ep.6
ここのコーヒーを参考にしようと決意を固めたところで、ワールドアナウンスがあった。どうやら死人が出たらしい。そいつは戦場で死ねたんだろうか。まさか空腹のせいじゃないよな。その場合俺のせいということになるのか。だがデスペナルティはジョブが旅人の間は問題ないらしい。別の職についた時から適用されるそうだ。よかった、俺が恨まれることにはならなそうだ。
はたとこの国のことを全く知らないことに気づく。ゲーム開始後すぐにコーヒーを探し始めたからな。俺のこのゲームでの記憶はスポーン地点とこの喫茶店だけだ。次回、この店に辿り着けるかどうかも怪しい。この街の情報を手に入れるべく、名残惜しくも腰をあげる。
「ありがとう、美味しかった。また通わせてもらう。」
「ああ、2,000リルになる。」
またひとつ知っていることが増えたな。こちらでは通貨はリルというのか。コーヒー1杯1,000リル。現代と比べてもかなり良いお値段だが、それ相応の価値はあったな。
「せ、1,000リル、」
「うん、どうした。」
スマートに支払って立ち去ろうとするが、手持ちが足りないことに気づき愕然とする。プレイヤーに初期に与えられたのは1,000リルだったのか。そう考えたら、コーヒー1杯1,000リルって結構贅沢品じゃないのか。輸入品か、円安なのか。やっぱり最初に来ていい店じゃなかったんだと自責の念が勝鬨をあげる。これは、無銭飲食ということになるのか、なるよな。俺はゲーム開始数時間で犯罪者となってしまったのか。てか、高すぎじゃねぇか、この世界の嗜好品。いや、ここが高いだけの話か。したいことを全部するためにこちらに来たが、俺の夢の趣味ライフにいきなり暗雲が立ち込める。一限の客にツケなんてしてくれないだろうし、一縷の望みをかけて謝罪をする。
「すみませんでした!金が足りません。」
「いくらあるんだ。」
「1,000リルほどなら。」
勢い余って金と言ってしまったが、会話は成立した。都合いいように変換してくれているんだろうな。
平身低頭、どころか土下座せんばかりの勢いで謝罪の言葉を口にする。なんなら、その高そうな靴を舐めたっていいぞ。こうなったらパッションだ、パッション。相手に考える隙を与えない、熱量で押し切る。何事かとブロンドヒゲの老紳士がこちらを怪訝そうな表情で見ているのが横目に入る。何見てんだこら、見せもんじゃねえぞ。こっちだって必死なんだよ。
「何ができるんだ。」
店主はため息をつきながら、何ができるかと問うてきた。
「暴れウサギの皮と肉なら出せます。」
よし、ワンチャンスが生まれた。官憲に突き出されないためならなんだってする。
「足りんな。」
暴れウサギのドロップ品も価値が高くないことが判明した。それもそうか、チュートリアルモンスターだったし。なんとなく相場も理解できめでたしめでたし、って言っている場合じゃない。状況は何一つ好転していない。




