レンと私達
レンがこっちに来てから時間が過ぎた。
私はレン(理想の弟)との時間をできるだけ取るために、自分のスケジュールを無駄のないタイトなものに変えていった。
こんな事もできるのに、今までなんと時間を無駄に使っていたんだろう。
自然に帰れるようになれるかも? と最初は思っていたけれど、どうやらそういう奇跡は簡単に起きないらしい。
そろそろこっちでのレンの地盤をちゃんとしてあげなくては。
そこでとうとう、兄貴が腰をあげた。
「役所に行ってくる」
兄の考えた筋書はこうだ。記憶喪失の少年を拾ったので、何とかしてほしい。
拾った手前、家で面倒は見ます。
対人恐怖症の兄からしたら、それは思い切った決断だった。
冷や汗を流す事もなくどもる事もなく、兄は自分の意見について堂々と人前で述べる事ができた。
ついこの前までの引きこもりが嘘のようだ。
警察やら何やらの事情徴収があったり、病院で、検査や問診があったが、兄はがんばった。
レンも何を聞かれても「覚えていません」で通す事ができた。
そういう施設に連れていかれそうになったが、家の前で保護したのでと無理を言って家に引き取ってきた。
その努力あって、レンには新しい住民票が交付され、戸籍も与えられる事になった。それに学校にもいける事になった。
「亮介ちゃんが頑張ってるんだもの」
それには、そういう母の援護射撃も当然プラスになっていた。
「学校ですか?」
「同年齢の子達と交流がもてるんだよ」
レンはあっちの世界では、そういう機会には恵まれなかったようだ。
教会のお告げがあって、親から引き離され、そのまま王宮の大人達に交じって育ったそうだ。
レンに子どもらしい経験をさせてあげたい。
大人の庇護の元、のびのび過ごせる時間をあげたい。
それは私と兄との共通認識だった。
兄と私はレンをいろんなところに連れていった。
それはレンにとっても私達にとってもかけがえのない時間になった。
お話なので、記憶喪失の人の処遇には実際とは違う事があります。
ここでは無理が通ったのだな位に思ってください。




