拳と剣
森を抜けたあたりで完全に撒いたと一安心し、シャルが通信を始めた。
『……うん、わかったよ。ありがとう』
「…隊長、申し訳ありません。ご期待に応えられず……」
『いや、謝らなくていい。気をつけて帰ってきてくれ』
「…で、この先どうする気だ?あれじゃあ戦争は起こるぞ」
『それに関しては私の出番だ、なんとか止めてみせるさ』
「ほんとだな、頼むぞ」
この辺の話については俺はわからないから口を出すのはやめておこう。
俺は馬車を引く事だけに集中して走って行く。
[……………!?上空に巨大なエネルギー反応が出現!!]
「何!?」
[着弾地点は………前方です!!このエネルギー量だと辺り一帯が
吹き飛ばされます!!]
アンジュの話を聞いてすぐさま、ドリフトして前方から離れる。
コンマ一秒でも着弾地点から離れなければならない。
「二人共、防御してくれ!!上空から攻撃が飛んでくる!!」
「ッ!!!?」
「な……っ!?」
声を荒げた瞬間後方から凄まじい爆音が轟き、それと同時に衝撃が
こちらに襲い掛かる。
衝撃によって、後ろからバキバキと音が聞こえる。
不味い!!不味い!!不味い!!馬車が持たない、中の二人は大丈夫なのか!?
そんな事を考えるが、衝撃に耐えられず、俺と馬車が吹き飛ばされる。
吹き飛ばされるが腕を地面に腕を突き刺して、一瞬体を固定した瞬間に
両足で震脚のような踏み込みをして地面にめり込ませ、支えにして耐える。
まるで暴風が吹き荒れる中にいるような感覚に陥るがなんとか耐える。
少し経つと衝撃が止んだ。が、周囲は土煙が立ち込めて
どうなっているか全くわからない。
[ケンさん、前方の着弾地点から誰かがそちらへ向かって行ってます。
注意してください]
アンジュからの警告を聞いて地面から手足を引き抜いて前方を注視すると
土煙の中から向かって来る。
正体はあの時にあの王子と一緒にいた剣を持った少女だ。
「他は吹き飛んだようね……」
勇者と聞いて、もしやと思っていたがやっぱりこいつか……。
二人が心配だが、どうにかなってるだろう。
それよりも今は目の前の相手に集中するべきだ。
それを見て少女は剣をこちらへと向ける。
「何か言う事はないかしら?」
「言う事だ?そんなの何でこんな事するんだぐらいしかねーだろ」
「………あんな事やってよく言えるわね…外道」
あんな事……キメラによって人が殺された事を俺達が
やったと勘違いしてるのだろうか?厄介な……。
「何を勘違いをしているのか知らんが、俺達は殺してないぞ」
「黙れ!!お前達以外に何がいるんだ!!」
「……お前はあの化け物を見てないのか?」
少なくとも、あのキメラのうちの一体はシャルが街の大きな道で
串刺しにしたから見ているはずだ。
誰かが一瞬のうちに片付けたりしてなければの話だが。
「化け物……あの可愛いわんちゃんを化け物と言うのか!!」
あれを可愛いと言うだと!?
ゾンビ映画に出てきそうなグロテスクな見た目だったぞ。
美的センスがイカレているのか騙されているのかどっちだ?
気になって仕方ないが、目の前の少女が剣を握り締めて
斬りかかってきたので一旦考えるのをやめて、避ける。
こいつ…………へたくそだな。
明らかなまでの大振り、こんなの避けてくれと言っているようなものだ。
次の横切りも無駄ばかりで当たる方が難しいレベルだ。
「…………舐めてんのか?」
あまりに雑すぎる攻撃に舐めプされているようで苛立ってくる。
「黙れ、外道!!」
そう言うと少女はこちらに剣を向ける。
何をする気だ?
「私はお前を悪と見なす!!」
そう言うと共に剣が黄金の光に包まれる。
………ここからが本番ってか。
[注意してください、あの光は魔術ではないですが、これは………]
魔術ではないという事に少し安心したが………。
それでも下手に触れたら焼き切られるなんてありそうだ。
「はぁぁぁああッ!!」
先程のような隙の塊の振りかぶった縦斬りを繰り出してくる。
楽々躱し、剣は地面と衝突すると爆発音のような音を鳴らし
地面を焼き溶かしながら黄金の光の柱を作り出す。
魔術ではないが、どっちみち直撃したら死は避けられそうにないな。
「まだまだぁ!!」
少女は滅茶苦茶に剣を振り回してくる。
下手くそなのはいいが、当たったら即死だと考えるとむしろ厄介だ。
法則性が一切ないから読みづらい。が、隙だらけなので対処は出来る。
振り切った隙に詰め寄り、少女の横腹に手を添えて踏み込む。
ドゴォッ!!と言った衝突音のようなものが聞こえて、少女は吹っ飛ぶ。
「ぐ……いッ……クソぉ!!」
が、剣を地面に突き刺して速度を殺す。
殺すはいかずとも気絶させる気でやったんだが、耐えるか。
「…………絶対に倒す!!」
少女が剣を正面に構えると黄金の光の量が一気に増大する。
そして、その光溢れる剣を大きく振りかぶろうとする。
これは何か飛ばしてくるな、あの光のビームのようなあれかもしれない。
[ケンさん、あの光の塊が飛んできます。今すぐ避けてください!!]
やっぱりそうだよな!!
すぐさまその場から走り出して、射程範囲外に逃げる。
「吹っ飛べぇ!!!!」
先程までいた場所を光の塊が飲み込む。
ギリギリ射程外に出られたが……これ喰らったら死ぬだろうな。
こちらの生存を確認するや少女はすぐさま二発目の準備に入ろうとする。
そうはいくか!!
一気に加速し、詰め寄り剣を持つ腕を掴んで阻止する。
「なっ………!?放…」
抵抗される前に膝蹴りを腹に撃ち込んで怯ませ、その隙に蹴り飛ばす。
こいつ、能力こそ高いが戦いに全く慣れてない。
これじゃあ、宝の持ち腐れだ。
[うわ……女の子にそんな連撃入れます?]
戦場に女も子供もクソもねーんだよ。馬鹿か?
吹っ飛んだ少女に追撃を加えるべく、突っ込む。
立ち上がろうとする少女の腕をへし折るべく蹴りを繰り出そうとし……
その瞬間に剣が光り輝き、視界が白く染まる。
突然の光に動きが止まってしまう。これはまずい、相手の射程圏内だ。
すぐさま後ろに下がって、攻撃を躱そうとする。
「りゃぁぁぁあああ!!」
少女の掛け声と共に剣が振り下ろされたと思うが、
さっきので大体射程は掴んだ。即座に後ろに飛び退く。
小細工を使うのがちと遅かったな。
そのまま、相手の射程外に逃れて、目の回復を待つ。
すぐに視界から白が消えていき、元に戻っていく。
視界が元に戻った事で服が切断されている事に気づく。
紙一重だったか……。
「今度こそっ!!」
相手は再び、斬りかかるべくこちらに詰め寄ってくる。
が、それはこちらとしてはありがたい限りだ。
相手より先に今度は連撃を仕掛ける。
反撃を隙など与える気など無し。
「くっ……うっ………!?」
完全に防御に徹する少女。
範囲外に出ようとも、反撃をしようともしないとはマジで初心者だな。
なら、この隙に押し切ってやる。
[右から魔力反応!!ケンさん避けてください]
アンジュからの声を聞いて、その場から即退くと俺が先程までいた場所を
火の玉が飛んでいき、着弾すると共に爆発音がした。
少女が崩れて、膝をつくと少女の元にあの王子が急に現れる。
瞬間移動か、何かか?
「大丈夫ですか、アヤカさん」
「だ、大丈夫……この程度なんとも……!!」
「申し訳ありませんがこのままでは不利です。一旦引きましょう」
「え!?あんな惨劇の元凶を作ったやつから逃げるの!?」
「このままではあなたまで殺されてしまいます。戦略的撤退です」
「…行かせるわけないだろ」
真正面でこんな堂々と逃げようとするとかいい度胸だ。
二人そろって一発で終わらせてやる。
そう思って突っ込んだところで急に二人の左右に魔法陣が浮かび上がる。
そして、その魔法陣からあの時のキメラが2頭飛び出してくる。
時間稼ぎか……!!
牙を剥きだしにして突っ込んできたが片方を首をへし折りながら殴り落し
もう片方はかかと落としで頭蓋を砕きながら叩き落す。
だが、その時間を稼がれた瞬間に王子と勇者の少女はいなくなった。
………逃げられたか。
目の前で逃走を許した事に悔しさもあるが疑問もある。
あの王子はそんなに強くないんじゃあなかったか?
その事を疑問に思っていると後ろから声が聞こえた。
「ケン、大丈夫か?」
「あぁ、大丈夫だ」
シャルの声を聞いて、無事に安心を覚えたところで
足元に転がる2頭のキメラの死骸の姿に変化が起き始めた。
徐々に背中の触角が縮み、体も普通の犬の姿に戻っていく。
そして、特に違和感のない普通の猟犬の姿になった。
死体を出来る範囲で調べてみるが、何の変哲もないただの犬だ。
……こいつは………一体………。




