ep.88
「何よ、いきなり。」
どこかで見かけた顔だと思ったら、いつぞや行った酒場で俺の卓を見て嘲笑してたやつじゃないか。コップ返せこのやろう。自分の卓見せつけて、人と比較して食う飯はさぞうまかったでしょうね。お姉さん美味しいもん食べすぎて、えらい調子よさそうでんなあ。
心の中で悪態をつくことで、心の安寧を図る。どうやら相手は俺のことを覚えていないようだ。くそ、これが格差というやつか。俺のことなんて歯牙にも掛けないんだろう。「 こ よ。」あの時、あんな豪勢な食事をしていたくせに、めちゃくちゃいい装備をつけている。初期装備から一段階上がった革の装備ですらない。見たことない鱗や鉱石を使ったような、ハーフプレート。腰に携えている小型の剣がメインウエポンだろうか。軽戦士と行ったところだろうか。
「3個の方よ!!」
「うわっ!」
悪態をついたり、相手の外見から色々考察していると、耳のすぐそばまで女がやってきているのに気づかなかった。そのまま大声を出すもんだから、耳がキーンとなっている。こんなところまで再現されているのか。自動で調整してくれればいいのに。
「3個ですね。」
注文を受けてからトルティーヤを焼き始める。野菜類は外に出していた方がライブ感があっていいんだろうが、生憎そんなスペースはない。トルティーヤ焼くのを見て我慢してくれないか。ぐつぐつ煮詰まらないよう火力を調整している鍋から肉を取り出し、温めたトルティーヤに乗せていく。その上に切った野菜類を乗せ、ソースをかけ、
「ソースは伺いましたっけ。」
「何があるのよ。」
「ワカモレとサルサが。」
「じゃあ、サルサ2。」
「かしこまりました。」
どこまでも高慢な女だ。お客様じゃなかったらぶっとばしているところだ。返り討ちだろうけど。男なら、やらねばならぬ、時がある。俺には落とし穴がある。
それぞれソースをかけて、その辺に落ちてた平らな石を皿として使う。もちろん、綺麗にしてある。TeAさんは一瞬ギョッとした顔を見せるも、石皿を受け取り、タコスを眺める。TeAの方はリルをこちらによこしてくる。この一連の行為にポイントが付与された。流石に猪には遠く及ばないが、これを繰り返していけば、そこそこポイントも貯まっていくんじゃなかろうか。
「どうした、変なものは入っとらんぞ。」
「ちょっと待ちなさいよ。スクリーンショット撮ってるの。」
「さいですか。」
皿を受け取った後、顔のまえで静止させタコスを凝視する様子を見て思わず声をかける。この世界にもいるんだな、飯食う前に写真撮るやつ。昔はそんな行為を笑って見ていたが、今ではそちらがメジャーとなっている。指摘しようもんなら、こちらが笑われる始末だ。そんなもの撮るより、熱いうちにかき込んだ方がいいと思うが。まあ、あまり温度に重きを置かないらしいフレンチなんかはその限りではないんだけど。定食なんかは取らなくてもいいんじゃ、って思う時はあるよな。
「いただきます。」
適当な石に座り、膝に石皿を置いて手を合わせている。そして、左端を手に取り豪快に一口。気に食わない女ではあるが、その食べ方は賞賛に値する。人目も気にせず大口を開けて、美味しそうに食べるのを見ると、こちらまで美味しさが伝わってくる。なんとかして、彼女をさくらに仕立て上げれないものか。
少し離れた位置で食べているTeAはいつの間にか、次のタコスに移っていた。こちらもお気に召したのか、勢いよく食べ続ける。そして、あっという間に三つのタコスを食べ切った。いやはや、お見それいたしました。見事な食べっぷり。ここ数日何も食べてなかったんじゃないかとみまごうほど。
「美味しかった。」
「それは、どうも。」
食べ終わったTeAは律儀にこちらまできて、感想を伝えてくる。わざわざ言わなくても、食べている様子を見て、伝わっていたけどな。それでも、直接言われるのも、まあ悪くない。
「どうしてこんなところでやってるのよ?」
「色々考えたら、ここしかなかった。」
「そんなわけないでしょ!?」
「商工地区の組合に参加したら、場所くらい貸してもらえるじゃない。」
「商工地区の組合?そんなもん知らん。」
「呆れた。」
TeA曰く、商工地区には組合なるものが存在しており、会費を支払えば、色々便宜を図ってくれるらしい。生産職なんかは開始時にマストで入っているみたい。何それ、そんなアナウンスあったか?鯛の鯛もn/nも教えてくれんかったぞ。まあ、金がなかったから、知っていても入れなかったろうが。
「まあ、生産職じゃないからな。」
「じゃあ、なんで料理して、出店までしてるのよ。」
「ポイントのためだ。」
「、呆れた。」




