第24話 六畳間の密着と、暗闇でのよくある勘違い
「子作りは禁止です」
詩織さんが顔を真っ赤にして提示した、厳格かつ生々しい絶対ルール。
それを受け入れる形で、俺の周りには「鷹司さん・熊川さん・栃谷さん」によるハーレムが成立してしまった。
当初、熊川さんと栃谷さんは隣の詩織さんの部屋に泊まる予定だったらしい。
だが、「ハーレム結成記念に、富岡君の部屋でみんなで泊まろうよ!」という熊川さんの一言で、彼女と栃谷さんの宿泊場所が急遽この201号室へと変更されたのだった。
「ちょ、ちょっと待ってください! 私もここに泊まります!」
慌てた詩織さんも参戦を表明し、結果として俺の狭い部屋に女子三人が泊まるという事態に発展した。
季節は六月中旬。
雨模様が続いて少し蒸し暑い夜だが、エアコンの冷風が心地よく部屋を満たしている。
俺は押し入れから予備の布団を引っ張り出し、六畳間の床に敷き詰めた。
「うわぁ〜、本当に四人で雑魚寝だね! 修学旅行みたいでワクワクする〜!」
熊川さんがカジュアルなTシャツとショートパンツ姿で、布団の上にダイブする。
健康的な太ももが惜しげもなく露わになり、視線のやり場に困る。
「狭いが、まあ悪くない。なんだか賑やかで楽しいな」
栃谷さんもダボッとしたタンクトップの首元をパタパタと仰ぎながら、畳の上に腰を下ろした。
脇の隙間からチラリと覗く素肌に、男としての理性が揺さぶられる。
一方の詩織さんは、自身でデザインしたというシルク混のルームウェアに身を包み、ソワソワと身体を縮めていた。
薄手でしなやかな生地が彼女の華奢なボディラインを強調しており、胸元が上下するたびに可憐な色気が漂ってくる。
狭い六畳間に、タイプの異なる美少女が三人。
部屋中には甘いシャンプーの香りと、彼女たちの温かい体温が満ちていた。
* * *
「じゃあ、私と遊技で先にお風呂に入るよ」
布団の端に座っていた栃谷さんが、ごく自然な口調でそんな提案をした。
「へ……?」
俺が固まっていると、詩織さんが弾かれたように立ち上がった。
「ちょ、ちょっと栃谷さんっ!? 子作りは禁止って、さっきルールを決めたばかりじゃないですかっ!?」
顔を林檎のように真っ赤にして抗議する詩織さん。
対する栃谷さんは、眉ひとつ動かさずにサバサバとした表情で返した。
「何を言っているんだ詩織。一緒にお風呂に入ったところで、子供はできないぞ」
「うぐっ……! そ、それはそうですけど……っ!」
ぐうの音も出ない正論で論破され、詩織さんは言葉を詰まらせてへたり込んだ。
「ほら、遊技。さっさと汗を流してこよう」
「あ、ああ……」
俺は栃谷さんに促されるまま、脱衣所へと足を踏み入れた。
脱衣所のドアを閉めると、途端にふたりきりの空間になる。
「ふぅ、早くさっぱりしたいな」
栃谷さんは全く照れる様子もなく、目の前で着ていたタンクトップの裾を掴み、頭からスポンと脱ぎ捨てた。
豊かな膨らみこそないものの、キュッと引き締まったウエストと、滑らかな質感の白い肌。
黒い下着に包まれたスレンダーで美しい身体が、隠すこともなく晒される。
「どうした? 恥ずかしいのか?」
呆然と立ち尽くす俺の視線に気づいたのか、栃谷さんはニヤリと意地悪な笑みを浮かべた。
「いや……男勝りだとは思っていたが、潔すぎるだろ」
「ははっ、今更お前に隠すことなんてないさ。男同士みたいなもんだろ?」
そう言って笑う彼女だが、濡れた茶髪のショートヘアから覗く首筋や、ほんのりと赤みを帯びた耳たぶには、隠しきれない女子の艶っぽさが漂っていた。
俺も腹を括り、服を脱いで浴室へ入る。
狭いユニットバスの洗い場。
蛇口から勢いよく温水が吹き出し、狭い浴室が一瞬で白い湯気に包まれた。
* *
「背中、洗いっこしようか?」
「ああ、頼む」
シャワーの音に紛れて、自然なやり取りが交わされる。
ボディソープを泡立てたタオルが、俺の背中を優しく撫でる。
時折、彼女の指先や、柔らかい身体の一部が俺の肌に触れるたび、ゾクゾクとした快感が背筋を駆け抜けた。
「次は私な」
交代し、俺が栃谷さんの背中や肩を洗う。
滑らかな背中から腰にかけてのラインは驚くほど細く、女性特有の柔らかさに満ちていた。
ふと、正面に回り込んで胸元や首筋に泡を広げたとき、彼女の吐息が不意に荒くなった。
「ん……」
小さく漏れた甘い声。
見上げると、栃谷さんは少し頬を染め、潤んだ瞳で俺を見つめていた。
シャワーの温水と、密着する肌の熱。
男友達感覚で接していたはずなのに、目の前の彼女が紛れもない「魅力的な女子」であることを、脳が強烈に認識してしまう。
俺の下半身が、急速に熱を帯びて反応を示し始めた。
太ももに触れる硬い感触に、栃谷さんがピクッと身体を揺らす。
「……っ」
気まずさに俺が身を引こうとすると、栃谷さんがすっと手を伸ばし、俺の腕を掴んだ。
「気にするなよ、遊技」
彼女は耳元に顔を近づけ、抑えた低めの声で囁いてきた。
「……実は私も、ちょっと興奮してきた。お互い様だろ?」
「栃谷さん……」
「外に聞こえると詩織たちがうるさいからな。声、殺せよ?」
栃谷さんは俺の首に手を回し、身を寄せてきた。
濡れた肌と肌が直接擦れ合い、生々しい水音が狭い浴室に響く。
お互いの火照りをぶつけ合うように、身体を密着させ、刺激を与え合った。
「ん……くっ……っ」
「……ふぅ……っ」
声漏れを防ぐため、互いに口元を手で覆いながら、短く熱い瞬間を共有する。
やがて果てた俺たちは、荒い息を吐き出しながら湯船に浸かった。
「ははっ……やっぱり若いから元気だな、遊技」
湯船の中で、栃谷さんが満足そうに目を細めて笑う。
「栃谷さんこそ、大胆すぎるだろ……」
「フッ、ハーレムの一員になったんだ。これくらいは別にいいだろ。……よし、あまり遅くなるとあの二人に怪しまれる。上がるぞ」
互いに理性を失うこともなく、俺たちは爽快感を抱いたまま風呂を上がったのだった。
* * *
俺たちがリビングに戻ると、今度は梨々花さんと詩織さんがお風呂へと向かった。
脱衣所の向こうから、賑やかな声が漏れ聞こえてくる。
「ちょっ、待ってください熊川さんっ! どこ触ってるんですか……っ!」
「いいじゃん詩織〜! 女同士なんだから減るもんじゃないし! 小さいのを気にしてるのかな? こうするとおっきくなるそうだよ……それ〜っ!?」
「きゃーっ! 変なところ揉まないでください〜っ!」
じゃれ合うような黄色い悲鳴に、俺は思わず苦笑いを浮かべた。
ドライヤーで髪を乾かしていた栃谷さんが、濡れた髪をかき上げながら悪戯っぽく俺を見る。
「……さっきの私たちの吐息や音、きっとあの二人にも聞こえてただろうな」
「……ああ」
俺は冷や汗をかきながら、その事実を認識した。
二人が風呂から上がってきた後は、火照りを冷ますために四人でローテーブルを囲んだ。
スマホのパーティゲームや簡単なカードゲームに興じ、負けた人が勝者の頼みを一つ聞くという甘い罰ゲームを交えながら、夜の時間は穏やかに過ぎていった。
やがて深夜0時を過ぎ、部屋の電気を消して布団に入る。
並びは左からざっくり瑠以さん、梨々花さん、詩織さん、そして俺。
狭い布団の配置ゆえに、横を向くとすぐ隣に誰かの体温を感じる状態だった。
* * *
夜中、喉の渇きを感じて目が覚めた。
静かに布団を抜け出し、暗闇の中で足音を殺してトイレへ向かう。
用を足し、冷たい水を一杯飲んでから、再び慎重に寝床へと戻った。
目を暗闇に慣らしながら、すやすやと寝息を立てる三人のシルエットを眺める。
ふと、俺の寝床のすぐ隣で、こちらに背を向けて丸くなって寝ているシルエットに目が留まった。
(……あ)
夕刻、詩織さんの部屋で触り損ねた、彼女の柔らかい丸み。
「ハーレムメンバーに入る」と宣言してくれた彼女だが、今夜はまだ深いスキンシップをとれていない。
幸い、今はぐっすり眠っているようだ。
昼間、彼女自身から「『そこ』を触る許可」は一応もらっていたはずだ。
(ちょっとだけ……触らせてもらおうかな)
暗闇と深夜の静けさが、俺の理性を緩ませていた。
俺はそっと膝をつき、布団から覗く滑らかな生地で包まれたお尻へと手を伸ばした。
そっと、手のひらを重ねる。
包み込むような柔らかさと、生地越しに伝わる温かい肉感。
(おお……やっぱりすごく柔らかい……)
感触を味わうように少し力を込めた、その瞬間だった。
ギュッ。
暗闇の中で、俺の手首が強い力で掴まれた。
「……っ!?」
心臓が跳ね上がる。
起きてしまったか、と冷や汗が噴き出した。
すると、手首を掴んだ主が、暗闇の中でゆっくりとこちらへ振り返った。
「……ねえ、富岡君」
耳元で聞こえたのは、甘く小悪魔的な、聞き覚えのある声だった。
「寝てるときに触るのは、反則だと思うな〜?」
「く、熊川さん……っ!?」
俺は絶句した。
詩織さんだと思って触っていた相手は、いつの間にか位置が入れ替わっていた、熊川梨々花さんだったのだ。
「し、しまった……! すまん、鷹司さんと間違えて——」
慌てて手を引こうとする俺。
しかし、梨々花さんは手首を離さず、クスクスと布団の中で可愛らしく微笑んだ。
「ふふっ、間違いだったんだ? ちょっとショックかな〜」
彼女は身体をすり寄せ、Tシャツの胸元を少し弛ませながら、暗闇の中でパッチリとした目を輝かせた。
「でも……まあ、許してあげる」
「え……?」
「その代わり……ね?」
梨々花さんは俺の手を引き寄せ、自分のTシャツの中へと導いた。
手のひらに触れる、信じられないほど柔らかく、温かい素肌の感触。
彼女の小さな手が、俺の首元に回される。
「富岡君の手、すごく温かくて気持ちいい……。私にも、優しくして?」
暗闇の中で、衣擦れの甘い音と、梨々花さんの熱い吐息が交差する。
彼女の身体を丁寧に愛で、心地よいポイントを探っていくと、梨々花さんは俺の肩に額を押し当て、甘い声を漏らした。
「んっ……あ……っ、富岡君……上手いじゃん……っ」
昼間の快活な雰囲気とは違う、女の子らしい甘えた声と、華奢な身体のしなる感触。
俺たちは暗闇の中で声を殺しながら、互いに身体を慰め合い、深い満足感とともに熱い吐息を吐き出した。
「ふふっ、お仕置き完了。……おやすみ、富岡君」
梨々花さんは満足そうに微笑むと、俺の腕に抱きつくようにして、すやすやと小さな寝息を立て始めた。
彼女の髪から香る甘い匂いに包まれながら、俺は天井を見つめる。
(詩織さんとの関係が進展しそうで進まないうちに……熊川さんと栃谷さんとの関係が、どんどん過激に進んでいっている気がする……)
甘い焦燥感と理性の限界を感じながら、俺はゆっくりと目を閉じた。




