刑罰と食事とこの街と、その5
先に畑だった場所へと向かって行くがその途中に至る所に
切断された岩や木が転がっていた。
どんなに巨大な嵐が通った後でもこれ程酷くはないだろう。
そう断言できる程の酷い有様だった。
そして、何より畑だった場所はまるでスプーンでチョコアイスを
掬い取ったかのようなえぐられ方をしていた。
「こんな事になる魔術を人一人に撃つとかあいつイかれてんな……」
「イかれてるかもしれないけど昨日があの日だから仕方ないところあるかもね……」
「あ、あの日ですもんね……」
あの日?別に女の子の日みたいな日なんて男にはねえだろ。
いや、待て。意外とこの世界の男はそういうのがあるかもしれない。
ここで下手に口に出すのはやめておこう。
「まぁ…とにかくとしてこれらを修復するのにどれぐらい日時いると思う?」
「そ、そうですね。ラ、ラオージュさんが他に連れてくる人がどれだけかに
よりますけど……3日はかかりそうです」
3日かぁ……いや、むしろこの規模の修復を3日で終わらせられるんだ。
早いもんだ。そう思ったとほぼ同時に突然風が強くなり始め
近くに何かが落ち土煙を舞い上げ、中から土煙の中からラオージュが出て来た。
「……よし、ちゃんといるな」
「お前どういう方法で来たんだよ……」
「風で吹っ飛んで来ただけだ。そんな事よりほれ」
ラオージュから何かが山ほど入った袋を渡される。
中身を覗いてみるとポーション?のようなものが大量に入っており
一個を取り出して見てみるが、俺にはさっぱりだ。
「そ、それは植物を活性化、再生させる薬ですか?」
「ビンゴ、そいつを倒れてる木に垂らして地面にブッさしておけば見る見るうちに
回復する程の効能よ。お前らにはそこらに転がってる木々を使ってその作業を頼んだ」
そんな高性能な薬が存在するのか、俺がいた世界で売ったら
ぼろ儲けを通り越してノーベル化学賞を楽々と取りそうな品物だ。
が、この世界のものである以上俺が使ったら効果なさそうだ。
「はぁ!?ちょっと待ってよ、垂らすまでは良いけど誰が植えるって言うの」
「坊主、余裕でやれるだろ?」
「余裕だ、任せとけ」
千年杉みたいな大きさの木でもやれると思う。
「ほ、ほんとにやれるんですか」
「余裕余裕、だからお前らはじゃんじゃん垂らしていってくれ」
二人に薬が大量に入った薬を渡して、俺は木を植える方に専念する。
薬を使用された木を片手で掴んでは適当な場所を軽くつま先で蹴る事で
掘り起こして木を植えていく。このペースなら3日どころか1日で出来そうだ。
「あんたの身体強化魔術凄いわね、ここまでのやつは見た事ないわ」
「ん……?そ、そうか」
[そんな魔術もあるんですねえ……うーん、この世界に勇者を送った際に
作られた資料を見つけたので見てましたけどそんな魔術の存在は書かれてませんね。
どうやら、資料が製作されてから作られた魔術なのかも……]
待て!!なんだそれは!?そんなのがあるんならそこにある
知識を全部俺の頭の中に入れてくれよ。
それがあればあんな怪しまれる展開にならなかっただろ!?
[あ、この資料作られてから1000年近くたってる……。
これじゃあ、役に立ちないわけですね。残念]
1000年か……それだけ立ってたら、流石に役に立たないか。
それよりもこの木を植える作業をさっさと終わらせる事に集中した方が良いだろう。
気合を入れて、がんがん木を植えて、持って、植えてを繰り返す。
それを無心で続ける事、体感2時間――――
「うし!!これでこの辺りに転がってるやつは植え切ったか?」
「終わったけど……いくらなんでも早すぎ。どうなってんの?あんたの体」
「どうなってるって言われても、頑張って体鍛えたからかな」
「体を鍛えたって……随分と非効率な事したのね」
「も、元の力が強ければ身体強化はより強化されるので効果はありますけど
それなら魔力を高めて身体強化魔術の質を上げた方が良いですよ、ケンさん」
「そ、そうか、ありがとな」
強くなる上で体を鍛えるって一番大事な事だと思ってたんだが
この世界の常識だと違うのか……ってやばい、またやらかしたか!?
そう思って身構えそうになるが二人は特に怪しんでるようには見えない。
良かった、大丈夫のようだ。
「まぁ、話はこの辺りにして次のところに行こうぜ」
「そうね行きま……あれ、あの袋は?」
「ア、アシェルさんが持っていませんでした?」
「……向こうに置いてきたまんまじゃん。取りに行くから二人は先に行ってて」
「わ、わかりました」
「ああ、わかった」
二人して先に大量に木が転がってる場所に向かうが会話が無い。
情報収集もかねて何か話したいが話題が思い浮かばない。
何にすべきか……なんて考えてる間にシェシュルの口が開く。
「あ……あのケンさんはどうして見知らぬ僕達を助けたのですか?」
「そりゃあ、知っちまったからだよ。知らない人間だとしても
あんな状況になってるのを知ったらほっとけないだろ?」
「そ、そうかもしれませんけど……怖くはなかったんですか?
ぼ、僕だったらもしもを思うと怖くて動けなさそうで……それが……」
「そんな自分が恥らしいと思うか?」
シェシュルはこくりと首を縦に振る。
「そいつは間違いだ。恐怖を感じて動けない、逃げ出したくなるのは
生物として当たり前の事でそれに打ち勝つなんてそう出来る事じゃない。
だから、恥じるじゃねえんだ」
「そ、そうなんですか」
「ああ、だから落ち込む事はねえよ。むしろ……年は13ぐらい?だってのに
自分で仕事をやって稼いでいる時点でお前は立派だよ」
「そ、そうですか」
「ああ、だから自分に自信を持ちな」
なんて話をしているうちに次の木々が転がっている場所まで来たので
シェシュルには手元に残っている薬を垂らして貰って俺はその木を植えていく。
アシェルが来るまでそれを続けていく中、シェシュルが再び口を開く。
「ケ、ケンさん…」
「なんだ?」
「さ、さっき、恐怖に打ち勝つなんてそう出来る事じゃないと
言ってましたけど、どうすれば打ち勝てるんですか?」
「随分と難しい質問が来たな……俺は大事なものの危機の時だと思ってる。
友人、恋人、大事な物、国とか人によって様々だが絶対に失いたくないもの
守れなかったら一生後悔するものを守ろうとした時に打ち勝てるようになる
ってとこかな?………こんな答えで良かったか?」
「は、はい答えて貰いありがとうございます」
なんか言葉足らずな気がするが、満足して貰ってるみたいだし良いかな?
なんて思ってると後ろから声が聞こえる。
「ごめーん、先にやって貰っちゃって」
「まだ始めたばかりだから気にしなくてもいいぞ」
「え、えっとアシェルさん」
「なに?」
「こ、今度は僕が守りますね!」
「……?うん、ありがとね」
………こりゃ、空回りしそうだ。




