ep.79
「マダムはリンゴをやらないのか?」
何も説明がないまま、マダムは蛇を撫で続けるので痺れを切らして確認をとる。俺が与えていいと言うことは、害があるものではないんだろうけど、何かやらない理由でもあるのか。出不精とか?でもこないだは店閉めてたから、そういう時に必需品の買い出しをしているもんだと思っていた。氷の魔法つかっていたから、保存もできないわけではなさそうだし。確かにプレイヤーのインベントリほど便利ではなさそうだが、”魔女”を冠するくらいなら、時を止めるくらいの芸当はできそうなもんだが。
「色々あんのさ。」
色々か。なら仕方ない。人間生きていれば色々あるからな。あれほどの力を持っているのに、憂いを全て払えないとは。こちらの世界もなかなかの魔境と言えるのだろう。まったく、恐ろしいことこの上ない。
「では、時折持ってこようか?」
「喜ぶよ。」
マダムの側に侍っている蛇も透明化を解いて、こちらを見つめてくる。あくまでも蛇が喜ぶというスタンスは崩さない。まあ、こちらも、生き物に喜ばれて悪い気はしない。サモエドならもっといいのに。いや、もしこの蛇がサモエドだったら嫉妬で狂いそうだから、蛇でよかった。この街にはペットを飼うという文化はないのかもしれない。やっぱ、王都か。でも第2エリアの街も釣具屋とか専門店があるみたいだし、調査は必要だな。
取引も終わったので、店を出る。地面が濡れているな。魔道具屋にいる間に一雨降ったんだろう。そんな長い時間いたのか。蛇と遊びすぎたかな。リンゴがなくなったから、仕入れに行こう。手持ちがあると蛇に見つかるから、種の確保と酵母の仕込みも次来るまでにはやっておこう。美味しいリンゴが作れるかもしれないからな。楽しみにしておくんだ。蛇と仲良くなれたらお願いしたいこともある。もしかしたら、攻略が一気に進む救世主となるかもしれない。
道具屋でガラス製の入れ物を買い、スーパーでリンゴを買い足す。ついでに店員さんにこの街の流行っていない飲食店について聞いてみたものの、わかりません、と。もう一度トライしても結果は同じ。初めてNPCらしいNPCに出会えた気がする。古き良きNPCだよ、あなたは。ハイスペックな奴らに囲まれて窮屈な思いをしているだろうが、あなたはそのままでいい。
「だが、困った。」
NPCの挙動に一喜一憂している場合じゃない。なんとかして、ポイントを稼がにゃならんのに。こう言う時に伝手がないのが痛いな。人脈人脈言っている怪しい集団の気持ちが少しわかる。ひとまず、飲食店を探しては見るものの、話を聞いてくれそうな寂れた飲食店は見当たらない。西門付近のウサギ肉なんかを焼いている屋台は人気だし、食堂なんかも賑わっているように見える。あら、ここの厨房に立っている人、プレイヤーじゃないか?実際に勤めている料理人プレイヤーは初めてみた。この人の店なんだろうか。どういう経緯で店を持つようになったのか聞いてみたい。だが、忙しそうだし、タイミングが合えば、だな。
自分の城を構えているプレイヤーを見れたおかげで、またモチベーションが上がった。方法は分からんが、不可能ではない、と言うことだな。ガチャの景品で拠点が手に入る可能性もゼロではないんだ。それなら、当たるか当たらないかだから五分。しかも俺は運に振っているから、五分以上の勝負ができると言うわけだな。
「ない。」
結局街をうろうろ探し回ってはみたものの、なんの成果も得られず。足を棒にしたのみだった。ライバルたちは、この間もポイントを貯めていることだろう。俺だって、早いとこ場所決めて、仕込みに入りたかったよ。
「かくなるうえは!」
もう、こうなったら、勝手に出店すればいいんだ。違法かどうかもわからんし。そもそも畑を城壁沿いに作っているんだ。グレーゾーンを歩くことに関しては一家言ある。別に店舗の形にこだわらなくてもいい。水源はトノサマフロッグがある。あとは火があれば、料理としてできないことはないのだ。だが、問題点も。人通りの多いところには監視の目も多いと言うことだ。売り上げを確保するなら、人通りを優先すべきだが、法的にも安全性を確保するなら、人里離れた場所が理想的。石で焼き台作りやすいから、南の城壁沿いに構えようかな。
「サリアちゃん使うか。」
サリアちゃんに食わせて、広告塔にすれば人は勝手によってくるだろ。なんなら、食わせなくたっていい。食わせたら、不味いと言われる可能性あるからな。掲示板にサリアちゃんが食べてたらしいよ、なんて書こうもんなら、その瞬間から噂が広がり俺はがっぽがっぽ。それだって嘘はついていない。あくまでも”らしい”だから。この世界は肖像権だとか、その辺の制度はまだ整っていないはず。やるなら、今しかない。文句があるなら造形良く産んでもらった運営に、だ。法的にも安全性を、とか言っておきながら、我ながら悪党だな。




