出来なかった事が出来るのって嬉しい
誰もいない場所で体育座りをしながら頭を抱える。
なんでこんな事になったんだろう…なんで……。
嘘だって信じたい、思いたい。
けど、喉から手が出る程、神様に願ったほど欲しかった
健康な体が現実だと証明してくる。
ゲームとかじゃない……本当の戦いをした事は無いけど
恐ろしいものだってのはわかる。
負けたら……死ぬものだって事はわかる。
だからこそ怖い……健康な体を手に入れたのに……。
想像する程恐怖で体が震える。
「勇者様、よろしいですか」
王様だと思う人の声が聞こえる。
聞こえたけど、返事を返せなかった。
「勇者様、確かに戦う事はあるかもしれません。
ですが、それは最悪の事態の場合のみです。
必ず回避してみせますので、どうか…どうか……!!
力をお貸しいただけませんか!!」
そう言っても最悪の事態が起こったら戦わなきゃならないんでしょ。
嫌だ、怖い事だなんて……人を殺す事なんてしたくない。
それから王様の様な人からの声が聞こえないけど、気配は感じた。
何時までもいなくならないので
目だけを向けるとそこでその人は土下座をしていた。
この人って……えらい人だよね。
そんなえらい人がこんなただの学生の私に頭を下げて……。
「あ、頭を上げてください。私はそんな事をされるような人間じゃ…」
「勇者様、あなたは頭を下げるに値する人です。
あなたは私達にとって最後の希望なのです。
あなたが背負いかねない責任などは私が代わりに背負います。
だから、どうか我らに力を貸してください」
「………それは本当なの?」
「……!!本当です。ドゥシュムーポの王として
五十三代目ドゥシュ家ドール・ドゥシュとしてここに誓います」
この言葉が本気だと気迫で分かった。
でも、相手が本気だとわかればわかるほど私の様なただの人間が
その期待に応えられなかった時が怖くて答えられない。
「わ、私は…ただの16歳の女子学生で……そんな鍛えた事もない…
そんな私でも……いいの?」
「はい、私達はあなたが必要なのです」
すぐに帰って来たこんな私でも必要だと言う返答。
王様は頭をこうまで下げて、ずっと拒み続ける私に頼む。
……今、思い出せば私はずっと頼んでばかりだった。
だったら、今ぐらい頼まれる側に、必要とされる側に………。
「……わかりました。でも……本当に私でいいの?」
「……!?…はい!!もちろんです!!」
こうして、私はドゥシュムーポと言う名前の国の勇者となった。
ただ、勇者と言っても魔王を倒したりはしない。
それどころか魔王と言う存在自体がいないらしい。
私の存在意義はこの国の国力の象徴としてだけ。
あの王様も息子の王子様も執事の人もみんないい人だった。
ただ、みんながみんな勇者様、勇者様行ってむず痒くて……
アヤカと呼んでもらう事にした。
私がこの世界に来てから3日目………。
「流石はアヤカ様だ、女子だと言うのになんて力だ」
「様はやめてよ~。アヤカでいいよ」
私は国の人々と触れ合っていた。
今やっているのはこの国で一番盛んな蓄業のお手伝い。
たくさんいる家畜のみんなに水を上げるために水を運んでいる。
前はこんな事、体調からしても身体能力からしても出来なかった。
だからこそ、出来る今がとても楽しくて仕方ない。
「はい、どうぞ」
「ぬぉぉぉ……」
「ははは、こいつも喜んでおりますよ」
「喜んでくれてるの?ありがとう」
そう言って牛の様な動物の頭をなでる。
動物なんてテレビか図鑑でしか見た程度で触れ合う事なんてなかった。
だからこそ、楽しい。
あんなに夢見てた事が叶う事が本当に楽しい。
その後も食べ物を運んだり、掃除をしたり、大変だったけど本当に楽しい。
「ありがとうございました、アヤカさ…ん」
「いいよ、私が無理言ったんだから」
「お礼としてはなんですが、これを持って行ってくれないですか?」
そう言って、一緒に仕事した牧場主の人は袋に入った何かをくれた。
これは……なんだろう?
「この牧場で採れた自慢のティーズ言うものです。良かったらどうぞ」
「いいの?」
「良いんですよ、今日はアヤカさんのおかげで楽させて貰ったので」
「ありがとう、おじさん」
そう言って王様たちのお土産を貰って、牧場を後にする。
こんな楽しい事ばかりでバチでもあたりそうだ。
城に帰って料理長さんに貰ったものを渡して、部屋に戻る。
楽しかったなぁと思いながら聖剣を見る。
こんな楽しい事がいつまで続くかわからない。
もしかしたら、戦う事になるかもしれない事を考えると
鍛えておいた方が良いのかな?
そう思って剣を握る。
聖剣の加護?ってものを受けているからか全く重く感じない。
振った事ないからわからないけど、漫画で見た様なのをイメージして
剣を振ってみる。こうかな?それとも…こうかな?
こうでもなくて、こう敵を見据えてこう!!かな?
イメージしながら聖剣を振っていると突然剣が光に包まれる。
突然の出来事で反応が間に合わずに光のせいで壁を焼き切ってしまう。
「あっ!?」
ど……どうしよう……。




