7.物件
放課後にやる予定があるからか、一日の授業があっという間に過ぎ去った。
やってきた放課後……。
「それでさー。こんなことがあってさー」
「あはは。そうなんですね」
白石は彼女の友人、赤井と諸星に絡まれていた。
「そこで彼ぴに言われたの。そんなに食べると太るぞって。ありえないよねー」
赤井と諸星は、このクラスでは有名なしりが……幾多の男と交際経験を持つ女の子。
つまり、ギャルである。
そんなギャルが、どうしてお堅そうな白石との交友を深められたのかと言えば……はて、どうしてだろう?
「それでそれでっ、立夏ちゃんの方は、恋人とどんな感じなの!?」
ちなみに、赤井と諸星には、白石に恋人がいることはバレている。
いや違う。バレている……のか、彼女からバラしたのかは所説ある。
ただ、恋人がいるのはバレていても、その相手が誰かまでは、彼女は二人には話していないらしい。
「……あはは。まあ、ぼちぼちです」
白石がこちらに目配せをしながら曖昧な返事をした。
……関係がバレていないのだから、茶化されないためにもこちらには目配せしないで頂きたい。
いや、もうそろそろ周囲に俺達の関係をバラさないといけないわけだし……いいのか?
「ふうううううん。ぼちぼちですかー」
……赤井のニヤニヤした顔が俺の方へ向けられた気がした。
奴等は勉強は苦手なようだが、こと色恋沙汰に関する嗅覚は凄まじい。
白石が自らの恋人が誰かを二人に告げたわけではないが……もしかしたらあの二人は、白石の恋人、通称、彼ぴが誰かなんて、お見通しなのかもしれない。
「あ、そろそろバイトの時間だ」
「本当だー」
「じゃあね、立夏ちゃん」
「じゃあねー」
「はい。さようなら」
ようやく赤井と諸星が去り、教室には俺と白石の二人きりとなった。
「……絡まれて大変だったな」
とりあえず、俺は白石を労うことにした。
「大変だなんて思ってないです。とても良い友人ですもの、あのお二人は」
「そうか。……そうだよなぁ」
そうであれば、これ以上、色々言うのは控えよう。
「よし、そろそろ物件探しを始めるか」
「はい」
俺は白石の前の席に腰を下ろした。
「酒井君」
「なんだ」
「今更なのですが……物件探しってどうやるんですか?」
「どうやるんだろうな」
俺達はまだ高校生。
一人暮らしをしたこともない身なため、そりゃあ物件探しの仕方なんて、漠然としか知らなくて当然だ。
「えぇ……?」
俺の丸投げともとれる発言に、白石は少し困惑した様子だった。
「俺は知らない。が、ネットで検索してみた」
「ネットで」
「ああ。そうしたら、CMとかで名前を聞いたことがある不動産屋サイトがヒットしてな。そこで物件を探せることが判明した」
俺はさっきまで見ていたスマホの画面を白石に見せた。
「すごい。いっぱいあるんですね」
「そうだな。このサイトを使って、内見とかの依頼も出来るそうだ」
「うわあ、便利」
「俺みたいなコミュ障陰キャが極まって不動産屋に訪問することさえ前向きになれない男には都合の良いサイトだ」
「いきなり饒舌ですね……」
白石は苦笑した。
「ともかく、このサイトを使って色々と物件を探してみよう」
「はい。わかりました」
「というわけで……まずは検索のために、住みたい物件の条件を絞り込もう」
俺は鞄からノートとペンを取り出した。
「と言っても……具体的にどんな条件を設定するのが良いのでしょうか?」
白石はまた疑問を呈してきた。
「白石。そこはこれから住む場所なんだし、定石とかではなく自分がどんな場所に住みたいか、で考えるべきではないだろうか」
「……どんな場所に住みたいか」
「うん。お前はどんな場所に住みたい?」
「……」
「……」
「……うーん」
白石は顎に手を当てて唸った。
俺、そんなに難しいことを尋ねただろうか。
物欲の薄い俺でさえ、こういう場所に住みたい、みたいな漠然とした希望はいくつかある。
「……あまり思いつかないか?」
「はい」
白石は申し訳なさそうに頷いた。
「酒井君と一緒に生活出来るなら、どこでも構わないと思ってしまいました」
「……」
「……」
「…………」
「…………」
「しょ、しょうか……」
「はい。酒井君は、こんな場所に住みたいって条件はありますか?」
……白石の言葉にかき乱されたが、俺は咳払いを一つして、平静を取り戻した。
「ある」
そして、俺は頷いた。
「勿論。一番はお前と一緒に生活出来ることだが……それ以外にも、いくつか欲しい条件がある」
俺はシャープペンシルを数度押して、芯を出した。
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