ep.95
「なんとか、無事か?」
やっとの思いで、畑に到着する。ここに来るまでにも、あちこちで戦闘が起こっているのを確認できた。肝心の畑は無事。だが普段はあまり見られない魔物の姿をここからでも確認できる。戦闘したって俺に益はないから、なんとか他で魔物は請け負ってくれんかな?神官になってたら、回復魔法でも扱えたのだろうか?大活躍できたのに。
急いで、薬草を回収する。無事にクエストが終われば、また植えてやるからな。少しの辛抱だ。果実の苗は、すまんがそのまま。今の環境では余計なストレスを与えない方が良いと判断した。素人判断だが、吉と出るか、凶と出るか。守り切ってからの話だな。
祠に鎮座している神像に畑の無事を祈って、クエストの方に集中する。今回のクエスト、プレイヤー全体としての目標は街の防衛だろうが、個人的にはガチャポイントの回収と、土魔法のレベル上げだろうか。本当はルーがその気なら、ルーのレベル上げもさせてあげたいんだが、監視が付いているこの状況、無理そうだな。いっその事、落とし穴に突き落としてやろうかな。いや、ダメだな。確実にフィジカル負けしてしまう。会話はできんが、このバレバレな落とし穴に自分からかかるバカとも思えん。
生い茂った薬草がなければ、畑は出来の悪い小さな祠のあるただの開けた土地だ。祠がプレイヤーの興味を惹く可能性もありうるが、クエストでそれどころでもないだろう。畑を囲う穴でも掘ることができれば、あとは近場でクエストに参加できるかな。魔物を狩ってポイントを稼ぎつつ、近くにいるプレイヤーに売り込みをかけよう。さっきまで魔物は探しても見つからなかったからな。魔物の方から向かってきてくれるとは。手間が省けてありがたい。懸念点があるとすれば、残りわずかなHPだろうか。転職してしまったせいで、デスペナルティも追加されている。何をしてでも、生き残らねば。
畑を囲うようにして、穴を掘る。最初はタンクにやらせようとしたものの、手伝ってはくれなかった。それどころか、コイツは何をやっているんだ、という冷ややかな目でこちらを見てくる。見張りの任があるのは重々承知だが、見張の前に1人の衛兵だろう?人が困っている時には助けるもんじゃないの?だから、お前は隊長になれないんだ。
落とし穴ほどの深さはないが、畑を囲う壕はできた。雨がふって水が溜まれば、濠に進化するだろうか。そういうもんでもないか。ここまで走ったのと、穴を掘ったので、だいぶ満腹値もスタミナも削れている。自分で作ったタコスでも食べようかな。
「うん。うまい。」
これみよがしにタンクの前でタコスを頬張る。我ながら良い出来だ。減っていた満腹値も回復する。一つで、結構回復するな。3個一遍に食っていた奴らは結構満腹になって苦しかったんじゃないか、これ?一人で食べるのもあれだから、何も言わずタンクの前に差し出すが、受け取ろうとしない。だが、気になってはいる様子。
「おい、俺HPないから、守らなきゃ死ぬよ?」
「見張りの任、遂行できなくてもいいの?」
まるでメンヘラみたいなことを恥じらいもなく宣う。だが、これで、見張りだけでなく護衛が必要だと植え付けられただろうか。こういう責務に忠実な奴を動かすなら、命令を遂行できなくなる恐怖を与えれば良い、どこかの偉い人の言葉だ。別に俺は、ミアの名前だって出して良いんだよ?情けを残してやっているんだ。働いてくれないと、困るよ?
融通の利かないとは、まさにこのこと。タンクじゃなくバーサーカーだった。いや、確かに、守れとは言ったけど、積極的に殲滅しろとは言っていないじゃない。俺が魔法を打つ前に近くにきた魔物は一刀のもとにポリゴン化してしまう。ウサギやスライムなど、普段から俺が相手している魔物だけでなく、森の方で一度見た狼や洞窟の蟹までも、歯牙にかけない見事な大立ち回り。このままいけば俺に魔物よけの魔法を破壊するような力は備わっていないと思わせる事もできそうだが、このボーナスタイムをむざむざ放棄するわけにも行かない。
タンクが獲物をとらえた瞬間を見計らって、少し距離をとる。俺のAGIでは大して離れられないが、目の届く範囲にいることが大切だ。離れた場所にいたウサギに向かって、マッドボールを放つ。ウサギ程度なら、一撃。今更ウサギを狩っても特段感動はない。久しぶりに魔法を使って肩慣らしにはなるか。当然経験値は入ってきていない。ガチャポイントのみ、わずかに入ってくる。俺の思った通り、タコス売ってた方が効率がいい。あっちはタコスを作るのと、売るの両方で入ってくるし。まあ、熟練度が入っていることを信じ、【土魔法】を使っていくしかない。この世界でも積み重ねるのが大事ということか。
「魔法は使えるんだな。」
ウサギのドロップを回収していると、背後からタンクが話しかけてくる。なんだ、喋れるじゃないか。魔法が使えることは隊長には一つ、内緒で頼むよ。隊長への返事は勇ましかったが、普段のしゃべり口はおとなしめなんだな。すごい、モテるタイプだ。サリアちゃん、タリアレベルではないものの、顔の造形も悪くないし。きっと、帰る家があるんだろう。綺麗な奥さんと、朗らかな娘に囲まれて、毎日幸せに暮らしているんだろうな。こんな緊急クエスト程度で、負傷するわけにはいかないよな?フラグはこの辺にしておこう。本当だった時が、流石に胸が痛む。
「【土魔法】くらいです。」
「それも、マッドボールだけ。」
「倒せるのも、ウサギやスライムだけ。街を守るために必死です!」
ほら、どうやったら泥団子だけで城壁にかかっている魔物よけの魔法を破壊することができるって言うんだい。そんなことができる人がいるなら、連れてきてほしいね。俺は!必死で!泥団子放っているんです!
「そうなのか?」
「では、お前が壊したのではないと?」
あ、コイツ、騙せるぞ。落とし穴に落として、撒くか。




