ep.5
サクッと読めるように1,000字前後を目標にしていますが、どうでしょうか。
「お前は、旅人か。」
「ん。」
「ああ、そうだな。旅人だ。先程こちらに来た。GAKUという。」
一呼吸おいてしまったが、こちらでのプレイヤーの呼称であることに思い至る。そういえば俺も旅人だった。別に名乗る必要もなかったろうが、ここはいい店だし。これからも通うことになるだろうし、コミュニケーションをとっておいて損はないだろう。
「そうか。ブレンドだったな。ちょっと待ってろ。」
店主はなんとなく納得したような表情を浮かべ、作業に取り掛かっている。店主の名前は教えてもらえなかったな。好感度とかあるのかな、何度か通ううちに親しくなれるんだろうか。
とりあえず、アイスコーヒーを飲んで乱れていた呼吸も完全に落ち着いた。コーヒーを待つ間、周囲を見渡してみる。調度品もいい趣味をしている。カウンターは一枚板、落ち着いた色味でピカピカ。端の一輪挿しに白い花。百合のような花弁の大きい綺麗な花だ。ネルドリップの道具もサイフォン式のも見受けられる。俺はどちらも嫌いじゃないぞ、うん。奥にはコーヒー豆とカップ類、スポットライトが照らしている。実験道具のような、ダッチ式のも数台ある。先程のはこれで淹れたんだろうな。店主のこだわりを感じてさらに嬉しくなる。コーヒー豆の置かれている棚の隣には扉が。バックヤードなのかな。
奥の二人掛けには先客がいた。新聞のような紙媒体のものをペラペラとめくって難しそうな表情を浮かべる。トップハットを傍に、ブロンドヘアーとヒゲが目をひく。こちらも二枚目の渋い男だ。老後の日課なのだろうか、あの場所が特等席なのかもしれない。近くにこんな店があるといいよな。俺も近くにこんな店があったら毎日通う。カウンター4席にテーブルがひとつ、外観と違わず小さな空間だ。だが中は落ち着いた雰囲気にコーヒーを入れる音、店主の所作の美しさが目立つ。
「お待たせしました。」
待ちに待ったコーヒーが来た。淹れ始めた側から香りがたちのぼり、辛抱たまらんかった。今回はネルドリップ。この辺は豆によって変えたりしているのか、それともゲームの描画的にこれ一択なのか。アイスコーヒーは味わうまもなく飲み切ってしまったからな。こちらは大切に飲もう。息を吹きかけ、一口啜る。
「ほう。」
感心したような、ため息のような、どちらともつかない音が漏れた。これは最初にきちゃいけない店だったかも知らん。この世界の頂点の味だろうとさえ思う。そんな1杯だった。もっとカジュアルな店から始めればよかったかな、でもここ以外見つからなかったし、と頭の中の俺が自責と自己弁護を繰り広げるが、そんな最中でもコーヒーを飲む手は休まらない。この味を覚えるため、ここに通うことを決心する。
程なくしてコーヒーを飲み終える。非常に有意義な時間であった。
『初めて死に戻りをしたプレイヤーが現れました。これよりデスペナルティを追加します。』




