ep.93
何かが割れたと思われる、小気味のいいSEを残し、手に持っていた石が砕け散る。俺のHPはレッドゾーン、しかも回復薬も残っていない。対して、城壁は傷一つついていない。まさに完璧。
「完敗、だな。」
今日は大人しく引き下がろう。明日は、木の板にでも書いてこよう。次、城壁に挑むのはSTR上げてからだな。果たして、イベント期間中に行けるだろうか。多分間に合わないな。このゲームをやっているうちには、なんとか達成したい所存。
「、、、、」
「何か、割れた音、したよな?」
少し冷静になってきた。あの時は昂っていたな。ムキになる癖はどうにかしなければならない、が、それはおいおい考えるとして、一体何が割れたのか。確かに石は砕けたが、石が砕けるのに”パリンッ”はないよな?城壁で、パリン。もしかして、これ、まずいんじゃない?
慌てて【再生】で割れた可能性のある何かを元に戻せないか試してみるが、【破壊】のせいでHPは残っていない。俺のバカ。なんで、こういうことを勢いでやっちゃうんだ。いや、何かが割れるだなんて、想像できないじゃない。プレイヤーに対して、そんな説明あったか?城壁に牙を剥いてはダメですよって。実際説明がなされていたとしても、俺まで届いていないんだから、そんなの説明しているとは言わないぞ。俺の中のハラスメント気質も顔をのぞかせる。
「おい、そこにいるのは誰だ!」
西門の方向から男の声がする。そちらの方を向くと、男が連れ立ってゾロゾロと。お、客か?参ったなー。この人数行き渡るかなー。うん。そんなわけない。なぜなら、先頭の男にはこないだもお世話になっているから。そして引き連れている男たちも、フルプレートアーマー。お早い到着だが、どこかで戦争でもあったのかと。仲間の仇撃ちにでも行くのかと。思わず俺もホールドアップ。ルー、いつでも逃げられるように準備しておきなさい。俺はテロリストになってしまったのかもしれないからね。もし、俺に何かあったときはミア、いや、マダムだ。マダムのところで落ち合おう。
「動くな!何をしている!」
「タコス屋Gです!」
「タコスを売っています!」
両手を上げたまま、答える。俺は知っている。こういう時はパッション。高級NPCに論理では勝てない。今回も状況証拠は確実に俺が犯人だと告げているが、現行犯ではない。なぜ俺はMMOで、毎回NPC相手に口プせにゃならんのだ。もっとプレイヤー同士の交流が盛んな設計のタイトルじゃないのか。
「タコ、ス?何を言っている?」
「これで、
「動くな!」
Wow!まるでアメリカンポリスの登場人物になったかのような緊迫感。インベントリからタコスを出そうとしただけなのに、凶悪犯が懐から銃を出すかのような対応をされる。複数の槍や剣、ハルバートの突先がコチラを捉えている。またしても両手を上げざるを得ない状況に。ルー、少し離れておきなさい。
「タコス、という旅人に人気の食べ物です!」
「よろしければ、いくつか差し上げます!」
「先程、城壁にかけられている魔物避けの魔法が破られた。」
「お前がやったのか。」
「いえ私ではありません。」
「私は陽気なタコス売りです。そのような大それたこと、私には出来ません。」
タコスを無料で、ポイントにもならないのに提供してやると言っているのに、その提案は無視される。衛兵さんは確認という体を崩さないが、確実に俺の犯行だと思っているようだ。というか、割れたのは魔物よけの魔法だったのか。結界のようなものだったのかな。城壁付近に魔物が近寄らないのは、それが効力を発揮していたからだろう。それが割れた?一大事じゃないか。こんなところで油売っている場合じゃないですよ。また魔法をかけ直さないと。
「悪いがそれを鵜呑みにすることはできない。」
「詰所まで来てもらおうか。」
先頭の衛兵さんが、おい、と声をかけると、後ろにいた内の2人がコチラに近寄ってくる。先頭の衛兵さんが上長なのかな?歴戦の猛者なんだろう。これって任意ですよね?令状ををとって出直してください、なんて、現実世界のネタが通じる世界じゃないよな。だが、本格的に不味い状況になった。ルーはなんとか離れられたからよかったものの、このままじゃ確実にこの街のテロリストとして市中引き回しの上打首獄門のフルコース。
「待ってください!」
「モンスターです!モンスターが!」
「構わん。連れて行け。」
こないだ東門で大爆発があったでしょう。あの時も魔物が関係してたでしょ。あの爆発を起こせる魔物なら、城壁の魔法を破壊するのも可能なのでは?ね?一考の余地があるとは思いませんか?俺の悲痛の叫びも通じず、フルプレートアーマーの大男に挟まれ、なすすべもなく拘束される。
「隊長!」
「南方からモンスターの群れです!街をめがけて移動してきています!」
「ほらね?」




