ep.73
「人違いです。」
微笑みを湛え否定する。一応このゲームは、全世界対象でどんな言語でも設定言語に翻訳されてタイムラグなく会話ができる、らしい。だから、アナタノコトバワカリマセン、作戦は使えないということだ。ハイテクノロジーというのも考えものだ。それにしても、闇討ちをするなとは言ったが、正面から来い、とは言っていない。そもそも、その気概があるなら、あのギルドの時点で止めなさいよ。コーヒー飲んで気分良くなって、警戒が薄れていたのは否めない。【隠蔽】が取得できたからと言って、久しぶりに西門の方にきたのも俺のミス。
「嘘つけ!見てたから間違いない!」
「お前、サリアちゃんとどういう関係だ!上の階に行って何をしていた!」
おい、このゲームはいつから全年齢対象になったんだよ。親の情報でログインしてない、僕?年齢制限を掻い潜るのが男の宿命なのは理解できるが、あくまでも個人利用の範囲でだよ。そのうち変なメールが届きだすから、今のうちに手を引きなさい。先輩からの忠告だ。
心の中では子をあやす親のように接するが、こんなの無視一択だ。相手にする方が悪い。何もしていないと言って信じるような奴は、最初から絡んできたりはしないだろうから。サリアちゃん、自分のファンはしっかり教育しなきゃダメじゃないか。こんなに高圧的に来られたら、か弱き一般男性が虐げられてしまうよ。
「おい、無視するなよ。」
親衛隊を無視して門の方に歩いていると、肩を掴んで引き留めようとしてくる。ルー、危ないから逃げておきなさい。君の初陣には向かない相手だ。ヒトはここまで醜くないから。あとで、畑で落ち合おう。心の中でそう伝えると、理解してくれたのか、足をつたっていくのがわかる。テイムしているので、位置はなんとなくわかるのだが、一度意識を他に向けると簡単には場所が掴めない。すごい能力だ。俺も【気配希釈】頑張らないとな。
「おい、なんとか言えよ!」
「すいませーん、衛兵さーん!」
それにしても通行人も冷たい奴らばっかりだ。少年によるおじさん狩りが行われているっていうのに、間に入って止めてもくれないのか。ゲームの世界でくらい、事なかれ主義やめないか?俺が通行人側だったら、何もしないから、至極真っ当な対応ではあるんだが。慈悲はあっても良いじゃないか。絡んできた親衛隊を無視したまま、門にいる衛兵さんに助力を頼む。それにしても、ここが門の近くで助かった。街中の細路地で闇討ちしなかっただけ、まともな人種かもしれないな。そんなわけないか。
「どうかしましたか?」
衛兵さんは、不思議そうにしながらもこちらに気づいて近づいてきてくれた。良い人でよかった。貴方の給料はどこから出ているんでしょうか。公務員なら、ミアのところが出しているのだろうか。プレイヤーの税金関係もどうなっているんだろうな。冒険者なら、冒険者ギルド伝いで引かれているのかもしれない。ミア、彼にボーナスを与えてやってくれ。この世界では、金より栄誉だろうか。
「彼の水属性が暴走してしまったみたいです!」
「取り押さえてください!」
「は?おい、やめろ!」
旅人も属性の暴走があるのです、と迫真の演技で伝える。すると、属性の暴走のことを知っている衛兵さんはすぐに親衛隊を取り押さえてくれる。取り押さえられた親衛隊は、状況を理解できないのか、振り払おうと暴れ出し、衛兵さんは力を更に込めるといった好循環が。
「ありがとうございます。」
礼を言って颯爽と立ち去る。ルーを離しておいてなんだが、戦闘に至らずに助かった。俺が勝てるわけないからな。彼はどうなるのだろうか。落ち着くまで牢屋とかなのかも。でも、このやり方恨み買いそうだな。大人しくやられておいたほうがよかったか?デスペナルティはギリギリ引っかからないし。そう思っても後の祭り、俺に絡んできたやつはすでに衛兵さんに連行されている。街の中心の方に行っているが、そちらに牢屋があるのだろうか。兵士の本署的なのと一緒に。
「主演男優賞じゃないか。」
「兵太夫!」
「見てたのか?」
「サリアちゃんと手繋いでたのか?」
「最初からじゃねえか。」
門を通り過ぎようとしたところで、声をかけられる。主演男優賞と言われてその自覚があるから振り向いたんじゃない。聞いたことのある声だったからだ。声をかけてきたのは兵太夫。装備は大して変わっていないが、釣竿はなんかすごくなっている。そして、俺が絡まれるのを最初から高みの見物していたらしい。じゃあ、助けろよ。
「一般釣り人に戦闘力があるわけないだろう。」
「魚とのファイトは力使うだろ?」
「魚相手にだけ振るうから良いんだ。」
それが釣り人の矜恃というものだろうか。騒動の当事者としては堪ったもんじゃないが、プライドなら仕方ないな。俺もプライドやこだわりを優先する時もある。
「海は見つかったか?」
「お前、洞窟ってダンジョンだったじゃないか。」
「過度なネタバレは嫌だろうと思って。」
「おかげで、釣りが楽しいよ。」
そう言って魚を寄越してくる。貰ったのは聞き覚えのある魚だが、若干この世界の色をつけられた名前の魚たち。前に食べた鮎をはじめ川魚は結構な数入っている。川魚、釣り尽くしてたんだろうな。頭打ちなところに、海の報告があったんだろう。結構な数だ。感謝の量を感じる。これで当分の食事には困らないな。誰か、牧畜プレイヤーはいませんか。肉があれば完璧なのに。
「果物ができたらやろう。」
「農家にでもなるのか?」
「いや、趣味の範囲だ。」




