせばいいと言わんばかりに
高速で動き、大きさと言うハンデを帳消しにしていた。
「オオオオォォォォォォッッ!!!!」
鬼は雄たけびを上げながら、人間を潰さんとばかりに拳を振り下ろす。
が、人間はそれを高速でつめて懐へ入り、跳び上がりながら掌底で鳩尾をかちあげる。
「ゴッ!?!?」
その一撃で倍近い大きさの鬼が宙に浮く。
明らかは致命傷だった。
が、鬼は開いている腕を振るい人間を叩き落す。
人間もそれに対応は間に合わずに直撃し
地面がめり込み、砕ける程の威力で叩きつけられる。
数秒としないうちに宙に浮いた鬼が落ちてズゥゥ…ンと言わんばかりの音がなる。
明らかに互いにもう動けないほどの致命傷
のはずなのにふらふらと立ち上がる。
それは使命なのか、維持なのか、尊厳からなのかわからないが立ち上がる。
「……しぶてえ……野郎だ……」
口からぼたぼたと血を垂らしながら人間は呟く。
「……そいつはお互い様だろ……」
そう言って鬼は不敵な笑みを浮かべる。
それを見て、少年も同じような表情をし
「……そう、だな」
同感した後、互いにこぶしを握り締め相手へ突撃していく。
その後、轟音のような打撃音が何度も響き渡った。




