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趣味人のVRMMO  作者: et al.
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82/101

ep.80

 

「高いんだよな。」


 自分で出店するために、必要なものを揃えていく。食材は買ったしあとは道具なんだが、結構いいお値段がする。ここにきて、金額の問題が。体裁にはこだわらないことにしたんだ。最悪、鉄板は平らな石見つけて代用できなくもないんだが、鍋は欲しい。亀の甲羅で煮炊きしろって?いつの時代だよ。そもそも亀を見かけたことがない。ダンジョンなら出てきそうな雰囲気あったが。


 新規事業を起こすのに、補助金は必要なんだが、いかんせん無許可営業だからな。どこからも融資を受けることができない。


「これで稼ぐって決めたんだ。」


 もう、止まることはできない。ギルドに行って古いのを譲ってもらえないか交渉しよう。それがダメだったら仕方ない。鍋を買って仕込みに移る。石集めもせにゃならんし。ここで油売っている時間はないのだ。


「すみません。古くなった鍋ありませんか?」


 ギルドの酒場に行き厨房スタッフに声をかける。冒険者引退された方だろうか、筋肉の衰えは感じるものの、姿勢はよく迫力がある。何よりも眼光鋭い。こんな人に声をかけるなんて現実ならできない。我ながら、大した勇気だ。


「何者だ?」


「あ、すみません。GAKUと言います。旅人です。」


 話しかけるまではよかったが、うちに潜むコミュ障が出てしまった。至極真っ当な指摘をされ、どもってしまった。謝罪し、名乗る。そして、再度要件を伝える。


「古くて使わなくなった鍋があれば、貸していただけませんか?」


「古いのは鋳潰して、再利用している。」

「旅人なら金はあるだろう?新しいのを買った方が早い。」


「うっす。」


 あえなく敗北を喫す。この世界じゃリサイクルがスタンダードか。鉄製ならそうだよな。見習いの手習にももってこいだし。上の生産施設に行けば、初心者プレイヤーが順番待ちしていそうだ。俺も、金属加工の技術は欲しいんだが、イベント期間中にすることではない。


「じゃあ、俺もその人たちに作って貰えば!」


 素材は持っていないが、その人の手出しで、素材費+加工費を支払えば作ってくれるんじゃないか?問題は、道具屋で買うのと、どちらが安上がりか、だ。一般的には大量生産できる店売りの方が安くつくはずではあるんだが、一本立ちしていないプレイヤーの作ったものなら、可能性あるのでは?


「まずは、見積もり出してもらうか。」


 再度厨房の方に頭を下げ、足早に2階へ向かう。そういや、ギルド酒場無料キャンペーンは盛況だったろうか。せっかく交渉したのだから、プレイヤーには感謝して欲しいものだ。サリアちゃんがウエイトレスしていないのは規約違反じゃないのか?滅茶苦茶忙しかったから、厨房の人たちの俺に対する目つきが怖かった説あるな。


 2階に到着して、作業場の方へ向かう。最初期に訪れた時よりも人が減っている気がする。みんな独立したか、NPCのとこに修行に出たか。第2エリアに行ったって線もある。アインスの街付近では鉄資源は心許ないしな。


「こんにちは。私はGAKU。」

「鍋を作ってもらう場合、如何程だろうか。」


 火に向かってはいるものの、作業をしている様子ではない女性プレイヤーに話しかける。中身が女性かはわからん。今回は前回の失敗を汲んで、名乗りから始める。意図せず、AIみたいになってしまった。俺が話しかけられる側の立場なら、警戒してしまう入り口。他のみんなは、どうやって知り合っているのだろうか。もう、友達の作り方も忘れてしまっている。そう思うと、兵太夫は自然だったな。ライト君も陽キャのかほりだったし。


「鍋?熟練度上げに使ったやつでいいなら持ってけ。」

「素材代でいいよ。」


「おお!ありがとう!」


 これはラッキー。懐の深い人に巡り会えた。提示された素材代を渡しても店売りよりも安上がりだ。確実に風が吹いているのを感じる。向かい風にならないことを祈ろう。なんか、お礼に渡せるものないかな、とインベントリを探ってみるものの、魚か土くらい。あ、あれなら。


「プリン食べる?」


「プリン?ああ、そう言うこと。いや、いいよ。」

「いい酒があったらくれ。」

「私、n/n。刀鍛治になりたいんだ。」


「そうか。」

「俺はGAKU。趣味に生きると決めている。」


 こないだ喫茶店で作ったプリンが一つ余っていたことを思い出した。髭の紳士にと置いていこうとしたが、断られたんだった。そして、今回も断られてしまった。美味しくできたのに。一般鍛治師こと、n/nさんは辛党だったか?刀拵えるのに酒なんかを奉納することもあるみたいだし、それで酒が必要なのか?刀鍛冶にはなりたいけど、他の武器は打ちたくないらしい。また、妙なこだわりだな。この街に刀鍛冶がいないから弟子入りもできないんだと。もう少ししたら、第2エリアの街に行く予定だったそうだ。いいタイミングで出会えたな。


「酒はないけど、いい水なら少しある。」


「本当!?」

「少し分けてくれない?」


 水には乗ってきた。焼入れで使うのかな。トノサマフロッグの水袋からn/nの出した容器に注ぐ。水袋を出した際には怪訝そうな顔をしていたが、特に何も言わず容器がいっぱいになるのを待つ。確かに、水袋見た目があれだもんな。明らかに容積が割に合ってないし。


「いい水!ありがとう!」


「こちらこそ、恩にきる。」


 フレンド交換後、お互い礼を言って別れる。刀鍛冶を志す女性、n/nさんか。日本刀かっこいいもんな。あれは厨二心をくすぐられる。俺にはどうせ扱えない代物だろうが、男なら一度は帯刀してみたい気持ちもある。現代日本では美術品として扱われることも多いが、やはり特筆すべきはその切れ味だろう。いい酒ができたら、一振り交換してくれないかな。所有に申請なんぞ面倒な手間は必要なかろうし。今のところ、作るとしたら洋酒なんだが。洋酒をお供えして、刀鍛冶の神は喜ぶのか?やはり、日本酒か?米か。






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