謎の生物と逃走
なんちゃら王との交渉が決裂し、部屋を出て、城を出る。
こんな強引な形で幕を引いていいのだろうか?
そんな疑問が浮かぶが、隣にいるシャルが滅茶苦茶不機嫌そうだし
これで何か考えての事で俺が聞いて水の泡になったりでもしたら
笑えないので、ここはただただシャルの後ろをついて行く。
あの少しで出入り門と言うところで………
「ギャァァァァアアアア……!!」
それを聞いて足を止めて、聞こえた先に目を向ける。
「………ケン、足を止めるな」
「あぁ、すまん」
止めていた足を再び進めようとしたところで暗闇から何かが飛んできた。
それは地面をゴロゴロと転がりながら液体をまき散らす。
「………腕……?」
「シャル、辺りを警戒しろ」
辺りを、特に腕が飛んできた方向を注意する。
しかし、なんで腕を飛ばしたんだ?
こんな挑発的行動をする意味が分からない、何故だ?
それを考えていると腕が飛んできた暗闇から
犬のような生物が飛び出してきた。
俺へと一直線に、頭蓋を噛み砕こうとするべく突っ込んできたが
それを即座に回し蹴りで蹴り飛ばす。
犬のような生物は吹っ飛び、近くの建物の壁に叩きつけられる。
それによってようやく全体像が見えた。
犬と言うより狼のような頭に、前足が猛禽類のような形をしており
体は毛が生えておらず、筋肉質な体が浮き彫りになっていた。
そして、何より背中から昆虫の足ような触角が数本生えていた。
まるで合成生物……キメラだ。
「な、なんだ。こいつ………」
「私も見た事が無いし、聞いた事もない……」
[うえぇ…グロテスクな見た目をしてますね]
まだ、繋がってたか……。
なら、アンジュに調べて貰うか。調べられるか?
[わかりました、任せてください]
こういうよくわからん相手の時は本当に頼りになるな、こいつ。
下手に手を出して、手痛い反撃を喰らうのは笑えない。
ここは近接の俺より……
「ここは私に任せて貰おうか、ケン」
シャルはそういうと氷槍を展開し、キメラに向かって放つ。
態勢を整える前に襲い掛かる氷槍に対応できずにキメラは貫かれる。
氷槍は地面にキメラごとくぎ刺し状態になる。
胸を貫かれて、もがき苦しむキメラ。
「ゲ……ギャ……ガ……ガァァアアアアアアアアアアア」」
突然、頭に響く不協和音のような絶叫を轟かせるキメラ。
これは……まさか………。
それと共に各地から同じような咆哮が聞こえ始める。
まずい、こいつ……仲間を呼び始めた。
「ケン、逃げるぞ」
「あぁ」
俺達がやるのはあくまで襲い掛かってきた個体にだけだ。
これ以上手を下す義理は無い。別個体が来る前に関所に駆けていく。
出入り門に着き、門兵を探すも門兵は一人もいなかった。
どおりであの騒ぎの中来ないわけだ……。
「何故門兵がいない……いや、気にしている場合ではないか。
いないのならば素通りするのみか」
門兵がいないので手続きもせずに出国する。
[ケンさん、解析終わりました。
あの生物は数々の生物の細胞が見受けられます。
おそらく何者かの手がくわえられた合成生物です]
やはり、誰かが作った生物か。
誰がなんのためにこの国に解き放ったんだろうか。
それが気になるが今は考えているときじゃない
こんなやばいところさっさとおさらばするに限る。
ラオージュはもう馬車に乗っていると思うから放っておくとして
シャルに馬車に乗るように言って、さっさと乗って貰おうとする。
俺も馬車を引くために前へ行こうとしたところで
後ろから殺気を感じて、咄嗟にしゃがむ。
先程まで俺の頭があった場所を光線のような光が通り過ぎていく。
後ろを振りぬくと口から煙を上げる先程のキメラの別個体がいた。
口からレーザーとか……いよいよ、怪獣めいてやがる。
こちらが避けたためか再度レーザー発射の準備に入ったかのような
動作をするキメラ。あいつを処理しないと馬車が壊されかねん。
すぐさま叩き潰すべく、走ろうとしたところで
そのキメラに氷槍が突き刺さる。
「私が追ってくるやつは処理する。ケンは早く馬車を引く準備をしてくれ」
「わかった、お前も早くすぐに乗れるようにしてくれよ」
シャルがキメラ処理をしている間にすぐに馬車を引けるようにする。
中をチラ見すると案の定ラオージュがくつろいでいるような格好でいた。
こいつ………俺らが急いでるってのに
と思ったところで風が吹き始め、大きな斬撃音が聞こえた。
その音が鳴ってすぐにシャルが乗り込む。
「貴様……やるなら初めからやると言え」
「別に初めからやる気は無かったんだ。わりーな」
「飛ばすから落ちないように気をつけろよ」
また言い合いをしかねないので一言言って馬車を引く。
一気に加速して速度を上げて、駆けていく。
後ろは二人に任せて、俺は前に集中した方が良いだろ………
「小僧!!右に大きく曲がれ!!」
[ケンさん、後方から巨大な攻撃が飛んできます。避けてください!!]
あの切れた時以来に聞いたラオージュの荒げた声。
アンジュの指示もあったのですぐさま、ドリフトして曲がると
巨大な光がさっきまでいた場所を突き抜けていく。
これはあの時の…………。
「ケン!!後ろは私達に任せて、早く行ってくれ!!」
「あぁ、わかった」
そう言われてシャルとラオージュに後ろを任せて再び走り出す。
どんどん速度を上げてドゥシュムーポから離れていく。
「………!?ケン、左に避けろ!!」
[ケンさん、後方から再び攻撃が飛んできます]
「あぁ!!」
今度はシャルからの声にすぐに対応してドリフトして避ける。
まだ撃ってくるとか射程長すぎだろ!!もう随分離れたはずだぞ。
そう思った瞬間に後ろから削り取るような轟音が聞こえる。
この音は忘れたくても忘れないあの竜巻を放つ魔術の音だ。
地をえぐり、土を撒き散らし、岩を削ぎ、木を巻き上げる、あれ。
撃たれたが、今回は撃ってくれてる。その事が実に頼もしい。
そう思った矢先……
[後方から敵が超高速接近してきます。注意してください]
ガギィンッッ!!
アンジュの声が聞こえたと同時に金属音が鳴り響いた。
どうやら魔力壁で防御したようだが……。
「一瞬で詰め寄っただと!?」
シャルの声が聞こえたと同時に風を切るような音が聞こえた。
これはラオージュの突風魔術か?
「進路変更だ、左前方の森へ一直線に向かえ」
ラオージュの指示もあり、進路を変更して左にある森へ駆け抜けていく。
森に入るまで特に攻撃が飛んでくる事もなかった。
幸い、森の中はある程度整備されていて、何とか通ることが出来た。
森の中に入ってからは攻撃はやんだ。
振り切ったようだが……アンジュに調べて貰った方がいいかな。
[もう調べてありますよ。先程の敵個体は追ってきていません。
他に追跡してくる個体もいないので完全に振り切ってますね]
アンジュがそういうのなら大丈夫みたいだな。
ただ、さっきみたいに一気に詰め寄る厄介な魔術が相手側に
存在するので油断は出来ない。
「あんな事をして逃げるだなんて……!!許せない!!許せないわ!!」
「アヤカさん、大丈夫ですか?」
「マンソンさん、私は大丈夫。それより街の人達は大丈夫なの!?」
「それがかなりの死者が出ています」
「…………あの三人……ノーヌミール、許さないのだわ!!」




