3.訪問
父への説得から翌日、いつも通りの時間に目を覚ました俺は、自室を出てリビングへ向かった。
リビング。
両親はまだ寝ている時間。
俺はキッチンに立ち、両親の分も含めた朝食の準備を始めた。
俺の両親は共働き。長時間残業をしていることも珍しくなく、家事能力は自ずと身に付いた。
「アンコ。散歩行くぞ」
朝食を食べ終えた俺は、家の外の犬小屋で散歩待ちをしていた愛犬のアンコを連れて散歩に出かけた。
小さい頃から俺は物欲があまりない子どもだった。
例えば、両親に誕生日プレゼントに何が欲しいかと問われれば、お金、と答えたし。
クリスマスプレゼントにサンタさんに何を求めるかと問われれば、お金、と答えた。
小さい頃から、この世は所詮、お金が全て。だなんて穿った考え方をしていたからそんな要求をしていたわけではない。
一々、記念日の度に何が欲しいだなんて言われても……心から欲したいと思ったものがなくて、だったら将来のためにお金をくれ、と思っていた。ただそれだけのことだった。
ただ、そんな物欲の薄い俺は、両親からしたら多少……結構、困った存在だったようで、まともな感性を育んでほしいとでも思ったのか、両親は俺にペットを与えた。
ただでさえ物欲が薄いのに、ペットなんて与えられても……。
当時の俺はワンワンと喧しいアンコを前に、何度かそんなことを思ったものだが……こいつとも十年来の付き合いともなると、今ではそれなりの情が移ってきていた。
結果、命の尊さや命を育てる大変さも学んだわけだが……。
「まさか、もう少ししたら子育てをすることになるなんてなぁ」
少しだけ感慨深い気持ちになった。
「お前とも、もう少ししたらお別れかな」
アンコに言うが、こいつは誰に似たのか我が道を行くタイプで、俺の言葉に耳を傾ける素振りも見せない。
……アンコとの別れは、人よりも寿命の短いこいつの天寿を以て迎えることになると思っていた。
しかしまさか、俺が人の親となり、親からの自立を以てそれを迎えることになろうとは。
本当、感慨深いものだ……。
アンコとの散歩を終えた俺は、まだ二階で寝ている両親を起こさないように身支度を終えて家を出た。
高校二年生になって以降、俺は両親よりも早い時間に登校をしている。
両親が社長出勤をするようになったからそうなっているわけではない。
「おはようございます。酒井君」
「おはよう、白石」
……俺が朝早く登校をするようになったのは、学校に登校する前に電車で白石と落ち合って、昨日も行った公園で彼女との親睦を深めるため。
「昨日は寝れたか?」
「……ごめんなさい。あんまり」
公園での親睦会。
いつもならもう少し……いやかなり、白石は楽しそうにしているのに、今日ばかりはそういうわけにもいかないらしい。
白石はわかりやすく昨日のテンションを引きずっていた。
「……今日、放課後、お前の家に寄るのは問題ないか?」
俺は白石に尋ねた。
「はい。……両親とも何かを察したような感じでした」
「何かを察したように、ね」
多分、白石の両親は、彼女の申し出に対して、彼氏紹介の場を設けるつもりくらいの認識しかないだろう。
「……白石、負担を強いて申し訳ないが、明日はウチに寄ってもらってもいいか?」
「う……。は、はい……。大丈夫です」
「悪いな。一応、事前にウチの親には事の顛末は話しておいてあるから。そこまで深刻に捉えないでくれ」
「え、話したんですか?」
「ああ。話した」
サラッと言う俺に、白石は……何故か頬を膨らませていた。
「酒井君はずるいです」
「何がだよ」
「……だって、自分で全部背負いこもうとするんですもの」
……意味がわからない。
「そろそろ学校に行こうか」
俺はスマホの画面に記載された時刻を見て言った。
「はい。……酒井君」
「なんだ」
「……頼りない彼女で、ごめんなさい」
「昨日も言っただろう。謝罪はするな」
「……でも」
「これから俺達は夫婦になるんだ。夫婦って存在は、両者の足りない部分を補って成熟していくものだ」
「……酒井君に足りない部分なんてないじゃないですか」
「馬鹿言え。足りないものだらけだ」
……俺に足りないものがない完璧な男なら、彼女に悲しそうな顔をさせるはずがないからな。
「ほら、行くぞ」
……口が裂けてもこのことを言えないと思っているあたり、やっぱり俺は足りないものだらけな男である。
ただ……足りないものだらけだとしても、譲れないものにだけは断固とした姿勢を見せなければならないはず。
それが……俺なりの責任の取り方だ。
白石の前では平静を装っていたが、学校に着くと少しだけ気持ちが逸っていることに気が付いた。
なんだかんだ俺も……彼女の両親との話し合いに浮足立っているのだろう。
いつもの授業。
いつもの学校。
いつもの教室。
それらがいつもと違うような錯覚に囚われた俺は、珍しく勉強に身が入らなかった。
しかし、あらゆることに集中出来ていなかった割に、時間が過ぎ去る速度だけはいつもよりあっという間に感じられた。
……放課後。
「白石、行くか」
「はい」
俺達は白石宅へ向かうため、学校を後にした。
下校道を歩き、電車に乗り、白石宅の最寄り駅で電車を降りて……。
「白石、一旦、コンビニに寄っていいか?」
「え? 何か買うんですか?」
「菓子折りを買うのを忘れていた……」
途中、抜けた一面を彼女に見せつけて……。
「着きましたね」
「そうだな」
俺達は白石宅にたどり着いた。
……さっきまでは平気だと思っていたが、心臓がドクドクと喧しいことに気が付いた。
どうやら今、俺は人生で一番緊張をしているようだ。
「よし。インターホンを押すぞ」
ともあれ、この緊張はイベントをこなさない限り解かれることはない。
俺はインターホンを押した。
まもなく白石宅の扉が開いた。
「あらー。酒井君、こんにちは」
俺の訪問に応じてくれたのは、白石の母だった。
彼女と俺は、白石が俺の惚気話をしてくれていただけでなく、既に何度か面識もある。
「こんにちは。……今日は突然、すみません」
「いいえ。さ、入って」
……白石の母は、俺が実の娘を妊娠させた人間だなんて思いもしないのか笑顔で俺を家に招き入れた。
一瞬、罪悪感に似た感情が胸を襲った気がしたが、俺は首を横に振ってその感情を否定した。
「お邪魔します」
白石は俺に続いて家に入った。ここは彼女の家のはずだが……彼女も緊張していることは隣に立つ身としてもすぐにわかった。
「白石、大丈夫か」
「……はい」
白石の返事は、あまり大丈夫そうではなかった。
「はは……」
その様子を見て、俺は苦笑した。
「安心しろ。必ず了承を取り付けるから」
なんというか……実の両親に対して、俺以上の緊張を見せる白石を見ていたらさっきまでの緊張が吹き飛んでしまったのだ。
「さ、どうぞ」
「ありがとうございます」
白石の母に促されるまま、何度かお邪魔した白石宅のリビングのソファに俺は腰を下ろした。
「お父さん、早退して帰ってくるって言ってたんだけど、ちょっと仕事が長引いちゃって。さっき会社出たみたい」
「え、わざわざ会社を早退してくれたんですか」
「うん。何せ、ウチの娘の最愛の彼氏との初対面だもの」
白石の母はニヤニヤと娘を見ていた。
「……うぅ」
白石は何だか少し恥ずかしそうにしていた。
「酒井君、麦茶でいい?」
「あ。お構いなく」
「構うわよー」
「……ありがとうございます」
あんまり何度も断ると、向こうが余計気を遣う気がしたので、俺はお礼を言って引くことにした。
「はい。どうぞ」
「ありがとうございます」
「さて、それで酒井君。……今日はどうしてわざわざあたし達に会いたいなんて言い出したのかしら?」
なるほど。
白石は今日の両親と俺との四者面談の場を、俺がリクエストしたことにしてセッティングしたのか。
「……それは」
非常に助かる。
彼女と、彼女のお腹の中の子の責任を取る立場として、そう言っておいてもらった方が体裁が良い。
「それはですね」
俺は意を決して、事の顛末を伝えようとした。
……が。
「ただいまー」
玄関の方から男性の声がして、俺は口を閉じた。
「ごめん。帰りが遅くなって」
玄関の方が慌ただしい。
「……帰ってきたみたい」
白石の母は無邪気な笑みを浮かべていた。
「もうー。お父さん、遅いー」
白石の母は、玄関の方へ向けて茶化すように言った。
「ごめんってば」
……彼女の父とは、これが初対面となるが、声色は優しい。
スリッパの足音が響く中、俺は無意識に立ち上がっていた。
「こんにちは」
「初めまして。酒井晃と言います」
「……」
「……」
「…………」
「…………」
緊張の初顔合わせ。
頭を下げた俺に対して、白石の父はしばらく黙りこくった。
「君が酒井君かぁ」
まもなく白石の父から漏れた声は、どこか嬉しそうな声だった。
「いやあ、これははじめまして。立夏の父です」
「……はじめまして」
「いやー。あはは。すごい好青年だね。立夏が好きになるのも頷けるよ」
「……あ、ありがとうございます」
「あはは。そんなに畏まらないでよ。こっちまで緊張しちゃうじゃないか」
照れ臭そうに笑う白石の父に……。
「……俺、緊張している風に見えますか?」
無意識に、俺は不躾な質問を投げかけていた。
「え? あはは。そうだね。ちょっと顔がひきつっているかも」
「……そうですか」
そうか。
……緊張しているように見えたか。
実際、白石に散々、さっきまで偉そうなことを言ってきた身としては情けないくらい、俺は今、心臓が高鳴っている。
……でもすぐに気付いた。
一体、どうして俺は今、彼らに対して緊張の面持ちを見せているのか。
それは……。
……白石との結婚を。
白石との間に産まれる子の存在を。
彼らに認めてもらえるか。……それを不安に思っているからではない。
……少し話をしてわかった。
白石という女子が心優しい子に育った意味。
それは……きっとこの優しい両親の間に産まれたためなのだろう。
だからこそ彼女は穏やかな性格を持ち、気品ある女性に育った。
……全ては彼らの子育ての賜物だ。
そんな……白石を誰よりも愛し、心血を注いで育てた彼らから、彼女を奪うような真似をしていいのか。
一瞬、疑ってしまったのだ。
白石を彼らから奪っていいのか。そこに疑問を抱いたから、緊張や罪悪感にも似た感情を抱いてしまったのだ。
……ただ、そのことに気付いて、落ち着いた。
「……実は今日、お二人にお時間を頂いたのには訳があります」
だって……それが俺の緊張の原因なら、どうすればいいかは明白だ。
彼らに決めてもらえばいいんだ。
「……申し訳ございません」
俺が……白石に相応しいか、否かを。
「彼女を……立夏さんを妊娠させてしまいました……っ」
俺は白石の両親に向けて、頭を下げた。
途端、さっきまでアットホーム感が漂っていたリビングの空気は静まり返った。
「……えぇ?」
「えぇ……?」
白石の両親が真っ先に見せた感情は怒りではなかった。
心の底からの困惑。
あまりに困惑しすぎて……言葉さえうまく紡げない様子だった。
「……確かに最近、立夏の顔つきとか丸くなっていた気がしたけれど。妊娠? 本当に?」
頭を下げ続ける俺を無視し、白石母は白石に視線を向けているようだ。
「……うん。ごめんなさい」
「いやそんな、謝ってほしいわけじゃあ……。本来、子供が出来るって喜ばしいことだし」
「……そうだね。ただ……君達はまだ高校生だからね」
「……中絶するの?」
「気付くのが遅くなってしまい、もう……」
「もしかして……二十一週を過ぎているの?」
白石の母は鋭かった。
「……ああいや、あたしもあなたを産む時、全然妊娠の兆候が出なかったのよ。つわりも全然だし、お腹もあんまり出ないし。妊娠に気付いたのは、本当に後になってからだったの」
……なるほど。
つまり、白石の妊娠の兆候の少なさは遺伝した部分もあった、ということか。
「……そう。困ったわね」
……それにしても。
多様性の時代のためか。
それとも、ただの彼らの性格が優しいためか。
……彼らは俺達を責める気はないらしい。
「……君達はどうするつもりなんだい?」
白石の父が尋ねてきた。
……俺はゆっくりと顔を上げた。
「……まずは申し訳ございません」
「形式的な謝罪は不要だ。謝罪したところで、何かが変わるわけじゃあない」
「僕達は……彼女のお腹の子を産み、育てたいと思っています」
「そういうだろうね」
白石の父は深くため息を吐いた。
「酒井君。一旦、座り直しなよ」
「失礼します」
俺をソファに座り直させた後、白石の父も向かいのソファに腰を下ろした。
「……本来であれば、未成年の子を持つ親として、断固として君達の出産を支持するべきではないんだろう。ただ、法律的に中絶出来ないという点が非常にネックだ。……自ずと道が塞がれてしまっている」
「……はい」
「……一つ聞きたい。君達は……避妊を怠ったのか。僕達の目を盗んで、行為に明け暮れたのか」
白石の父は首を横に振った。
「下世話な質問で申し訳ない。でも……そう言いたくなるこっちの気持ちもわかってくれると助かる」
「いいえ。ただ……避妊はちゃんとしました。行為は……たった一度だけです」
「そうかい。……避妊をしても、子供が出来る確率はゼロではない。その上、妊娠発覚が遅れてしまったのは君達の管理不足もあるけれど、一番は親である僕達の責任となるんだろうね」
俺は黙った。
世間一般的な話をすれば……まず間違いなく、今回の一件、一番周囲から白い目をされるのは、被害を被るのは俺達の両親に違いないからだ。
「悪いね。こんな言い方をしてしまって。ただ実際……言いたくなる気持ちもわかってほしい」
「……はい」
わかるに決まってる。
もし俺が彼らと逆の立場なら……当然、同じ質問を相手に投げかけただろうし、そもそももっと激昂していたに違いない。
彼らから見て、俺は実の娘を未成年で妊娠させた憎き男に違いないのに。
……すごい人達だと、そう思わずにはいられない。
「……酒井君」
「はい」
「君はさっき、娘との間に出来た子を出産し、育てたいと言ったね」
「はい。言いました」
「責任は取れるのかい」
俺は黙った。
ただ……返事に困ったから黙ったわけではない。
俺は鞄に手を伸ばした。
チャックを開けて、クリアファイルを取り出し、ファイルに挟んでいたいくつかの資料を机に広げた。
「……履歴書?」
「はい」
俺は頷いた。
「……お二人にとって、俺が信頼に足る人物だという……責任能力がある人間であるという証明が必要なことはわかっていました。だから、説明させてほしいんです。俺自身のことを」
……いきなりの履歴書の登場に、白石の両親は一瞬困惑した様子だった。
が、すぐに俺の意を汲み、履歴書をまじまじと読んでくれた。
「そうか。君は高校入学からずっと学年一位なんだね」
「はい。ただ部活には所属していませんでした」
「部活動で育むコミュニケーションも重要だ。文武両道ってやつだね」
「……検討します」
そこをツッコまれると思っておらず、思わず政治家みたいな返事をしてしまった。
「字が綺麗だね」
「親に習字を習わせてもらったので」
「そうか。……君のご両親は立派な方だね」
俺からしたら、あなた達だって……。とは、上から目線に取られそうで言えなかった。
「うん。よくわかった。……それで、他にも色々あるね」
「はい」
俺は頷いた。
「未成年での子育て。それに対するリスク事案をいくつか昨晩、考えてみたんです」
「……それで?」
「しばらく考えた結果、思いつく用件は三つでした。一つは資金面。子育てにかかる費用は高く、かつ長期間必要になる。当然、リスクとなる得る」
「そうね。ただそれは……正直に言えば、未成年出産に関わらず必ず行きあたる問題じゃない?」
白石の母に言われた。
「ただ未成年出産の方が、学業との両立や……そもそも就労していないことを考慮して、よりハードルは高い」
「……それで、酒井君はどうするつもりなの?」
「これを……」
俺は持参していた通帳を白石母に渡した。
「……見ていいの?」
「はい」
「……これは」
通帳に記帳された額を見て、白石母は目を丸くした。
「小さい頃から、俺は物欲があまりなくて。誕生日プレゼントだったりお年玉だったり、そういうのは全て貯金していたのですが……。小学一年生になる時、どうせ貯金するなら資産運用したらどうかと親に言われて。……今はもう廃止されましたが、ジュニアNISAで投資信託をしてインド株を買っていたんです」
「……インド株、か」
「ジュニアNISAは終わってしまいましたが、資産は一千万を超えたくらいあります。これだけあれば学生の間の三人分の衣食住の確保は問題ありません」
「……確かに」
さっきまで重苦しい雰囲気だったリビングの空気が少し緩和された気がした。
俺の資産を見てそうなる辺り……この両親は妊娠の是非はともかく、娘の幸せを心から願っているんだな、と実感させられた。
「ただ資金面がクリアになっても、他のリスク事案はあります。次に大きな問題として、なんといっても高校のことが挙がると思っています」
「そうだね。……中退する気かい?」
「いいえ。中退する気はありません」
「子育てをするのに?」
「はい」
「……子育てと学業。両立は文武以上に大変だよ?」
「はい。だから、ある程度は学校も休みを取るつもりです」
「留年するってことかい?」
「いいえ。留年規定は年間の欠席日数が約六十日を超えた場合なのでギリギリ回避可能と考えています。妊娠前から彼女には定期的に学校を休んでもらい、出産後も交互に休みを取る。そうすれば、子供を保育園に入園させられる生後三か月くらいまでは留年なしでも子育てと両立出来る算段です」
「……」
「そもそも彼女のお腹の子に何不自由ない生活をしてもらうと考えるなら、高校はおろか大学だって進学するべきだと考えているし、するつもりです。だから休みは取っても学年順位はキープします。必ず」
俺は熱意がこもった瞳を、白石の両親に向けた。
「……だから、お腹の子も。彼女も……っ。必ず幸せにしてみせます。責任を取ってみせます……っ!」
白石の両親は……ゆっくりと俺を見つめた。
「だから……俺達の結婚を認めてください」
俺は頭を深く下げた。
これが……一夜漬けの俺の自己PR。
果たしてそれは……彼女の両親が、実の娘を俺に預けてもいいと思い至らせる結果になったのか。
「……酒井君。君は頑張り屋さんなんだね」
白石の父が労いの言葉をくれた。
「そうね。……順序が正しければ、あなた達の幸せを心から願えたのにね」
白石の母が、苦笑した。
「ねえ、酒井君?」
白石の父は苦笑しながら続けた。
「……どうして君は、そんなに娘にために必死になるんだい?」
「……そんなの決まってます」
俺は顔を上げた。
「俺は白石さんのことを……愛しているからです」
……白石の父は、少し寂しそうに俺を見ていた。
「そうか。……娘を愛している、か」
「……はい」
「立夏」
「……は、はい」
「……君はどうしたい?」
「え?」
「君は……お腹の子はもう産むしかないとして、君は……彼と結婚したいのかい?」
ここで自分に話が振られると思っていたなかったのか、白石は驚いた様子で、中々口を開かなかった。
ただ……少しして彼女は苦笑した。
「お父さん。生意気なことを言うのですが、あたしはお腹の子は産むしかないとは思ってないです」
「え?」
「あ……。ごめんなさい。語弊がありました。……お腹の子を産まない選択肢がある、と言いたいわけではなくて。……その、お腹の子を産むしかないって、まるで成り行きで出産する選択になったみたいな捉え方が嫌なんです」
白石は俺をチラリと見た。
「この子は、あたし達のところに巡ってきてくれた最愛の子。最愛の人と芽生えた大切な子。だから、産むしかない、ではなく……産みたいんです」
「……」
「確かに、中絶が違法になる時期に発覚してなし崩し的になった部分は否めませんが、それがあたしの気持ちです。最愛の子を、最愛の人と産んで、育みたい。それ以上の幸せはきっとないと思うんです」
「……はは」
白石の父は、乾いた笑みを浮かべた。
「酒井君」
そして、優しい声色で俺を呼んだ。
「……娘をよろしく頼むよ」
「……ありがとうございます」
激しい疲労感に襲われながら、俺は白石の両親に向けてもう一度、深く頭を下げた。
「酒井君。……立夏」
頭を下げ続ける俺に、白石の父は続けた。
「何かあったら、僕達のことも頼ってね。君達の親として、必ずサポートするからさ」
……深く安堵したためか、俺は柄にもなく一瞬、涙をこぼしそうになっていた。
高校生夫婦(子持ち)のイチャイチャを書きたいと思ったら、主人公の性格が高校生ではなくなった
こんな性格でもないと高校生で托卵疑わず認知した上で結婚宣言までしないと思った
つまり、見た目は高校生。頭脳は社会人。資産も社会人。
というわけでなんとか本作を書籍化させられたらと思ってますので、皆様、評価、ブクマ、感想など頂けると嬉しいです!!!




