ep.75
「何があった!?」
「あ、やべっ。」
「(ルー、透明に!)」
門からあまり離れていないことを失念していた。衛兵さんが、ゾロゾロとやってくる。それになんだか、臨戦態勢。そりゃそうだよな、門の近くで脅威があれば確認する、そういう仕事だ。衛兵さんの中には、見知った顔も。今日はよく世話になる。ミア、こちらにもボーナスを。ルーには、透明になるように伝え、衛兵さんの方に向き直る。
「時折見かける顔だな。」
「ここで何があったか知らないか?」
「ども。」
「それが、さっぱりで。いきなりスライムが爆散したように見えました。」
相手も俺の顔を覚えているらしい。良いこと、なのかな。日頃の挨拶の賜物だ。咄嗟に嘘をついてしまったが、よかったのだろうか。まあ。嘘でもないのだが。さっぱりなのは事実。爆散したように見えたのも、事実。あれ?本当のことしか言ってないな。なんだ、とんだ正直者じゃないか。
東門付近で、謎の爆発が起きたとかで、姿の見えない敵に緊急討伐クエストなんぞ出ないよな?調査くらいは行われるかも?衛兵が上に報告したら、有り得るだろうな。また、お尋ね者になってしまうのだろうか。ルー、そうなったら、この街とはおさらばだ。第2エリア以降で余生を過ごそう。
「そうか。我々はこの辺りを捜索してみる。」
「君は、街の方へ戻ったほうがいい。」
なんて、いい人なんだろうか。こんな俺を心配してくれるだなんて。鑑だな。元々、戻る予定だったし、衛兵さんもそういうから、戻ろうか。なるべく大ごとにならなければいいな。寝て起きたら、事態も落ち着いているだろ。こんなん、楽観視するしかない。ルーもMPは回復したか?マダムんとこの回復薬は効果が高くて助かるな。
捜索隊が出たからか、東門の衛兵さんは1人だけ。いつもより警備が薄い。有事の際は使えるな、コレ。どうしても街に入らなければならない時は、外で問題を起こせば警備が手薄になる。覚えておこう。ただの知識として終わることを願うばかりだ。
本日2度目となる道を通って、まず大衆浴場へ。相変わらず時代錯誤の大正ロマン。ルーはどうなるんだろうと思っていたが、入ることもできるみたい。だが気分の問題か、今日は入らないみたい。雨にも臆することはなかったので、水が嫌いというわけではなさそう。ロッカーの中に入っておくのも嫌なようなので、仕方なくロッカーの上で休んでいるように伝える。すまないな、少し待っていてくれ。【生活魔法】で綺麗にはいられるんだが、定期的に風呂には入りたいのだ。現実世界でスーパー前に繋がれている犬は、こんな感じなのか。あんまり、ゆっくりできそうにないな。次来るときは、どこか安心できそうな場所か人に預けてくるべきだな。第一候補はミアか。その前に、ライト君が教えてくれた宿に泊まれば解決する話しか。
風呂から上がり、体をふく。服を着ると、自ずから背中に降りてきた。待たせました。おかげでいい風呂に入れたよ。やはり、狭くてもいいので、拠点が欲しいな。現時点で拠点を持ったプレイヤーは出てきたのだろうか。ワールドアナウンスの時には、新システムだのアップデートだの言っていた気がするが、俺には恩恵が届いているのだろうか。東門から坂道とは反対の商工エリアに続く道には結構空き家もあったようだし、お願いすれば使わせてもらえんのかね。うわ、ギルドマスターからの提案、受け取っておけばよかった。もしかしたら、拠点もらえたのかも。それもこれも、あのギルドマスターが胡散臭いのが悪い。
「やっぱり、厳しいなー。」
休憩所で牛乳を飲みながら今後の策を案ずる。俺がガチャポイントを稼ぐには、【料理】か【農耕】を使うしかなさそう。【農耕】は時間がかかるし、上限もある。安定供給もわからないし。たいして、【料理】は調理はギルドでするとしても提供場所がない。同時進行でやれれば、ポイント的にも美味しいんだが、軌道に乗るまでが大変そうだ。
「明日は、店探しか。」
天候に関わらず、明日は畑に行って種を植えてみよう。その後、街歩いて、どこか場所がないか探してみようかな。調理器具も揃ってたらいいんだが、居抜きとか間借りとかの文化はあるのだろうか。なかったら、ギルドで大量に仕込んで販売だけするしかないか。できれば屋台のような、ライブキッチンのような臨場感があるほうが、プレイヤーにも住民にもウケが良さそうなんだが。インベントリから渡すより、安心できるだろうし。作るものの構想はある。最近流行りのアレだ。食べたい欲と面倒臭さを天秤にかけて、面倒さが勝つやつ。こっちの世界では気軽に挑戦できる。最低限必要なものも、スーパーにあるのは確認済み。
久しぶりの神殿だ。まだ旅人のプレイヤーは少なくなっているのか、イベントだというのに、意外と人の出入りは少ない。みんな慎重になっているのだろうな。強い奴らは、第2エリアに行っているだろうし。第2エリアが開放されてから結構経ったし、そろそろ第3エリア開放の時も近いのかもしれない。前線は結構ポイントを貰えそうだが、そんな奴は運が弱いはずだから、大丈夫。
「あなたですか。」
「久しぶりだ。」
コレで頼むよ、と寄進を。俺も、小金持ちになった。前のように全額を寄進したりはしない。神殿に魔物避けなんかが張ってなくてよかった。魔物が入ってくることを想定してないのか?それともテイムしているからかな。後者っぽいな。
こちらの神像にも手を合わせ、いつもの寝床へ。やっぱり、俺の自作の木彫り神像と比べたら、神々しさが段違いだな。当然か。ああいうのって、作り直したりしても良いのかな。捨てたりはしてはいけなさそうなのはわかるが、お焚き上げか?豊穣神だから、自然に返すのが正解?代々の全部祀っていても構わんのか。
「ルー、地面よりも柔らかいだろ。」
ルーは枕元にいる。初めての寝具はどうだ?少し硬いが、悪くないだろ?明日感想を聞かせてくれ。流石に神殿で悪いことする不届な輩はいないから、安心して休んで良い。
そう言いながらログアウトする1人と一匹の姿を、タリアは興味深げに眺めていた。




